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「アリナミン」売却で見えた武田と大正の「窮状」

「アリナミン」売却で見えた武田と大正の「窮状」
戦略なき国内製薬、外資ファンドに国内再編を丸投げ

8月24日、武田薬品工業は一般用医薬品(大衆薬)子会社・武田コンシューマーヘルスケア(TCHC)を米投資ファンドのブラックストーン(BS)グループに売却すると発表した。

 最終売却価格は2420億円をベースに、有利子負債等を考慮して決まる予定だ。

 医師の処方箋が不要で、街中の薬局、ドラッグストアで買えるのが大衆薬。TCHCは国内大衆薬で4位。ビタミン剤「アリナミン」や風邪薬「ベンザ」等強力ブランドを持つ。2019年度の単体売上げ641億円、営業利益129億円を誇る。

 知名度抜群の有力大衆薬事業を武田が手放す事が持つ意味と業界への影響は大きい。第一に、国内大衆薬市場再編の導火線となる可能性がある。

 緩やかに拡大してきた日本の大衆薬市場は今急変している。新型コロナウイルス感染症拡大で訪日外国人の需要が急落しているのだ。

 このインバウンド需要が戻らないと、人口減少の日本では大衆薬市場に縮小圧力が強まり、合併・買収等再編の動きが加速する。

 製薬の柱の医療用医薬品では開発が難しい難治性疾患や希少疾患に領域が移り、遺伝子治療や細胞再生医療といった資金のかかる創薬技術が求められ、開発コストは膨らむ一方だ。

 このため、得意の重点疾患領域に資源を集中し、それ以外からは手を引くのが今、世界中の製薬業界の主流になっている。

 となれば、医療用医薬品に比べ利益率も低い大衆薬事業は撤退対象の筆頭に上がりやすい。武田のクリストフ・ウェバー社長も「大衆薬に十分投資する事が出来ない」事を売却理由に挙げている。️

 国内大衆薬業界3位、4位をTCHCと争う子会社を持つ第一三共を筆頭に、エーザイ、塩野義製薬、田辺三菱製薬等大衆薬事業を抱える製薬大手は少なくない。こうした会社も武田と事情は基本的に同じだ。

 「武田の今回の売却の動きを業界他社も注視している」と業界関係者は打ち明ける。武田を参考に次の再編の動きに備えるマグマは溜まっている。

大衆薬に投資出来ない武田

 今回の売却劇は、製薬トップの武田、大衆薬最大手の大正製薬という日本の製薬業界の両雄の「窮状」を浮き彫りにした。

 撤退する武田は言うに及ばず、軸になるべき大正も来るべき国内大衆薬市場の再編を主導するには力不足な事をさらした点も深刻だ。

 会見でウェバー社長は、シャイアー買収と今回の売却との関係を否定した。対外公約の1兆円の資産売却実現のために、大衆薬を売るのではない、というわけだ。

 武田はコアビジネスの医療用医薬品開発に資源を集中し、大衆薬に投資する余裕はない。むしろ有力な外部に売却する事が大衆薬子会社の成長を促すから、「正しい選択をした」と主張する。

 その半分は真実、半分は噓だ。

 大衆薬への投資余力がないのは本当だ。だが、これは6兆円のシャイアー買収で抱えた大借金を返すのに汲々となったために、大衆薬を売る羽目になったのだ。

 シャイアー買収前から売却を検討していたと言うのだろうが、シャイアー買収が大衆薬売却を駄目押しした事は間違いない。

 一部報道に出た4000億円という武田の希望額から察するに約2400億円の価格は武田にとって大誤算だった。コロナ禍真っ最中にたたき売りせざるを得なくなったのも、「1兆円の資産売却」を急がざるを得なかったため。武田の苦しい現状故だ。

 旧シャイアーの血友病治療薬へのロシュ・中外製薬の浸食は想定より早く深い。光工場にはFDA(米食品医薬品局)から警告書が出た。とにかく失点続きなのだ。 

 シャイアー買収に動いてから約2年半の株価下落・低迷は市場の評価を露骨に示すものだ。

大正は国内再編の脇役?

 BSはTCHCの業績下降の原因を「投資不足」と見て、投資を拡大し製品領域拡充、台湾・中国等事業拡大の構想を明かした。

 更なる買収にも前向きで、「(TCHCは)買われる側から買う側になる」と今回の買収を主導したBSの責任者・坂本篤彦氏は意気軒高だ。TCHCの成長拡大と同時に、TCHCを業界再編の受け皿にしようというわけだ。

 先述した大衆薬を持つ製薬大手に加え専業メーカーでも大衆薬の製品・事業売却の潜在ニーズは大きい。ここに誘いのメッセージを強く発しているのだ。

 ゼロから出発する強みを生かして再編を主導出来れば、TCHCが安い買い物になる可能性はある。

 一方、BSと争った大正。入札に応じた意図はどこにあるのか。

 「アリナミンが魅力的だ」。一部報道にある通りこれが理由なら、関心の薄い、他の製品への大正の評価は高くなく、入札価格を下げる方向に働いた可能がある。

 TCHCの風邪薬「ベンザ」と大正の「パブロン」はまる被りで、大正がこの分野でTCHCを買うメリットは薄い。既に大手ドラッグストア等の全国の販売網を押さえ、総合的な品揃えを持つ大正には、ゼロスタートのブラックストーンに比べ、高値を付けられないハンディがある。

 それでも入札の勝敗を決定的に分けたのは、業界再編への見方の違いにあるのではないか。BSのように今回の買収を契機に業界再編を仕掛け、規模拡大やシナジー効果を追求する事で、付加価値向上を図れる、とみるかどうかだ。

 今回分かったのは、国内再編の可能性、そこで主役を担う意義・価値を見出し得ない大正の姿だ。

 20年も業績が頭打ちの大正。危機感や「成長への渇望」が首脳陣に強まっているのは確かだ。1年前のTCHC売却報道時は否定的だった買収に今回は参戦したのも、このためだろう。

 18年には同社初の大量の早期退職募集を断行。19年半ばには米ブリストル・マイヤーズ スクイブから欧州大衆薬メーカーを約1700億円で買収、過去最大の海外M&A(企業の合併・買収)に踏み切った。

 これで売り上げ540億円、営業利益100億円が上乗せとなり、柱の大衆薬・飲料等部門、特に海外事業は急拡大した。

 だが、これでも売り上げ1兆円台が先頭の海外大衆薬大手の背中は遠い。何よりも、「リポビタン」や「パブロン」「リアップ」等柱の国内大衆薬・飲料の伸び悩みの解決や、提携解消で旧富山化学工業を失いつるべ落としの医療用医薬品部門の抜本対策が見えない。コロナ禍で柱の国内大衆薬・飲料等事業はインバウンド需要がはげ落ち今期は減益見通しだ。

 製薬大手の英グラクソ・スミスクラインは大再編を経て世界最大の大衆薬事業創出を果たした。これに倣い、せめて国内大衆薬再編で武田、大正の両雄に主導的関与を期待したいが無理なようだ。

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