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未来の会

第210回 厚労省ウォッチング
「OTC類似薬の保険外し」の落とし所は何処に

第210回 厚労省ウォッチング「OTC類似薬の保険外し」の落とし所は何処に

市販薬と似ていながら公的医療保険が適用される「OTC類似薬」について、厚生労働省は保険適用を見直す作業に着手した。医療給付費の抑制を狙い年末迄に決める意向だが、OTC類似薬の処方を受けている人にとっては自己負担が膨らむ。長期の治療が必要な人や重症の人への配慮は欠かせず、同省幹部は「双方のバランスの取り方が難しい」と漏らす。

市販薬(OTC医薬品)と成分や効果が似ているのに保険が利くのがOTC類似薬だ。OTCとは、処方箋無しでもカウンター越し(Over The Counter)に買えるという意味で、OTC類似薬は湿布薬や保湿剤、胃腸薬など軽症向けを中心に約7000品目有る。5月成立の改正薬機法で医師の処方に基づく販売を原則とした。但し市販薬との違いに関する明確な定義は無い。

市販薬と違って広告費不要で保険が利くOTC類似薬は、市販薬より安く付くケースが大半。厚労省の試算によると、乾燥症状の皮膚に塗る「ヘパリン類似物質クリーム」について一般的な使い方をした場合の負担は、OTC類似薬なら受診等に必要な費用も含めて2847円(自己負担3割)という。一方、市販薬は5・4倍の1万5400円。他の薬も概ね市販薬の方が負担は重いという結果だった。

保湿剤や湿布等のOTC類似薬は、安価だとして安易に処方を受ける人も少なくない。医療費膨張の一因とされ、OTC類似薬を保険適用外にすれば薬剤費を数千億〜1兆円程度削減出来ると試算されている。又、処方を受ける為の通院が減り、医療機関の診察費、薬局の調剤費等も削減出来ると見られている。

2022年度の国民医療費は46・7兆円(薬剤費9・9兆円)に達し、厚労省は40年度には70兆円を超えると推計している。現役世代の社会保険料軽減を訴えて4兆円の医療費削減を目標に掲げる日本維新の会はOTC類似薬に着目。25年度政府予算に賛成する見返りとして、自民、公明両党にOTC類似薬の保険外し等について協議する事を求めた。その結果、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」にはOTC類似薬の「保険給付のあり方の見直し」が盛り込まれた。

只、日本医師会は「自分の判断で市販薬を使うと、適切な治療を受けられないまま重病を見落としたり、重篤化したりする可能性が高まる」とし、保険外しの動きに反発を強めている。自民党内にも厚労族議員等慎重派は少なくない。製薬企業で作る日本OTC医薬品協会は軽い疾患なら市販薬でカバーする「セルフメディケーション」推進の旗を振っているものの、広くは認知されていない。

OTC類似薬の保険外しについて、厚労族議員の1人は「受診手控え等のリスクに加え、長期に渡って薬を必要とする人には負担が重くなる。保険適用の範囲縮小は相当慎重に議論する必要が有る」と言う。こうした声を受け、骨太の方針にはOTC類似薬について「保険から外す」という趣旨の文言は入らず、子供や慢性疾患の人、低所得の人への配慮を要するとの趣旨も盛り込まれた。

7月の参院選では消費税減税や社会保険料の負担軽減を訴えた政党が躍進した。少数与党の石破茂政権にとって民意を受けた野党の意向を切り捨てる事は難しい。元厚労省保険局長の同省OBは「重症患者や長期に薬を必要とする人への配慮として、対象の薬や疾患の線引きは慎重にやらねばならない」としながらも「必要性の薄い薬を貰う為の通院は減らす必要がある」と言う。その上で「長期収載品同様、選定療養に組み込み、処方を希望する人に追加負担を求めるのが落とし所だろう」と見通す。

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