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新型コロナ「2類相当」から「5類」への格下げを検討

新型コロナ「2類相当」から「5類」への格下げを検討
「ウィズコロナ」への道のり険しく、分類見直しの壁とは

依然、収束を見せない新型コロナウイルス感染症。岸田文雄・首相は1月、関係閣僚会議を開き、「2類相当」としている感染法上の分類について、季節性インフルエンザと同じ「5類」へと緩和する事を検討する様指示した。厚生労働省は4月1日にも緩和する意向だ。

 しかし、5類への移行には専門家の間にも慎重論が残る。変異株への懸念も強く、国が思い描く「ウィズコロナ」への道のりは尚険しい。 

 「年間を通して流行を繰り返す」「(後遺症が)長期に亘る」「変異株は免疫を逃れる能力が(季節性インフルエンザより)高い」——。

 昨年12月14日、厚労省に助言をする専門家会議「アドバイザリーボード」の有志が示した資料にはそう記されていた。

 資料は、重症化率や致死率について新型コロナと季節性インフルエンザでは違った方法でデータを収集している事、新型コロナの場合は合併症で亡くなった人も死者数に含まれている事等を挙げ、新型コロナとインフルについて「比較は困難」だと指摘している。

 又、新型コロナを「季節性インフルエンザとは大きく異なる特徴を持った感染症」と見做した上で、インフルエンザと同等になる迄には多数の国民が免疫を得る経過が必要として、「長い時間を要する可能性もある」と評価した。こうした結果を受け、同省幹部は「これでは(5類への変更の)根拠にならない」と呟いた。

 新型コロナの5類への見直しに向けては、先ず加藤勝信・厚労相が観測気球を上げた。11月24日にテレビ出演した際、「重篤性や感染性、変異がどうなれば2類になり5類になるのか、専門家の皆さんにも議論を頂きたい」と発言。国の要請を受け、政府の専門家組織の座長、脇田隆字・国立感染症研究所長や押谷仁・東北大教授ら4人の専門家が新型コロナの感染力、重篤性、変異の3つに関する評価を担う事になった。

「2類」位置付けが新型コロナ対応の障壁との声

 新型コロナを巡っては感染防止対策として様々な規制が採り入れられ、国民は3年に亘って不自由な生活を強いられて来た。飲食店や旅行業界など影響を受ける産業も多く、国民の意識も変わって来ている。そこで改正感染症法には「コロナの位置付けを速やかに検討する」事を政府に求める附則が盛り込まれた。

 「経済を止めるな」とばかり、新型コロナの分類見直しを求める自治体も相次いだ。大阪府は12月7日、「『2類相当』の位置付けが全ての医療機関がコロナに対応する事への障壁になっている可能性がある」との見解を表明した。

 茨城県は14日の専門家有志の評価を定める会合に、新型コロナを「インフルと同程度の脅威」として5類への変更を求める緊急要望を提出した。新型コロナがデルタ株からオミクロン株へと変異し、重症化率や致死率が下がった事等を根拠に挙げる。同県の60〜79歳の重症化率について2021年夏の「第5波」時は4・7%だったのに対し、22年夏の「第7波」では季節性インフルエンザ並の0・4%に下がったとしている。又、東京都は国が感染者の「全数調査」を止め、「第8波」の最中でも行動制限に踏み切っていない事等を踏まえ、分類見直しに向けた検討を急ぐ様求めた。

 こうした声も踏まえ、専門家会合は1月11日、入院調整機能の維持など「必要な準備を進めながら段階的に移行すべきだ」との見解を示していた。政府はマスクの着用推奨も症状や基礎疾患が有る人らに限り、一般の人は屋内での着用も原則不要とする方針だ。

 感染症法は、感染症を危険度の高い順に1〜5類に分けている。1類はエボラ出血熱やペスト、2類は結核等が含まれる。更に新型インフルエンザ等感染症等を「別枠」とし、新型コロナは「新型インフルエンザ感染症等」に含めて「2類相当」として扱って来た。危険度が高い程強い感染防止策を取る事が可能となる。2類相当なら重篤性が高いとして入院出来る医療機関が限定され、外来も院内感染対策が出来る「発熱外来」に限られている。国や都道府県知事には強い権限が付与され、重症化リスクの高い患者には入院勧告や指示を出せる。昨年緩和される迄は、医師が全患者について保健所に報告する「全数把握」の対象だった。更に新型コロナの場合は特別措置法の適用により、国民の行動制限を伴う緊急事態宣言を発出する事も出来る。規制強化の代償として医療費の自己負担は無く全額公費で賄われる。ワクチンの接種費用も個人の負担はゼロだ。

「5類」移行に対しても賛否が分かれている

その点、新型コロナが「5類」になると季節性のインフルエンザと同等になる。診療可能な医療機関を限定する必要は無くなり、発熱外来に患者が殺到して医療ひっ迫が生じる事態は少なくなる事が期待されている。

 ただ、5類になったからといって、直ぐに多くの医療機関が発熱患者を受け入れるかとなれば話は別だ。政府や自治体はウイズコロナへの地ならしとして、戸外でのマスク着用の推奨を弱め、飲食店での会食等の制限も緩めて来たものの、院内感染対策を十分取れなかったり、風評被害を恐れたりして外来患者を拒否する医療機関は未だ多数残っている。

  第7波の際には外来の発熱患者で溢れ返った東京都内の医療機関の理事長は「患者受け入れの負担が大きいのは事実。5類になっても感染力が小さくなる訳ではない。患者を隔離出来ない、風評被害が恐い、といった理由で協力しない医療機関は多いのでは」と話す。

 公費負担に関しても課題は少なくない。5類になっても政府の判断で公費負担を続ける事が出来るとは言え、接種費用に個人負担を導入している季節性インフルエンザとの間でバランスを取るのは難しい。個人負担を求めるなら受診やワクチン接種を控える人が増える事が予想され、感染者が急増する可能性も否定出来ない。

 厚労省は5類に変えてもワクチンの自己負担は求めない案や、公費負担は続けながらも患者受け入れ可能な医療機関の絞り込みは止める案等を模索している。厚労省は厚労相の諮問機関、厚生科学審議会の感染症部会で検討を本格化させ、結論を得たい考えだ。書面による持ち回りになった12月23日の初会議では、「優先されるべき医療が後回しになり、地域医療の崩壊を招き兼ねない」等今の「2類相当」の見直しを求める意見が多かった一方、5類への移行に対しては賛否が分かれた。主要な慎重論は高い感染力と共に、今後コロナ株がどう変異するか予測する事が難しい点だ。

 オミクロン株になって重症化率が低下している傾向は有るものの、今後重症度が上がる変異が起きない保証は無い。そうなれば入院患者の急増による医療機関の病床ひっ迫が再燃する。冒頭に示した資料で脇田氏ら専門家も「今後、必ずしも病原性が低下するとは限らない」との見解を示している。「重症化防止」は避けられず、3月末で切れるワクチンの自己負担を無しにしている予防接種法上の位置付け「臨時接種」の延長等は避けられそうに無い。

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