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未来の会

5類に下げずに司令塔を保健所から 医療者に交替する法的テクニック

5類に下げずに司令塔を保健所から 医療者に交替する法的テクニック
1.感染症法第16条の2に基づく協力要請

 この8月23日付で都知事らにより、東京都内の医療機関の長に宛て、感染症法第16条の2に基づき、「協力の要請」が発せられた。「協力の要請」の発出自体は必ずしも否定すべきものではないだろうけれども、初めての「協力の要請」であったからか、その形式も内容も法的には必ずしも十分にこなれたものとはなっていないように思う。

 まず、現在は1・2類相当の「新型インフルエンザ等感染症」に位置付けられている新型コロナに関して、感染症指定医療機関の該当医師以外には、つまり、一般の医師には、そもそも応招義務がない(拙稿「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」2020年2月18日付MRIC)。

 そうすると、感染症指定以外の医療機関の院長(管理者)から勤務医に対する新型コロナに関しての診療指示等については、場合によって、労働契約の範囲を超えてしまうものとなることもありえよう(19年12月25日付厚労省医政局長通知「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」2(2)④も参考に)。

2.開設者達による相談・調整こそが重要

 以上を前提とすると、応招義務なき勤務医との間で「協力」を求めるべく院内で労働関係を相談・調整できるのは、法的には究極には、医療機関の「管理者」ではなく、労働契約の一方の当事者である「開設者」だけなのである。このことは、複数の医療機関を開設している「開設者」の場合には、より問題状況がクリアとなるであろう。例えば、複数の医療機関をまたいで、「協力」のための派遣人材の調整をしたりもするからである。この点で、都知事らによる「協力の要請」の宛先が「開設者」となっていなかった点は、法的には十分にこなれていたものとは評しえない。このままでは、不協力の医療機関があったとしても、その医療機関に対して、直ちに「勧告」「公表」に移行できるものとは解釈しにくいところであろう。つまり、半強制的な「協力の要請」だけでは限界があり、このままでは医療提供体制の真の増強は難しい。

3.保健所から医療者への司令塔の交替

 そもそも保健所の容量・体力からして有効・適切なものとは言えなかったクラスター対策のために、すでに保健所は疲弊してしまった。また、デルタ株に移り変わってからの状況変化により、医療提供体制の大幅な増強が求められている。しかしながら、都知事らの半強制的な「協力の要請」の限界と同様、保健所の司令塔機能にも明らかな限界が見えてきた。そこで、現場の司令塔の役割を、保健所から医療者へとバトンタッチして、はっきりと交替させるべきであろう。医療者が現場の司令塔となって保健所の介在が消えたならば、医療者(特に医療機関の「開設者」達)による院内・院外の双方における相談・調整が実質的にも可能となるであろう。そして、保健所を介在させず、ダイレクトにコロナ患者に適切に対応して、迅速かつ柔軟に、検査・診察治療及び入院・診療調整ができるようになる。そのようにして初めて、医療提供体制の質・量の両面で、大幅な増強が実現できることになると思う。

 ただ、そのためだと言っても、新型コロナウイルス感染症を、ことさらに「新型インフルエンザ等感染症(1・2類相当)」から「5類感染症(季節性インフルエンザ相当)」にまで一気に引き下げる法的な必要まではないように思われる。

4.分類を5類に引き下げずに対処する法的発想

 現在において最も重要なことは、新型コロナの患者(無症状病原体保有者も疑似症患者も含む。感染症法第8条第2項・第3項に明文があるとおり)に診療を受けてもらうことにほかならない。ここで言う診療とは、保険診療としての診察・検査(PCR検査も含む。)・処置などと共に、入院・宿泊療養・自宅療養などへの入院・療養調整と、療養指導やその後のオンライン・訪問等の再診での診療継続などの一切を指す。これらを本来はすべて医療者が保険診療として行うべきところを、医療機関内での感染拡大を防止するためなどといった考慮により、不慣れで体力不足の保健所が司令塔となって仕切ることになったがために、かえって諸々のなすべき医療提供体制の増強がなされないままに、1年半以上の年月が経過してしまったのであった。

