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滞る新型コロナ「PCR検査」 元凶は〝保健所説〟が濃厚

滞る新型コロナ「PCR検査」 元凶は〝保健所説〟が濃厚
風評被害や財政負担を避けるため検査に気乗り薄

 「私共として、例えば医師会に医師の総合的な判断の結果お願いしたにもかかわらず、PCR検査に繋がっていない事例を聞いていて、それを一つ一つ解消することによって、医師が判断されたものについてはしっかりとPCR検査が行われるようにさせていただいている」

 加藤勝信・厚生労働相は3月13日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルス感染を高精度で検出する「PCR検査」について、インターネットメディアの記者から「検査数が少ないのは問題ではないか」と指摘され、少し憮然としながら、こう反論した。PCR検査を積極的に行うべきかどうかは世論を二分する論争にまで発展しているが、政府の立場は「医療資源に限りがある」として慎重姿勢だ。

 日本国内では新型コロナウイルス感染の有無を「リアルタイムPCR法」と呼ばれる検査方法で確認している。喉を綿棒でこすって採取した粘液やたんに含まれるウイルスについて、特有の遺伝子配列を専用の装置で増幅して検出。増幅するには採取した検体に試薬を加えて温度を上下させる操作が必要で、結果が出るまでには4〜6時間程度かかる。ウイルスの遺伝子が一定の量より多ければ陽性となるが、感染初期等で検体に含まれるウイルスの量が少ないと遺伝子を十分に増やして検出出来ない場合もあるという。

3800件の検査能力に対し実施900件

 厚労省は、1月に中国湖北省武漢市でコロナウイルスの流行が始まった直後からPCR検査の態勢整備に着手。専用の装置を備える国立感染症研究所や全国の地方衛生研究所を中心に、感染状況を把握するための「行政検査」として公費負担でPCR検査が行われる事になったが、検査基準が緩和された2月の中下旬の段階で、1日に最大約3800件の検査能力に対し、平均900件程度しか検査が実施されていない実態が明らかになった。

 「必要と判断した検査をしてもらえない」と全国の医師からも不満が続出し、日本医師会は2月26日、不適切事例がないかどうか、都道府県医師会を通じて全国調査する方針を発表した。記者会見した釜萢敏・常任理事は「国と情報共有し、是正措置を講じていく事が必要だ」と指摘。「医者は必要だと思うものを検査に回している。(現場ニーズとの)ギャップがあり、検査数を増やさないといけない」とも強調した。

 お隣の韓国では、同時期に1日に平均約3400件のPCR検査を実施。検査を希望する人は保健所や政府指定のコールセンターに電話で症状を伝え、案内に従い所定の医療機関で診断を受け、必要と判断されれば検査を受ける仕組みだ。

 今回は医療機関の屋外にテントを建て、防護服のスタッフが発熱等、症状のある市民の検体採取に応じる非常態勢も実施。待ち時間を短縮するため、車に乗ったまま検体を採取する「ドライブスルー方式」を導入する自治体も増加し、その後、1日の検査件数は1万件を超えた。

 韓国は朴槿恵政権時代の2015年に中東呼吸器症候群(MERS)が流行した際、対応が遅れて38人の死者を出した教訓を踏まえ、疾病管理本部の組織を大幅に拡充する等、感染症対策を徹底。あらかじめ検査装置も増やしていたといわれる。

 韓国との比較で検査遅れの批判が高まる中、この頃、加藤氏は周囲に「現場から情報が上がってこず、本当にどこにボトルネックがあるのか分からない」とこぼし、野党議員に実態を確認するほど追い込まれていた。そこでおぼろげながら見えてきたのは、一部地域の保健所のPCR検査に対する消極的な姿だった。

 感染が疑われた場合、患者はまず各地の「帰国者・接触者相談センター」に電話し、必要と判断されると非公表の「帰国者・接触者外来」と呼ばれる感染防護が整った専門外来を紹介され、診察結果を踏まえてPCR検査が実施される。こうした回りくどい仕組みなのは、09年に新型インフルエンザが流行した際、政府が設置した「発熱外来」に風邪等で熱が出ただけの患者が押し寄せて、パンク状態となったためだ。今回は都道府県や政令市の保健所等を「相談センター」に指定し、ゲートキーパー機能を持たせたのだが、これが効き過ぎたきらいがある。

 保健所は地域保健法に基づき設置される公的機関で、今回の新型コロナウイルスといった感染症対策や、母子保健の向上、栄養改善、廃棄物や飲料水対策など対象業務は幅広い。その一方で、近年は統廃合が進み、全国の保健所はピーク時の約6割の500カ所弱まで減少し、慢性的な人員不足も指摘されている。

保健所が290件PCR検査せず

 新型コロナウイルス対応で、各地の保健所は「相談センター」の業務とともに、専門外来から依頼された行政検査の必要性の有無も判断。それぞれの地域でのPCR検査の設備や人員のキャパシティに応じて「相談センター」の段階で検査対象の絞り込みを行っているケースも少なくない。「地域の風評被害や財政負担を避けるために、検査に乗り気でない保健所もあった」(厚労省幹部)。

 日医の調査では、医師が必要と判断したのに保健所が応じずPCR検査が実施されなかった事例は、26都道府県で290件あった(2月26日〜3月16日の集計)。

 行政検査では限界があるとみた厚労省は、PCR検査を3月6日から公的医療保険の適用対象とし、「専門外来から民間検査会社」という新たなルートを構築。検査にかかる費用は特例的に公費で補塡し、行政検査と同様に患者の自己負担はなくした。地域の診療所から保健所を通さずに直接専門外来へ検査を要請する事も可能となり、専門外来で必要性は判断されるものの、「診療所→専門外来→民間検査会社」という保健所が関与しない形でPCR検査が受けられるようになった。加藤氏は6日の記者会見で「今までは保健所が一つのボトルネックという指摘もあったが、今回は通さなくてよくなるので、そのボトルネックは解消される」と胸を張った。

 日医の釜萢氏も11日の記者会見で、PCR検査の不適切事例調査に関し「検査に結び付かなかった理由をみると、その地域における検査能力が非常に限られている中で『相談センター』が対応に非常に苦慮している事が報告から透けてくる」と指摘。「PCR検査が保険適用になり、検査を実施出来る施設が増えてくる事によって問題が解消するだろう」との見通しも示した。

 厚労省は10日、6日までの都道府県別のPCR検査実施数を初めて公表。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客らの検査を担った神奈川県の2151件が最も多かったが、最も少ない岩手県は27件しかなく、大きな開きがあった。地方衛生研究所で1日当たりに実施出来る検査数も公表され、最も多い神奈川県の190件に対し、最少の岩手県や山梨県等6県は20件にとどまる事も判明した。新型コロナウイルスの感染が世界規模に拡大する中、〝地域エゴ〟は極力排除し、自治体間での装置の融通等、検査態勢を柔軟に運用していく事が急務だ。

 

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