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連携が進み生まれ変わった県立病院 ~独法化から8年の神奈川県立病院機構の現在~

連携が進み生まれ変わった県立病院 ~独法化から8年の神奈川県立病院機構の現在~
土屋了介(つちや・りょうすけ)地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長  1946年神奈川県生まれ。70年慶應義塾大学医学部卒業。同年日本鋼管病院外科。79年国立がんセンター病院外科医員。2002年同病院副院長。06年国立がんセンター中央病院病院長。10年財団法人癌研究会顧問。11年公益財団法人がん研究会理事。13年神奈川県顧問(政策推進担当)。14年地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長。84年に田宮賞、87年に刀林賞を受賞。現在、内閣府の特区評価委員を務める。

2010年4月に地方独立行政法人に移行した神奈川県立病院機構は、四つの専門病院と、地域医療を支援する一つの病院を統括し、神奈川県の医療水準の向上を目指して改革に取り組んできた。4年前から理事長を務める土屋了介氏に、改革のポイントを聞いた。また、県立病院機構が始める家庭医、薬剤師、理学療法士、作業療法士などの新たな研修制度についても、どのような制度で、どのようなメリットがあるのか解説して頂いた。

——神奈川県立病院機構に属しているのは、どのような病院ですか。

土屋 元々七つの県立病院があったのですが、2010年に五つの病院を独立行政法人として残しました。そのうち四つは横浜市内にあり、いずれも専門病院です。県立がんセンター、県立こども医療センター、県立循環器呼吸器病センター、県立精神医療センターの四つです。もう一つは県立足柄上病院で、箱根のふもとにあります。これは地域医療を支援することを目的とした病院です。

——一つだけ性格の異なる病院を残した理由は?

土屋 その時点で、高度専門医療の提供や研究開発は県が行い、地域医療は市町村が行う、という基本方針があったはずです。ただ、県西部は小田原市を除くと人口が少なく、自治体も力が弱いという事情があったので、そこに例外的に県立病院を残すことにした、ということではないかと思います。どこかにそう書いてあるわけではないのですが、私はそう解釈しています。

——独立行政法人化から4年後に理事長に就任したのですね。

土屋 そうです。4年たっていましたが、事務の方は県からの人がほとんどを占めていました。独立行政法人化した年に新卒を採用しているのですが、その人達はまだ十分に育っていませんでしたし、中途採用もあまりありません。そのため、ほとんど県の職員が動かしている状態でした。そういう状況のところに赴任してきたわけです。そこから、そろそろ4年が経過しようとしています。

かつての“常識”が変わりつつある

——4年前はいろいろ問題もあった?

土屋 赴任してきて最初に感じたのは、それぞれの病院に協力関係がほとんど見られなかったことです。専門性が高いからというのは分かりますが、あまりにも連携が取れていませんでした。県立病院機構としてまとまっているのに、そこが全く生かされていなかったのです。

——具体的にはどんなことですか。

土屋 がんセンターで、リエゾン(身体医療と精神医療が連携して対応していく精神医学の一分野)の精神科医がいなくて困っていたことがあります。そのままだとがん診療連携拠点病院の要件を満たしていないので、資格が取り消されるかもしれない事態だったわけです。そんな場合、精神医療センターがあるのですから、そこに相談するのが当たり前だと思いますが、全く声を掛けていなかった。それで私が精神医療センターに電話して、「リエゾンをやりたい医師はいませんか」と聞いてみると、「いる」ということでした。そういった病院間の連携が非常に弱かったですね。

——県が運営していた時代の常識が残っていたということでしょうか。

土屋 そうですね。県の予算決算の意識が抜け切れていなかった部分もあります。私が赴任する前年の11月に、がんセンターの新病院が開業していたのですが、旧病院では手術室が6室だったのに対し、新病院では12室になっていました。私が赴任した時は、まだ全然使いきれていなかったので、12室がフル稼働するのはいつの予定かと病院長に尋ねたところ、看護師不足で目途が立たないという答えでした。どうやら、手術室を2倍に増やしたけれど、それをどう使っていくかという計画はなかったようなのです。立派な病院が出来ましたが、その管理運営については、まだまだ問題がありました。手術室については、現在も使われているのは8室で、なんとか早く10室までは稼働させなければと思っています。

——この4年間で変わってきましたか。

土屋 もちろん、良くなっている部分もたくさんあります。例えば、がんセンターの外来化学療法室ですが、最初は50チェアーのうち30チェアーが稼働しているだけで、これも50チェアーを稼働させるまでの計画はありませんでした。ただ、現場が非常に頑張ってくれたこともあり、現在はほぼフル稼働の状態になっています。

——重粒子線治療が医師の退職で苦しい状況になっているようですが?

土屋 重粒子線治療を行うためには、放射線治療医が10人必要なのですが、それを7人でやっていました。そのうちの何人かが退職することになり、重粒子線治療を維持していくのが難しい状況になっています。早急に後任の医師を探す必要があるのですが、がんセンターだけに任せておくわけにはいかないので、私も一緒に奔走しています。

家庭医を養成する新しい研修制度

——県立病院機構では医師の研修制度を計画しているそうですね。

土屋 県立病院機構に属している病院は、専門病院が四つで、総合病院は足柄上病院の二百数十床しかありません。となると、初期研修や新専門医制度の基本領域の研修は、うちだけでは出来ません。ただ、外科や内科といった基本領域の専門医を取った医師が、より専門性の高いサブスペシャリティ領域の専門医を目指すという場合、我々の専門病院には大学よりはるかに多くの症例があります。それを最大限に生かして、研修医を受け入れていこうという準備を進めています。
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