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連合・芳野会長の再選は固い?

連合・芳野会長の再選は固い?
好調の春闘が追い風、大幅賃上げも

2025年の春季労使交渉は3月12日に集中回答日を迎え、今年も大企業を中心に満額回答が相次ぐ等、賃上げの定着に向けて順調な滑り出しとなった。33年振りの高水準だった昨年の5・1% を超える賃上げ率の実現が見込まれる。只、物価上昇を上回る賃上げの実現が急務だが、地方や都市部での中小企業を中心にどこ迄賃上げを続けられるかが焦点となっている。労働組合の中央組織・連合の芳野友子会長が目論む秋の再選の行方にも影響を与えそうだ。

 連合が4月3日に発表した春闘の第3回集計結果によると、定期昇給(定昇)を含む正社員の賃上げ率は平均5・42%。1日午前10時迄に回答が有った傘下の2485組合分を纏めたもので、前年に比べても0・18ポイント上回った。2年連続で5%台の高水準が続いている。基本給を底上げするベースアップ(ベア)は、少なくとも1986組合で実現しており、平均で3・82%に上る。これも前年に比べて0・19ポイント上がっている。

 大手電機メーカー12社の労働組合はベアで昨年を4000円上回る1万7000円の統一要求を掲げ、3社が満額回答となった。満額回答した1社、日立製作所は4年連続の満額回答だ。一時金は6・9カ月が目標だったが、6・5カ月分で回答。同社は「物価の上昇や不透明感が大きく、賃金に対する期待感が昨年よりも強かった」と理由を説明する。

 トヨタ自動車も5年連続で満額回答。月額最大で2万4450円の賃上げで、一時金は基準内賃金の7・6カ月分を回答した。労組側の要求は比較可能な1999年以降で過去最高水準だったという。

 連合の集計に戻ると、中小組合の賃上げ率も5・00%で、ベアは3・73%に上った。比較可能な2015年以降、いずれも過去最高を記録し、 賃上げ率は5%台に乗った。連合は大企業との格差是正に向け、6%以上の賃上げを求めており、連合幹部は「この水準を維持して行きたい」と意気込む。

 正社員だけでなく、パートタイム労働者の賃上げも好調だ。小売りや外食、繊維等の労働組合で作る産業別組織「UAゼンセン」が3月13日に公表した平均賃上げ率は6・53%(時給ベース)に達し、過去最高を記録した。正社員は5・37%(月給ベース)で、パートの伸びが正社員を上回る結果となった。

賃上げ分の価格転嫁が課題

 只、中小企業が持続的な賃上げを実施するのに当たって、ポイントなるのが価格転嫁だ。日本商工会議所の調査(24年10月)によると、人件費や原材料費等のコストを価格に転嫁出来ていない企業は13・1%に上るという。4割以上の価格転嫁が実現出来た企業は52・2%に過ぎない。この内、業種別に見るとサービス業は34・4%と最も低く、企業規模別では10人未満の企業だと45・2%しか価格転嫁出来ていない。

  一方で、一口に賃上げと言っても世代によって恩恵を受ける度合いは異なる。近年は人手不足を背景に大企業を中心に若手の賃上げには熱心だが、中高年世代に対する賃上げの機運は乏しい。

 新卒社員への賃上げの例としては、大手ハウスメーカーの大和ハウスが1月に大卒の初任給を月25万円から35万円に増やした。カジュアル衣料品チェーン「ユニクロ」や「GU」等を展開するファーストリテイリングも初任給を月30万円から33万円に引き上げた。年収換算だと10%増の約500万円強になるという。

 島根銀行も大卒の初任給を1万円、短大卒で2万2000円、高卒は2万1000円増やす。りそな銀行も多くの職種で、大卒初任給を25万5000円から2万5000円引き上げて28万円とする。住信SBIネット銀行も3万円引き上げて33万円に増やす。 時間外勤務手当も含めると40万円を越えるという。この様に初任給を増やす事例は枚挙に暇が無い。

 一方で、賃上げに対する中高年への恩恵は少ない様だ。経団連が24年に会員企業に基本給を引き上げるベアをどの年代に重点配分したかを尋ねた調査では、45歳程度以上のベテラン層と回答したのは僅か1・1%。最も多いのは、一律定額配分の51・1%だったが、30歳程度迄の若年層は34・6%に上った。 今年3月に公表した厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」でも、20〜30代前半の賃金上昇率は3・5〜4・7%なのに対し、40代後半〜50代前半は2・5〜4・8%に止まる。

 只、今回の春闘では中高年世代に配慮した回答も有った。電気メーカー大手のNECは、定年再雇用者に対し、夏の賞与で一律20万円を加算して支給する方針を公表した。NECの様な動きもみられるが、現時点では新卒初任給上昇ラッシュに比べると広がりに欠ける。

 とは言え、全体的に春闘の結果は好調と言える。10月に任期満了を迎える芳野会長にとっては追い風だ。連合会長としては20年振りに3月9日に開かれた自民党大会に出席する等精力的に動き回っており、3選への意欲を隠さない。

 連合傘下の産業別のトップらで構成する「役員推薦委員会」は既に会長選考に向けた議論を開始している。組織内の意見を集約した上で、夏頃に人事を固める建前だが、組織内のパワーバランスが大きく影響する。自由奔放な言動で知られる芳野氏を良く思わない労組関係者は少なからずいる。自治労関係者の一人は「芳野会長に対抗馬を立てるべきだ」と鼻息荒い。一部では松浦昭彦会長代行(UAゼンセン出身)を推す声が有ると毎日新聞が報じている。

 しかし、物価高騰を背景にしているとは言え、労働者が最も重視する賃上げを実現しており、「芳野下ろし」は広がっていない。初の女性会長でもあり、「現時点では大きな失点が無いので、余程の事が無い限りは芳野会長の続投ではないか」(大手メディア記者)との声も根強い。

潜むトランプ関税の影響

懸念材料も有る。それはズバリ、トランプ米大統領だ。4月5日には、全ての国や地域を対象に一律で10%の関税措置を発動した。更に一部の国には追加関税を課し、中国には34%、日本には24%とする方針だ。中国はアメリカに対して同じ34%の報復関税を課す方針を公表し、世界1位と2位の経済大国による追加関税の応酬となっている。

 これを受け、4月4日のニューヨーク株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、終値は前日比2231・07ドル安の3万8314・86ドルとなった。実に5・50%も下落した。終値ベースの下げ幅は、新型コロナウイルスが流行し始めた20年3月16日の2997・10ドル、同年3月12日の2353・60ドルに次ぐ史上3番目の大きさだ。

 実際に追加関税が発動されれば、自動車や半導体関連の対米輸出が多い日本には大打撃になり兼ねない。日本経済を牽引する輸出産業が低迷すれば、来年の春闘にも影響し兼ねない。一部のエコノミストも「輸出産業が落ち込み、大企業は内部留保で持ち堪えられるかも知れないが、中小零細企業への影響は大きいだろう」と分析。「来年の春闘も今年の様に5%台の賃上げを続けられるかは分からない」と見通す。

 芳野会長の続投は早ければ夏にも固まる為、来年の春闘の結果が続投に影響しないが、夏迄に雇用情勢が不安定になる可能性も有る。春闘の結果だけをみれば、芳野会長の続投は固いものの、不安定要因も見え隠れする。

デモ行進する連合の芳野友子会長

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