 大胆に比喩的にデフォルメして言えば、いわば公衆衛生的組織・活動・方途を最前線に出し過ぎたために、いわば新型コロナ患者への医療提供体制が結果として停滞してしまったとでも評しえようか。法的手立てとしては、割り切った発想で、厚生労働省限りでできる簡便な厚労省令や告示の改正によって、医療提供に重点を置いて再構築すればよい。

 法的テクニックの面から見ると、最も重要なことは、医療者がいつもの通りに保健所と関わりなく、(ただし、保健所がわざわざ確認せずとも、医療者が自主的に感染防止策を講じつつ)新型コロナ診療をいつもの保険診療として行い、その過程としてPCR検査も行政検査としてではなく、いつもの保険診療の一環としての検査として行えるようにすることである。そのためには、新型コロナ患者が医師の指示に従って入院・宿泊療養・自宅療養をして診療を受けている限りにおいては、医師は感染症法第12条第1項による知事(保健所)への届出義務を免除されるようにするのが良い。

5.感染症法第12条第1項の届出義務の縮小

 もともと新型コロナは、医療の側面についてだけは1類相当(その他は原則として2類相当)の指定感染症であったが、すでに20年4月2日付厚労省新型コロナウイルス感染症対策推進本部発出の事務連絡において、「原則入院」ではなく「状況に応じて入院」(入院のほかは宿泊療養か自宅療養)とする法解釈と運用に変更されていた(拙稿「新型コロナ流行の再襲来に備えて〜新型コロナ患者は『状況に応じて入院』になった」20年6月17日MRIC)。端的に言えば、患者が入院・宿泊療養・自宅療養の枠に収まっていれば、その目的は達したものとされていたのである。つまり、新型コロナの患者なのにもかかわらず、医師の指示に従わず、入院も療養も受診もしないような人に(1類相当として)入院強制(や就業制限)をさせる必要があったり、または、医師がいくら患者の入院・宿泊療養の調整をしようとしても、入院先や宿泊先の事情で入院や宿泊に困難を来しているが、どうしても入院や宿泊をさせる必要があったりする場合は、確かに、医師が感染症法第12条第1項の届出をして、知事(保健所)に対して、当該患者に強制措置を発動してもらったり(前者のケース)、当該入院先や宿泊先を説得して患者の受け入れを促してもらったり(後者のケース)するのが合目的的であろう。

 しかしながら、その他のケースでは、わざわざ届出を義務化する必要性は乏しい(公衆衛生上の全数把握くらいのものであろうが、政治的にはかなりの困難を伴うかも知れないが、感染拡大が酷くなっている場合は定点調査でトレンドを把握するだけでも医科学的には十分に足りよう)。

 具体的には、厚生労働省令たる感染症法施行規則第3条を改正増補して、感染症法第12条第1項の届出義務の免除項目として、第1〜3号に加えて、次のような第4号を設けることとすればよい。

 「4号 医師が診断した新型コロナウイルス感染症の患者について、所定の病院もしくは有床診療所に入院し、所定の宿泊施設に宿泊療養し、または、自宅療養するなど、当該医師の指示に従っているものと認められる場合」

6.PCR検査の非行政検査化

 紙面の関係上、今回は省略するが、厚生労働省告示を改正して、行政検査とは別個に非行政検査化した新たなPCR検査料(現行のSARSコロナウイルス核酸検出と微生物学的検査判断料の点数を約10〜20%増加)を設け、「特別の事情」を理由として一部負担金の支払免除を定める健康保険法施行規則第56条の2を改正して、新型コロナを「災害」の1つとして認める特別条項を挿入すればよいのである。別の機会に詳述したい。

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