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見直される「新専門医制度」に期待する

見直される「新専門医制度」に期待する
 
末永裕之(すえなが・ひろゆき)日本病院会副会長小牧市民病院事業管理者

1946年愛知県生まれ。71年名古屋大学医学部卒業。同年聖霊病院初期研修後外科勤務。76年名古屋大学第2外科。82年小牧市民病院外科部長。97年同病院副院長兼外科部長。99年同病院院長。2012年同病院事業管理者兼院長。16年同病院事業管理者。日本病院会理事、常任理事を経て、10年より副会長。全国自治体病院協議会常務理事、副会長を経て、10年より参与。15年より日本診療情報管理学会理事長。


専門医の質を担保するために、2014年に第三者機関の日本専門医機構が設立され、新専門医制度に向けての準備が進められてきた。ところが、2017年4月にスタートする予定だった新制度は、1年延期となることが決定した。病院団体からは「医師の偏在、地域医療の崩壊につながる」と問題点を指摘されていた。これまで議論されてきた新専門医制度のどこに問題があったのか。自治体病院のトップ、日本病院会副会長の顔を持ち、同機構の理事も務めた末永裕之氏に聞いた。

~地域偏在招かず20年先を視野に入れた改革を~

——この制度では「医師の偏在や地域医療の崩壊につながる」と反対されたのですね。
末永 延期になる前の段階で、日本病院会としていろいろな要望を出しています。その中に、このままでは医師の偏在や地域医療の崩壊につながるという指摘があります。検討を重ねてきた新専門医制度ですが、理念については良いと私は思っています。ただ、良い専門医を作ろうということで、認定や更新の条件を厳しくし過ぎたわけです。

10年20年先に完成すれば良い

——厳しくしたことが問題なのですか。
末永
 厳しくすれば、確かに専門医の質は担保できます。しかし、これまでは市中の多くの病院で専門医を育成できましたが、新専門医制度がスタートすると、それができなくなるという状況でした。基幹施設の条件が厳しくなったことで、大学病院とごく一部の大規模病院に限られてしまうからです。現実問題として、そうした病院にいなければ、専門医を取れなくなってしまいます。当然、専攻医は大都市圏の大学病院や大規模病院に集中します。それによって、医師の地域偏在が進み、地域医療が崩壊に向かうと考えられるのです。また、専門医の資格を取ったとしても、更新基準が厳しいので、小規模病院の専門医や診療所の専門医は、更新が難しくなります。こういった点も問題でした。

——これまで専門医を育ててきた病院も、それができなくなるのですね。
末永
 あのまま新制度がスタートしていれば無理だったでしょう。ほとんどが大学病院ということになったと思います。ところが、これまで多くの専門医を育ててきた病院は、地域医療に取り組みながら、多くの専門医を育ててきたことに誇りを持っています。突然、大学病院と一部の病院でやることになれば、それは違うだろうという意見が出てくるのも無理はありません。大学も含め、地域で専門医を育てていくべきだと私も思っています。

——条件が厳しくなったのはなぜですか。
末永
 2008年に日本専門医制評価・認定機構として法人ができました。それから11年にかけて厚労省の「専門医の在り方に関する検討会」などが開かれ、そこで検討されたことなどを含め、14年に「専門医制度整備指針」ができたわけです。これにとらわれ過ぎてしまったのが、条件が厳しくなり過ぎた原因です。厚生労働省の委員会で真摯に議論されてきて、理念などについては、病院団体も問題ないとしています。ただ、新制度をそのまま実現させていたら、さまざまな問題が生じていたと思います。

——それまでの議論がひっくり返った理由は?
末永
 時代背景もあると思います。今、日本の医療のありようが激変の時代を迎えています。これからは地域医療計画を作り、その中で、医療包括ケアシステムを構築していくことが求められています。そういう地域医療の時代にあって、このままではまずいということになったのだと思います。それから、変化が激し過ぎたのでしょう。

——具体的にはどういうことですか。
末永
 例えば、専門医の養成に当たる基幹施設が少な過ぎ、それ以前と比べて変化が大き過ぎました。システムを変えるときには、以前と激変すると混乱が起きるので、激変しないような緩和策を考えればよいのです。例えば、もっといろいろなプログラムを作って、いろいろな病院で研修ができるようにし、基幹施設を増やすという方法もあります。理念は変えず、運用の部分を考えていけば、現実的な方法は見つかると思います。

—— 一遍に変えない方がうまくいく?
末永
 そうでしょうね。できれば激変は避けた方がいい。10年20年たったときに、完成した専門医制度になっていればいい、と私は考えています。スタート時点で完成した制度にしようとすると、どうしても無理が生じますから。

——地域偏在の解消は行政の仕事で、新専門医制度で考える必要はないという意見もあります。
末永
 経済財政諮問会議で出された資料を見ると、医師の偏在解消に向けた強力な取り組みの推進などと書かれています。今までは医師の診療科や勤務地は選択の自由を前提としていましたが、それで駄目なら、医師に対する規制を含めた地域偏在、診療科偏在の是正策を検討して年内にまとめる、となっています。それだけではなくて、都道府県の役割を強化し、偏在解消も都道府県にある程度委ねた方が良いという話も出ています。保険医の配置定数の設定も検討する、となっています。こういう話が出てくると、医療者側から反発があるでしょう。できることなら、こんな方法に頼ることなく医師の偏在を解消してほしい。日本病院会のアンケートでも、新専門医制度に期待するという意見があります。私もそう思っています。

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