
厚生労働省の薬系技官や薬業関連の業界団体から「医薬局長」ポストの奪取を求める声が止まない。薬系技官の最高位は医薬担当の大臣官房審議官で、局長ポストの獲得は長年の悲願と言える。悲願の達成に向けて昨年夏の幹部人事で布石になるかもしれない動きが有った。
現在の医薬局は事務系キャリアの城克文氏が局長を務め、薬系技官の佐藤大作氏が医薬担当の審議官として支えている。事務系キャリアが局長に就任し、薬系技官には審議官が割り当てられるという「役割分担」が長く続いてきた。しかし、旧厚生省の人事制度に詳しい事務系キャリアの元幹部は「以前から薬系技官に局長ポストを任せるかどうか議論が続いている」と証言する。「医薬局長は常に薬害リスクに晒されている。万が一、薬害事件が起こった際に、薬学的な知識に乏しい事務系キャリアが局長に就いているのが果たして正しいのかという問題意識は常に有る」と指摘。その上で「医系技官も医務技監という事務次官級ポストを得たので、薬系技官が局長ポストを持っても違和感は無い」と付け加える。薬系技官の元幹部も「薬学部は4年制から6年制に移行した。専門性がより高まっている時代だからこそ、これから入省して来る若い人に対し、希望が有っても良いのではないか」と提案する。
霞が関内のしきたりとして、新たに人事ポストを得る場合、ポスト同士を交換する「バーター」が基本だ。或る局長ポストを得たいなら、別の局長ポストを差し出す。局長ポストが無い場合は、審議官ポストや課長ポスト等、複数の役職が必要だ。
こうした議論に追い風となりそうなのが、昨年4月に薬系技官向けに消費者庁の幹部ポスト、「食品衛生・技術審議官」が新設された事だ。現在は医薬局医療機器審査管理課長だった中山智紀氏が務めており、大臣官房審議官ポストに加えて増設された形となった。只、農林水産省と分け合っているので、たすき掛け人事となる見込みだ。先述の元薬系技官は「医薬担当の大臣官房審議官と消費者庁の食品衛生・技術審議官の『1・5ポスト』を差し出せば、局長ポストと交換出来るかも知れない」と睨む。
元々医薬局長は、事務系キャリアの間でもやや持て余し気味なポストだった。旧厚生系の保険局長等と比べ、省内でそこ迄重要視されてこなかった割に、薬害事件等難しい案件が発生し兼ねない。医薬局経験者から選ばざるを得ないが、事務系キャリアのポストはそれ程多くない。「局長の初任的なポストの割に人選が難航していた」(先述の元幹部)という有り様だ。それに局長になれば国会答弁をこなす必要が有り、政府・与党内の根回しのレベルもこれ迄以上に高度な物が求められる。「局長ポストにふさわしい人材がいるかどうかが次の焦点だ」(元幹部)という声も上がる。この元幹部は「自民党参院議員だった藤井基之氏の様な人物なら局長にふさわしかったと思うが、コンスタントに人材を輩出するのは難しいかも知れない」と懐疑的だ。
新型コロナウイルスワクチンの承認を巡り、近年、医薬行政の注目度は高まっている。その一方で、薬系技官の説明能力の低さについては、当時の首相官邸から不満が漏れた事も有った。コロナ下でも感じたが、医薬行政の中心を司る薬系技官の動向は国民生活を左右し兼ねない。もし局長ポストを得るのであれば霞が関内の勢力争いに留まらない、グランドデザインを描いた上で幹部人事に臨んで欲しい。
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