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未来の会

「医師家庭でのモラハラ」をどう防ぐか

「医師家庭でのモラハラ」をどう防ぐか

前回、「医師家族の悩み」の話をしたが、その続きを書いてみたいと思う。なぜならその後、診察室にも何人かその問題を抱えた人が訪れたからだ。

 もちろん個人情報の部分は明らかにできないが、その人達の何人かは「医師夫人」だった。夫である医師達は、自分で病院やいくつものクリニックを経営している“やり手”であった。患者さんからカリスマ医師として慕われている医師もいた。

 では、その妻達が何を悩んでいるのか。一口で言えば、それはモラルハラスメント、モラハラである。

 経営者としても医師としても自信満々の彼らは、自分の妻に対して横暴に振る舞い、「お前は馬鹿だ」「誰のお陰で生活できていると思っているんだ」といった人格を否定する発言を繰り返していた。

 ある医師は「これは俺の稼ぎだ」と妻には最低限の生活費しか渡そうとしなかった。また自分の子ども達に、「ママは頭が悪い」などと吹き込んでいた人もいた。

 おそらくその医師達も根っからの悪人ではなく、超人的な努力で経営と医療に尽力しているのだろう。そして、その中で知らない間にストレスが溜まり、もしかすると燃え尽き症候群の一歩手前の状態なのかもしれない。

 それでも自分の疲れを認められず、自分を防衛するために万能感や特権意識で武装し、最も身近にいる家族にそれを見せつける人もたまにいる。「家族へのモラハラを繰り返す医師」はそういう心理状態にあるのかもしれない。

 もちろん、だからといって家族に「我慢しなさい」とは言えない。私は何人かの「モラハラ医師夫に悩む妻達」に「ご主人も一緒に来ていただけませんか」と頼んだが、予測されたように返ってきたのは「忙しくてとても行けない」という答え。

 それどころか、「メンタルクリニックに通うなんて恥だからやめろ」と医師にはあるまじき発言で、妻の通院を阻止したケースさえあった。

疲れや弱みを見せ、適度に休みを取る

 この「医師家庭でのモラハラ」をどう防げばよいのか。

 本質的には、医師が見せかけの万能感で自分のストレスを覆い隠さなくてもよいよう、自分の疲れや弱みも家族に見せたり、できればいつもギリギリの状態で働かずに適度に休みを取ったりすることにしか、解決はない。

 いま大学病院などでは「働き方改革」が進められており、当直明けや休日当番の医師が強制的に休みを取るようになっているところもある。

 私が関わっているある大学病院も、最初は「当直明けで帰れと言われても、外来が人手不足になるから困る」「いきなり平日に休みができても何をしてよいか分からない」といった不満の声も上がっていたが、「決まりだから」の一言で帰ったり休んだりしているうちに、雰囲気が変わってきたのを感じる。「休みを利用して子どもの授業参観に行ってきた」「マッサージを受けてみたけど、あれは結構いいね」などと仕事以外の話をする人が増え、医師達の表情にもどこかしら余裕が出てきたのだ。「この医師達はこれまで一人の人間ではなく、“24時間ドクター人格”だったんだな」と改めて気づかされた。

 先月号では「医師の子弟にはひきこもりが少なくない」というテーマを取り上げたが、それを読んだ何人かから「他人事ではない」「もっと知りたい」という感想を聞いた。

 実はこれは牧師家庭で詳しい研究があり、牧師(Pastor)の子ども(Kid)ということで「PK問題」とも呼ばれている。先行研究によると、PK達は「礼拝に必ず出席するため日曜に外出できない」「部活をしても日曜の試合に出られない」といった牧師家庭ならではの問題もあるが、「親を尊敬する人達の前では“良い子”でいなければならない」「学校で教師から『お父さんは立派』と言われプレッシャーを感じる」「来客が多く家族だけのプライベートな時間を持ちづらい」「牧師になりたくなくても周りから強く期待される」など、医師家庭とも共通する点がたくさんある。

 PKは、こういう中で「非の打ちどころがない優等生を演じ続けるタイプ」と、反対に「親や信徒に反抗し非行に走ったり退学したりするタイプ」とに二分されるそうだ。

家庭にしわ寄せが来ることを忘れずに

 医師の場合は牧師ほど特殊な仕事とはいえず、その子弟の悩みがドクターキッズ、DK問題などと称されることはない。ただ、特に個人開業医の子弟の場合、「いつも周りに職員や患者さんがいて家族だけで過ごせない」「親が『先生、先生』と多くの人に尊敬される様子と、家庭内でだらしなく過ごしたり不機嫌に家族にあたったりする様子とのギャップを目の当たりにする」「母親も職員として働いており、両親が上司と部下の関係」など一般家庭にはない状況が多く発生する。

 それらは親にとっては「大事な仕事だから」という一言で片づけられることだが、子どもにとってはそうはいかない。「父親は土日が完全に休日、家族だけでドライブやキャンプに出掛ける。母親は父親と友だちのように対等で仲良し」といった話を友人から聞くと、「うちと全く違う」と愕然とするはずだ。そして、いくら父親が医療という仕事に就いていたとしても、子どもとしては「いつも家族で一緒にいられる方がいいな」と思うのも仕方ない。

 実は私もそうだった。私の亡父も開業医だったが、ある時期は家族で外食していても病院から連絡が入って父だけが戻ったり1泊旅行が突然、日帰りになったりすることが日常化しており、まだ小さかった私の弟はよく泣いていたのを覚えている。

 社会からは高い評価を受ける医師や医療従事者。しかし、その人を支える家庭にはどうしてもいろいろなしわ寄せが来ることになる。患者さんの命を救い健康を守るのが絶対的な医師の使命であるが、家族のことも忘れないでほしい。そういう思いで先月に引き続き、このテーマについて語らせていただいた。

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