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未来の会

医療事故を起こした医療者をどうケアするか

医療事故を起こした医療者をどうケアするか
患者・家族、医療者、弁護士らがサポート団体を設立

医療事故によって傷ついた患者・家族へのケア、そして医療事故を起こしてしまった医療者のためのサポート体制の普及を目指して、一般社団法人「Heals(Healthcare Empower-ment and Liaison Support)」が昨年7月、患者・家族や医療者、弁護士、学識経験者らによって設立された。

 医療事故に遭った患者・家族のケアは行われているが、事故を起こしてしまった医療者に対するケアはあまり顧みられることがなかった。しかし、医療者も深く傷つき、心身の不調に陥って退職したり自殺に至ったりするケースもある。

 Healsは医療者へのケアのためのプログラムを提供しつつ、患者・家族と医療者を繋ぐ組織。昨年12月の設立シンポジウムでは多数の医療者らを集め、事故に直面した医療者へのケアの必要性やHealsの活動について説明が行われた。

 最初にHeals代表理事の永尾るみ子氏が、自らの体験と設立趣旨について述べた。

 「20年以上前、病院で赤ちゃんを窒息で亡くしました。悲嘆にくれる中、病気や流産で赤ちゃんを亡くした家族を精神的に援助するNPO法人と出会い、新しいスタートを切れました」

遺族・医療者、どちらも経験して見えたもの

 会では遺族の精神的サポート活動に取り組み、電話相談やミーティングを行う中で、患者・家族と医療者の橋渡し役を担いたいと思うようになった。医療メディエーター(医療対話推進者)を目指し、40代で看護学校に入学、看護師となった。多忙でマンパワーの限界などがある中、日々奮闘する医療人達の姿を目の当たりにする。

 「医療現場では、誰もが加害者になるかもしれないという不安を抱えていました。医療事故に遭った患者・家族が孤独感を感じるように、事故を起こした医療者も傷つき、孤独になっていく。そのため医療そのものが崩壊しかねないと思ったのです。医療事故当事者を救うことは、患者・家族を救うことと不可分と考えました」

 遺族・医療者双方の立場を経験した永尾氏は、「互いに非難や否定はせず、共に手を携えていける場を作り上げることこそが大切」と述べた上で、Healsの活動として、遺族と医療者の対話推進と心理ケアのための講演会・シンポジウムの開催、研修会の実施、有害事象に直面した患者・医療者からの相談対応などを挙げた。

 次に、臨床心理士で青山学院大学兼任講師の曽根美恵氏が「傷ついた医療者の心理とケア」をテーマに登壇。曽根氏もHealsの活動に専門職として関わっている。

 医療事故により医療者が受けた心の傷(トラウマ)は、その時点できちんとケアされないと、その一部がPTSD(心的外傷後ストレス障害)となり、時間が経過しても消えることがないという。トラウマ反応は心理面、身体面、社会生活面の三つに表れる。自分を責め、抑うつ的になり、情緒不安定になるだけでなく、現実感を失い、事故を他人事のように感じる解離症状を見せたりもする。

 曽根氏は、傷ついた医療者には、ピアサポートのような身近な人のサポートが必要だと語る。特に事故直後の医療者は孤立しているため、信頼している人が側にいて、孤立させないことが大切だという。

 「そこで大事なのは、語ること、つまり言語化することです。言語化によって、感情が整理されます。整理された形で記憶されるので、事故にも向き合えるのです。そのためにも、早い段階でのケアが重要になってきます」

 続いて、「ピアサポートのしくみと過程」の題で、浜松医科大学地域家庭医療学講座特任教授の井上真智子氏が講演。医療の質の向上や安全に取り組む上で、ピアサポートが重要であると述べた。ピアサポートとは、同じような立場の人によるサポートのこと。米国では取り組みが活発化しているため、井上氏は米ハーバード大学関連病院におけるピアサポート導入事例を紹介した。

 「米国では、ピアサポートの背景として医療者のバーンアウト(燃え尽き症候群)の問題があります。米国の医療者も疲れていて、仕事に情熱を持てなくなっています。そんな中、多くの医療者が有害事象を経験しているのです」

医療者が話しやすいサポート体制を

 医療現場では、日常の中にシステムエラーが潜んでいる。知らないうちに事故に遭遇する可能性がある。不安を抱えたままではいけない。だから、医療従事者に最高のパフォーマンスを行ってもらうためにも、ケアが必要になってくるという。

 「ケアの第1段階は所属部署でのサポート。その次がピアサポート。第3段階はカウンセラーなど専門職種によるサポート。ピアサポートは専門を同じくしている人、例えば同僚の医師などが共感してもらいやすい。そうしたことも踏まえ、ケアのためのプログラムを構築しなければいけません」

 井上氏は「日本で最も薄いのはピアサポート。その取り組みは医療機関の組織文化を変えることに繋がる。ただ、個人を責めない『公正な文化』に基づく職場内の支援が必要」と指摘した。その上で、ピアサポートを行うピアサポーターの「役割/すること」と「しないこと」を区分。役割として、本人の感情を正当化、本人の能力・適性に自信を持たせる、専門的ケアの必要性を評価など、しないこととして、事例の原因分析・調査に関わる、患者への説明・謝罪のアドバイスをする、職務能力の評価を行うなどを挙げた。

 最後に、Heals代表理事で早稲田大学大学院法務研究科教授の和田仁孝氏が、米国の事情と照らし合わせてHealsの活動を説明した。

 「Healsのメンバーとともに、ピアサポートを行っている米国の病院や非営利組織を視察してきました。それぞれの病院の文化によって、システムが違っています。日本で導入しようとするなら、自分の病院に合う形を考えていくべきです」

 ある病院では「ピアサポーターは臨床で尊敬されている人が望ましい」という意見もあった。

 ただ、どこの病院も、ピアサポートを立ち上げてすぐは、コンタクトしてくる医療者は少なく、部署からの報告という形を取ることもあったという。根付いていくと、コンスタントに連絡が入るようになり、ある病院では24時間体制で連絡を受け付けている。

 「Healsの活動は、医療者本人を救うだけでなく、その部署の士気を落とさないことも目的としています。それが患者に対する医療の向上に繋がり、患者を救うことになります。そのためにもピアサポートを広げていかねばなりません。米国では個々の病院でなく、学会にピアサポーターを置くことも検討されています。そうした方向も、今後は考えていく必要があるかもしれません」

 Healsの事業は、ボランティアを中心とした活動であるため、多くの人の理解と支援が必要だ。

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