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未来の会

第100回 超高齢社会も視野に入れて足病治療のトップ目指す

第100回 超高齢社会も視野に入れて足病治療のトップ目指す

久道勝也(ひさみち・かつや)医療法人社団青泉会 下北沢病院理事長]
1964年静岡県生まれ。93年獨協医科大学卒業。同年に順天堂大学皮膚科入局。2007年ジョンズ・ホプキンス大学客員助教授。09年よりヤンセンファーマ研究開発本部免疫部門長、アラガン社執行役員などを経て、14年からロート製薬研究開発本部トランスレーショナルリサーチ部長。16年7月から下北沢病院理事長を兼務。日本皮膚科学会認定専門医。アメリカ皮膚科学会上級会員。アメリカ皮膚外科学会上級会員など


下北沢病院は今年6月、日本初の「足の総合病院」として再生した。久道勝也理事長はメガファーマ(巨大外資系製薬企業)が考える市場ニーズと、皮膚科医として現場で体験するアンメット・メディカル・ニーズ(いまだ有効な治療方法が確立していない医療ニーズ)の間に大きなズレを感じていた。その思いを病院コンセプトのベースに足病治療のトップランナーを目指している。

◆日本初の足の専門病院ですが開設したきっかけを教えてください。

久道 下北沢病院はもともとリウマチ治療に特化した病院でしたが、経営状況の変化により新しいコンセプトで病院を立て直す課題がミッションにありました。そこで日本の医療の中で曖昧なまま治療法が確立していない患者ニーズである米国のポダイアトリー(足病学)に着目しました。整形、皮膚科、形成、血管外科などの要素を持つ複合的な専門領域です。この診療科の最終的な目標を端的に言えば「歩行の維持」です。今後、国民の5人に1人といわれる糖尿病、あるいは誰もが避けて通れない超高齢化と認知症問題、これら全てに共通するのは、歩行の維持ができなくなった時点でQOL(生活の質)が著しく低下すること。それは余命に直結します。糖尿病で下肢切断をした際の5年生存率が30〜40%という事実があり、これは肺がんの5年生存率とほぼ等しい数字です。にもかかわらず、歩行と足にフォーカスした病院が北米には存在するのに日本には存在しません。この領域を確立することは間違いなく日本のアンメット・メディカル・ニーズを満たすと考えたのです。

市場ニーズと医療ニーズに生じる大きなズレ

◆アンメット・メディカル・ニーズについて具体的に教えてください。

久道 アンメット・メディカル・ニーズ(UMN)は、特に外資系製薬企業を中心としてよく使われ、一般化してきた言葉です。訳せば「いまだ満たされていない医療の必要性」ということになるでしょうか。製薬企業は治療法がない領域に対して治療薬を作ることに真の存在価値があります。例えば、がんの特効薬を作ることはUMNを満たすわけです。これには時代ごとに変化があり、現在治療法が充実している高血圧や感染症が、100年前は当時のUMNでした。私は皮膚科医としてずっと仕事をしてきたのですが、過去10年間は臨床を続けつつ製薬企業の研究開発に従事してきました。その中でUMNという言葉と向き合い続けてきました。特に巨大外資系製薬企業がUMNというとき、それは単なるマーケット・ニーズ(市場ニーズ)ではないのかとしばしば感じられたのです。

外資系製薬企業が考える市場ニーズとは?

久道 近年製薬企業はM&A(企業の合併・買収)で巨大化・商業化してきました。その意味で、日本にはメガファーマという規模にふさわしい世界トップ10に入る製薬企業は存在していません。つまり現代の薬のメインプレイヤーたる巨大製薬企業は全て外資です。現在の創薬は臨床試験の最終段階で巨額の費用がかかるため、企業規模が巨大でないと対応できず、当然、ビジネス的な視点が入らざるを得ないのです。多くのメガファーマでは収益は基礎研究にはわずかしか回さず、大規模臨床試験やM&A、自社株買収に回します。そのため、外資系製薬企業の考えるUMNはしばしば単なるマーケット・ニーズとなってしまうのです。つまり市場性がなければ、薬の研究開発ができない。そうなると市場性がない、あるいは一見市場性がないように見えるが実は可能性を秘めている領域に資金を出しません。現在の製薬ビジネスにはそのような集団的な無意識が働いているのです。だからこそ同じ分野の似たような治療薬に各社同時に群がるのです。私はそんな巨大製薬企業が我々をどこに連れて行くのか、不安と懸念を感じるようになりました。

その懸念から下北沢病院のコンセプトが生まれたのですね

久道 はい。製薬ビジネスがそのような閉塞状況にある中で、私は研究医としてあるいは企業役員として医薬品の研究開発の意思決定プロセスに関わってきました。一方、病院で臨床も続ける中で巨大製薬企業のUMNとリアル・アンメット・メディカル・ニーズ(患者の、街場のUMN)とのアンバランスを感じてきました。下北沢病院では薬ではなく、病院という形で本当の患者のニーズ、街場のニーズに応えられるのではないかと考えました。マーケット・ニーズではなく、患者の真の医療ニーズを掘り起こす。本来、医療者がやらなければいけないことや、自身のキャリアを通じて感じた矛盾を解決しつつリアル・アンメット・メディカル・ニーズを満たす領域を探す。そんな中で見つけたのが足病分野だったのです。

◆下北沢病院は日本で足病科の確立を目指す?

久道 足病科を日本で新たな診療科として立ち上げるのは難しいことです。ですから、整形外科・皮膚科・形成外科・血管外科・内科、老年科など各関連診療科がポダイアトリーの臨床的エッセンスを学べる環境を作ろうと考えています。そして、当院がそのような場の嚆矢になれればと思っています。各診療科からこの領域に興味のある人が一定期間研修に来て、エッセンスを持ち帰って知見を活かす。我々も各診療科の知見をフィードバックしてもらう。その方が新たな診療科を立ち上げて、従来型の診療科と同様のタコツボ化してしまうよりも有意義なのではないかと思います。大事なのは患者さんに還元することです。制度にこだわりません。

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