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2大勢力の争いを背景とした 「米中新冷戦時代」の世界の見方

2大勢力の争いを背景とした 「米中新冷戦時代」の世界の見方
富坂 聰(とみさか・さとし)1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』『週刊文春』記者を経て独立。94年第1回21世紀国際ノンフィクション大賞(現・小学館ノンフィクション大賞)優秀賞を『「龍の伝人」たち—「天安門」後を生きる新中国人の実像』で受賞。2014年より拓殖大学海外事情研究所教授(専門は中国問題)。『「反中」亡国論—日本が中国抜きでは生きていけない真の理由』『「米中対立」のはざまで沈む日本の国難—アメリカが中国を倒せない5つの理由』等著書多数。

バイデン米政権が中国に厳しい姿勢を見せた事で、米中関係は冷え切った状態にあり、米中新冷戦時代とも言われている。今年7月に結党100周年を迎えた中国共産党は急速な経済成長を誇示し、習近平・国家主席の地位はますます堅固なものとなっているが、一方で、香港やウイグルでの人権問題、南シナ海問題等、国際社会で非難される数多くの問題を抱えているのも事実。この難しい状況をどのように読み解けばよいのか。また、日本はどのように中国と付き合っていけばよいのか、中国問題に詳しい富坂聰氏に聞いた。

——米中新冷戦時代と言われる状況で、中国はどのような戦略を描いているのですか。

富坂 最悪の場合と、そうでない場合の2つの想定があると思いますが、最悪の場合としては、世界が中国陣営とアメリカ陣営に分かれてしまうデカップリングを考えています。ただし、中国はこれを全く望んでいません。2001年にWTO(世界貿易機関)に加盟して以降、中国は最大の受益者かもしれず、世界貿易の発展に関して中国はとてもポジティブに捉えています。ところが、アメリカのトランプ前大統領の登場以降、保護主義に向かうかもしれない状況になったため、その準備もしなければならず、2段構えでやっていると思います。デカップリングを望んでいるわけではないが、それに備えないわけにはいかないという状況です。

——世界が二分されるような事になると、経済的な影響は大きそうですね。

富坂 日本ではコロナ禍で家のリフォーム需要が高まったのですが、中国から釘が来ないために停滞したという話があります。そのくらい細かいところまで中国依存が進んでいたわけです。結局のところ、デカップリングとなれば、どちらも悲鳴を上げる状況にあります。どこまで進むかと言えば、お互いにやせ我慢出来るところまで。それがどの辺りかが見えていないので、世界中が米中を中心にそれを探って行く事になります。

——どの辺りに落ち着きそうですか。

富坂 中国にしてみると、この喧嘩が合理的なところで落ち着くのか、感情的なところまで落ちて行くのかを見極める必要があります。アメリカがどこで決着するのか、という事です。これまでの様子を見ていると、中国はある程度損をしてでも、やり切った方がいいと考えているように思えます。なぜかというと、日本もそうですが、昨年の3〜4月頃、医療物資は外国に依存しない方がいいという事で、国内に回帰させる動きがありました。しかし、これは結局出来なかったわけです。中国にしてみると、1回やってみればいい、という事です。お互いに損をするけれど、一度底を見る事は重要だという考え方をしているのです。

台湾問題は踏んではいけない地雷

——日本は中国とどう関わればいいのでしょう?

富坂 日本が中国と向き合う時、個別の問題だけにとらわれている事が多く、その積み重ねになっています。大きな流れがある事が見えていません。端的に言うと、木を見て森を見ずという事がずっと続いています。日本は2015年から日中関係を良くしようと動いてきて、特にアクセルを踏んだのは17年5月から。それで18年19年と、お互いの国民感情も良くなり、これからだという時にコロナによって水を浴びせかけられたのです。現在の日本は、中国と協力を推進していく事には少し及び腰です。国民が中国を大嫌いなので、政治がそちらに舵を切るため、修正不可能なところまで来てしまいました。日本が今、自国の利益に繋がる合理的な選択が出来るかというと、難しい状態にあります。デカップリングで済めばいいですが、下手をすれば戦争にさえ繋がりかねない事態も考えられます。国民感情をぶつけ合う外交にならざるを得ないと、そこから先はブレーキを掛ける人がいなくなってしまうからです。こうなると、その先はものすごく速くなります。

——その場合、きっかけは何ですか。

富坂 1つは、中国の発展を止めようとする事。これに対して中国はものすごく敏感に反応します。かつて改革開放政策に舵を切った中国共産党は、社会主義を一旦封印して、とにかく発展しようと決めました。これが1978年から80年代中盤にかけての中国の戦略で、正式にそう言っています。我々の社会主義はよちよち歩きなので、当面は発展する事だけをやっていくと決め、この30〜40年間はまさにその通りにやっているわけです。その発展を止められる事に対しては、非常に敏感です。今年3月にアンカレッジで行われた米中外交トップ会談で、ブリンケン米国務長官と楊潔篪共産党政治局員が怒鳴り合いましたが、あの後、楊潔篪は総括して「我々が発展する事は誰にも止められない」と言っています。つまり、中国側は米中の争いを「中国の発展を止めようとする力」と「それを跳ね返そうとする力」のぶつかり合いと見ているわけです。このように、中国の発展を邪魔する事に関しては敏感に反応するので、この地雷は踏まない方がいい。地雷はこれだけではなく、もう1つあります。それが台湾問題です。

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