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未来の会

どこまで行くの? 子どもの「体力低下」が止まらない!

どこまで行くの? 子どもの「体力低下」が止まらない!
子ども達の問題は社会全体の問題だという認識を

スポーツ庁が毎年行っている全国体力調査で、小学5年の男子の体力が2008年度の調査開始以来、最低を記録した事が分かった。原因としてスマートフォンの見過ぎ等が指摘されているが、果たしてそれだけなのか。子どもを巡る調査では視力低下や学力低下も指摘されているが、このままいくと子ども達の将来はかなり危うい。体力低下が進む現代の子ども達に、処方箋はあるのだろうか。

 昨年のクリスマスイブ、新聞紙上をにぎわせたのが、「小中学生の体力が下落」とする記事だ。「スポーツ庁は毎年、小学5年と中学2年の男女を対象にした体力調査を行っている。8種目の合計点の平均値を出し、それを毎年比較しているのだが、今回は小5男子が過去最低となった。ここ数年は改善傾向だったのだが……」(同庁関係者)。

 調査は昨年4〜7月に、国公私立の小学5年生と中学2年生、計約201万人を対象に行われた。8種目の内訳は握力、上体起こし、長座体前屈、反復横跳び、50㍍走、立ち幅跳び、ソフトボール(中学生はハンドボール)投げ、20㍍シャトルラン(中学生は持久走も選択可能)だ。この8種目を点数化した体力合計点(80点満点)は、小5男子が53・6点(前年度比0・6ポイント減)、小5女子が55・6点(同0・3ポイント減)、中2男子が41・6点(同0・6ポイント減)、中2女子が50・0点(同0・4ポイント減)といずれも前年度を下回った。

 種目ごとに見てみると、今回は「走る力」の低下が目立った。50㍍走でも持久走でもタイムが遅くなっていた他、握力やボール投げ等の投げる運動でも低下が目立ち、小5男子、中2男子ともに握力、ボール投げは過去最低の結果だった。

 調査には実技以外に質問用紙による調査もあり、こちらでは子ども達がテレビやゲーム、スマホ等に触れる時間が増えている傾向が浮かび上がった。こうした映像の視聴時間が学校以外で1日平均1時間以上ある子どもの割合が増えていたのだ。

 特に男子でこの傾向は顕著で、「2時間以上」という子どもの割合は、小5男子では約6割(59・1%)なのに対し、小5女子は46・7%。中2生でも、男子は63・5%なのに対し、女子は60・3%と男子を下回った。視聴時間の長時間化も進んでおり、1日3時間以上という層では体力の合計点が平均を下回っていた。

調査から食生活の乱れも浮上

 今回の結果から何が読み取れるのだろうか。「子ども達がスポーツをする時間が短くなっている事から、専門家は子どもの体力がピーク時の1980年代まで戻るのは難しいとみている。東京五輪・パラリンピックを契機に、子ども達がスポーツの楽しさや記録を出す喜びに触れてくれればいいのだが」と同庁関係者。

 子どもの頃から運動に親しむと、大人になっても運動習慣が続きやすいとされている。しかし、調査からは体力だけでなく、朝食をとらない、肥満割合が上昇する等の食習慣の乱れも浮かび上がった。

 「さらに気になる調査結果もあります。文部科学省が公表した令和元年度の学校保健統計(速報版)によると、裸眼視力1・0未満の小学生が34・57%、中学生が57・47%と過去最多を記録したのです」(全国紙記者)。高校生では実に67・64%が裸眼視力1・0未満という結果は、「現代の子ども達がいかに目を酷使しているか」という事の表れではないだろうか。

子どもを巡る諸々の環境変化

 都内の眼科医は「スマホの画面を見続ける等、手元近くにピントを合わせた状態が続くと近視が進むといわれている。目を閉じたり眼球を動かしたりする、遠くの景色を見るなど目を休ませる事が大事だ」とアドバイスする。もちろん、運動することは視力のためにも良い。広い視野を必要とする事から、体を動かす事は近視予防になるのだ。

 学力面からの課題もある。経済協力開発機構(OECD)が2018年に実施した国際学習到達度調査(PISA)で、日本の子ども達の「読解力」に課題がある事が分かったのだ。12年には世界4位だった読解力が、15年は8位、18年調査では15位に落ちてしまったからだ。

 文科省は「スマホでの短文のやり取りの増加の影響がある」等と分析したが、3年前の前回調査でも同じ影響は受けていたはずで、短文のやり取り(SNS)に原因を求めるのも無理がある。PISAの結果だけを見て「子ども達の学力低下が進んでいる」と結論付けるのは早計だが、「長文を読んだり文章から何かを読み取ろうとしたりするには忍耐力がいる。その基本となるのが体力。成績の良い子どもは運動も出来る事が多いと言われるが、学力を付ける基礎となるのは体力だ」と都内の予備校関係者は語る。つまり、視力低下も学力低下も、「体力」を付ける事で一定の歯止めになると専門家は助言するのである。

 にもかかわらず、前出の「体力調査」によると、子ども達の運動時間は減り続けている。「1週間に7時間以上運動する」子どもの割合は小5男子で約半数、小5女子で3割にとどまる。中2生では男子約8割、女子約6割に増えるが、いずれも前回調査より減っている。教員の働き方改革や子ども達の生活が忙しくなって部活動に時間が取れない事もあるが、「例えば野球部は9人いないとチームが出来ないが、少子化でメンバーが集まらない事も多い」(全国紙記者)という現代ならではの悩みもある。

 ゲームやスマホ、テレビなどの娯楽は、1人でも少人数でも出来る。こうした娯楽の広がりと子どもの数そのものが減った事で、「学校が終わった後に集まって外で遊ぶ」機会も少なくなってしまったのである。

 さらに別の指摘をする人もいる。「除夜の鐘すら騒音になる現代、子ども達の声や公園で遊ぶ行為は近所迷惑だと言われてしまう」(同)。公園ではボール遊びが禁止されているところも多く、都内の小学5年生の保護者は「ボール投げの結果が過去最低だと言われても、そもそも投げるところがないから、当然じゃないかと言いたくなる」と溜息をつく。

 地球環境の変化、すなわち温暖化によって野外でのスポーツが難しくなっているとの指摘もある。夏休み期間は猛暑で、野外での部活動は命の危険に直結する事すらある。もちろん屋内でのスポーツも有益だが、「日の光を浴びる事が骨の発達など体づくりに大切だ」と都内の小児科医が指摘する通り、気候の良い時期は野外でスポーツを楽しむと良いだろう。

 子ども達の体力低下を防ぐために、小さい頃から体を動かす事が大切なのは論を待たない。今回の調査結果を受けて、スポーツ庁は子ども達の体力向上策を検討するというが、子ども達の問題は社会全体の問題だという認識をまず大人達が持つ必要がある。

 

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