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「COCOA」報告書で露呈した厚労省の〝無責任体制〟

「COCOA」報告書で露呈した厚労省の〝無責任体制〟
グリップ不在・業者丸投げが不具合発生の背景

発注者としてプロジェクト全体を適切に管理出来ていなかった——。

 厚生労働省は4月、新型コロナウイルス感染者との接触を知らせるスマートフォンの官製アプリ「COCOA(ココア)」が4カ月以上機能していなかった問題に関し、内部調査に基づく報告書をまとめた。第三者でなく自前による調査とあって甘い部分はあるものの、それでも日本政府のお粗末なデジタル対応と無責任体制が浮き彫りになっている。

 報告書がまとまった4月16日の閣議後の記者会見。田村憲久厚労相は「厚労省の(ITに関する)知識や経験が非常に乏しく、人員体制も不十分だった。プロジェクトを適切に管理出来ていなかったところは非常に反省しないといけない」と述べ、同日付で樽見英樹・厚労次官と正林督章・健康局長を文書による厳重注意処分とした事を明らかにした。

不具合を修正するまで4カ月も放置

 また、この日、厚労省から保守運用を受託していたIT企業「パーソルプロセス&テクノロジー」は昨年8月以降の業務対価1200万円を自主返納すると発表した。

 COCOAは厚労省が昨年6月、「新型コロナウイルスへの感染防止策の目玉」として提供した。感染者と1㍍以内の距離で15分以上接触していた場合に通知してくる。

 ところが、昨年9月末のアップデート時から、基本ソフト(OS)に米グーグルの「アンドロイド」を搭載している端末では、陽性者と接触しても通知が届かないという不具合が発生した。

 今年2月に修正されるまで放置され、その状態が4カ月続いていた事が判明した。修正時、COCOAのダウンロード数は計2400万件超で、うち3割はアンドロイド版の利用者だった。

 COCOAは当初、内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策テックチームが担っていた。それが昨年5月、基本技術を提供するグーグルとアップルが各国に「公衆衛生当局による管理」を求めた事で、厚労省に急遽移管された。

 ただ、同省にはITを理解出来る職員が圧倒的に不足しており、アプリの開発や保守はパーソルプロセス&テクノロジーに委託。パーソル社も他の企業に再委託した他、再々委託も発生し、結局パーソル社や日本マイクロソフト等計6社で分担する事になった。

 こうした再委託、再々委託はIT企業では当然視されている。だが、大元の厚労省が委託先にほぼ丸投げし、全体をグリップせずに業者任せとしていた事が問題発生の温床となった。厚労省の山田雅彦・総括審議官は「(厚労省内に)目利き力を持つ人材がいなかった」と振り返る。

 アプリの不具合は昨年11月にはGitHub(ソフト開発のためのネット上の管理サービス)で指摘され、今年1月には委託業者が書き込みを確認していた。にもかかわらず、放置は続いた。

 厚労省は「委託業者(パーソル社)が品質管理を担う」と認識する一方、委託業者は自身の担務を「工程管理の一部」と受け止める等、役割分担が徹底されていなかった事が一因という。

 GitHubで不具合が指摘された際に厚労省は委託業者にチェックを依頼していたが、複数の委託先は「他の会社がやっているだろう」と考え、結果的に不具合が4カ月間も放置された。報告書はその点について「不具合が発生した事以上に大きな問題」と総括している。

 ネット上の指摘を放置した前段にも、対応をしていれば問題を回避出来る局面はあったと報告書は指摘している。1番目は、9月のアップデート時に動作確認のテストをしていなかった事だ。

 この際は「保健所の負担軽減のため改修を急ぐ必要があった」上、「テスト環境が整備されていなかった」という事情はあった。報告書も「一定程度やむを得ない判断」としている。身内によるお手盛り調査の甘さが顔をのぞかせている部分だ。

 ただし、テスト環境は10月12日に整っている。にもかかわらず、その後もテストは行われなかった。それが2番目の局面だ。厚労省はテストの必要性を十分認識せずに業者任せにし、業者側も厚労省の技術的な指示への対応に追われてテストの実施にまで手が回らなかったという。

 「ロジックが変わるだけだから大丈夫との報告を担当から受けた」等と証言する厚労省担当者もいたが、報告書は「最終的な品質管理の実施主体について厚労省と具体的かつ明確な認識共有が図れていなかった」と指摘する。

厚労省の深刻な人員不足も表面化

 「体制強化を申し出ていたが、聞いてもらえなかった」「やはり人が足りなかった。量的にも専門知識も足りなかった」——。今回の不具合発生では、厚労省の深刻な人員不足も表面化した。

 報告書は厚労省について、アプリの開発や運用に関する知識や経験が乏しく、人員体制も十分とは言えないといい、昨年9月のバージョンアップ時には「意思決定等の業務は数人の限られた職員に集中」した。専門性が高く、他の職員によるチェックが働きにくかった事も問題に挙げている。

 政府が民間登用した情報化統括責任者(CIO)補佐官も送り込まれたが、多忙とあってCOCOA関連では週に1〜2回程度しか関与出来なかったという。

 また報告書は、厚労省がCOCOAの開発、運用保守を引き受ける上で必要となる体制強化に十分対応出来ておらず、「組織としてノウハウを蓄積する観点から人員体制が講じられるべきであった」と指摘した。

 再発防止策として、開発当初からの総合的なテストの環境の整備、不具合の発生を織り込んだ人員確保の他、業務を委託する際には指示内容を明確化する事等を列挙している。同省幹部は「言われてみれば当たり前の事ばかりだな……」と苦笑している。

 人は足りず、増員要請は無視される。IT関連の知識が乏しい厚労省は業者任せとせざるを得ず、同省も業者も互いのコミュニケーションに欠いた無責任体制のままアプリ開発は進んだ。報告書の指摘は一朝一夕に実施、改善出来るものばかりではないが、第4波が押し寄せているコロナ禍はそんな状況等忖度しない。

 4月上旬時点でCOCOAのダウンロード数は約2680万件。国民の2割程度にすぎず、感染防止効果が出てくるとされる6割への到達にはほど遠い。肝心の陽性登録者数は約1万2600件にとどまり、機能しているとはとても言えない。

 政府は「引き続きCOCOAの普及に努める」と言うが、一度失った国民の信頼を取り戻すのは並大抵の事ではなさそうだ。

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