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未来の会

チャイナリスクの現実を認識し 「利用しやすい国」からの脱却を

チャイナリスクの現実を認識し  「利用しやすい国」からの脱却を
織(ふくしま・かおり)
1967年奈良県生まれ。大阪大学文学部卒業。91年産経新聞社大阪本社入社。98年上海・復旦大学に語学留学。2001年香港支局長。02年から08年まで中国総局特派員として北京駐在。09年に独立してフリー記者に。著書は『赤い帝国・中国が滅びる日』『中国複合汚染の正体』『中国「反日デモ」の深層』など多数。

日本と中国の経済関係は緊密で相互依存的だが、政治的にはぎくしゃくした関係が続いている。中国は東シナ海では尖閣諸島沖で領海・領空侵犯を繰り返し、南シナ海ではその海域の全ての島々の領有権を含む独占的な権利を主張。軍事的な行動も加速している。矛盾に満ちた〝赤い帝国〟が抱えるチャイナリスクや、日本の取るべき態度について、中国事情に詳しい福島香織氏に聞いた。

——中国は南シナ海の状況をどのように考えているのでしょうか。

福島 南沙諸島の実効支配への動きは止まりません。中国は2016年7月に国際仲裁裁判所で「国際法上の根拠はない」と領有権の主張が否定されても関係ありません。実効支配はびっくりするほど急速に進んでいます。海軍の司令官がこんなことを言っていました。「自分が思っているよりもスピーディーに南シナ海の実効支配が進められたのは習近平国家主席(中国共産党総書記)が全面的に海軍を支持したこととオバマ政権の弱腰にある」と。国際仲裁裁判所の判決は中国にとって汚点に違いありませんが、その挽回策として積極的なASEAN(東南アジア諸国連合)外交を展開しています。フィリピンに嫌米左派のドゥテルテ大統領が誕生したことも中国に有利に働き、中国は南シナ海は落ち着いたと思っていました。しかし、米国のトランプ大統領の誕生で、状況が一変しました。南シナ海で軍事的示威行動を示してくるだろうとみられているからです。中国は、南シナ海は米国と正面から国益をぶつけ合う場所であると覚悟しています。

——これからどのような外交が予想されますか。

福島 17年は激動の時代が始まります。16年は前触れでしかありません。国際社会が激変している

中、日本人は秩序や治安が乱れることを嫌がりますが、中国人はルール無視で自由にできるとなると俄然奮闘してテンションが上がる人々が多いのです。習政権も、国際秩序が大きく変わる時代の変わり目は、中国の国際的プレゼンスを高めていく好機と捉えています。トランプ現象もありますが、EU(欧州連合)の弱体化も中国はチャンスと思っています。通貨もユーロが弱くなれば、人民元が相対的に強くなります。習政権の経済政策の中心的な役割を果たす「一帯一路構想」は、陸と海のシルクロードの沿線国を、経済的にも外交的にも中華でまとめようというものです。陸は中央アジアからヨーロッパ、ドイツまで及びます。イタリアやギリシャ、東欧諸国などEUの落ちこぼれに対しては、EUを離れた時に「うちに来てください」という外交を進めています。

——米国に対する態度はどう変わりそうですか。

福島 習政権は軍拡を行なっていますが、トランプ大統領がそれに乗ってくると、中国にとっては思惑通りとなります。もう1人の大統領候補だったヒラリー・クリントンよりもトランプの方が扱いやすいと思っているでしょう。対立関係をあおれば、国内の政権への不満が外部に向かい、国内の安定化につながるからです。しかし、習氏は間違った自信を持っています。チキンレースになったら勝つ自信を持っていますが、南シナ海で米国が本気を出したら、習政権は危うくなります。オバマ政権は挑発しても本気で対抗してきませんでしたが、トランプは殴られたらすぐに殴り返すかもしれません。

国内の不満が高まる習近平体制

——習近平国家主席に対する大衆の支持は?

福島 本人が言うほど高くありません。広報用に、肉まん屋に並んでみせるなど庶民的な演出をしましたが、写っている庶民は全てエキストラ。習氏は13年から暗殺未遂に遭っていて、SPは過去の総書記に比べて4倍の16人を付けています。身の安全に不安を感じる人間が庶民に混ざって街を歩くわけがありません。確かにメディア挙げての反腐敗キャンペーンに騙されている人は多くいます。農村の高齢者には個人崇拝が浸透していて、家に毛沢東、鄧小平両氏と並んで習氏の似顔絵皿が掲げられたりしています。一方で、工場労働者の意識は冷ややかです。反腐敗で地方の小役人がバッサ、バッサと切り捨てられるのは見ていて面白いのですが、それは習氏への支持とは違う次元の話です。不満を持っている人々は胡錦濤前政権時代よりも増えていて、集団事件と言われる件数はウナギ登り。特にストライキや労働争議が増えており、12年には全国で約400件でしたが16年には2000件以上になったとみられています。労働者は賃金が上がらず、失業もあり、生活面では物価が上がって先行きが暗い状況です。彼らはこの不満を中央に向けると警察から鎮圧されるので、地方政府に向けます。4年も反腐敗キャンペーンをしているのに、我々の生活とは関係ないよね、というところまで来ています。

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