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西友

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「登録販売者」試験不正受験事件で 木で鼻をくくった対応

 大手スーパー、西友への批判が高まっている。加盟する日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)が1月18日、西友に対して「退会勧告」を行ったのである。事の発端は、薬剤師でなくても薬を販売できる「登録販売者」試験の不正受験事件への対応だ。事件は、同社が受験資格である実務経験を水増しした証明書を大量に発行させて従業員に受験させ、不正合格者に薬を販売させていたというもの。会員企業の不祥事に頭を抱えたJACDSが対応と防止策を検討しようと、西友に説明を求めたところ、無視を決め込んだばかりか、事件後の処置もウヤムヤにしてしまった。世界最大の小売業、米ウォルマートの完全子会社である西友にドラッグストアや薬局はカンカンだ。

 JACDSの宗像守・事務総長も西友の態度に怒りを隠さない。

 「登録販売者試験不正受験事件を起こしたのは西友だけではない。同時期にドラッグストアのカメガヤでも起こっている。今後の防止のためにも事情を説明してほしいと要請したら、西友はウンともスンとも言ってこない。再三の要請にようやく来てくれたものの、昨年10月に発覚したときに公表したプレスリリースを持ってきただけ。何を尋ねても『さあ、知りません。私は仕入れを担当する商品部ですから』と言うばかり。カメガヤは発覚直後から逐一説明に来るだけでなくJACDS理事の辞任を申し出たのと対照的。西友には責任のカケラもない」

 しかも、商品部では無理もないから、後刻回答してもらうことにしたのに、なしのつぶて。その結果、退会勧告処分になったという。

 JACDSの会員であっても西友は大手スーパー。スーパーだからドラッグストア業界を低く見ているためというわけではないらしい。2月7日、不正受験があったと発表したダイエーは、どういうことが起こったのかきちんと説明し、防止するためにどうしたらよいか問題を共有しようとしているという。西友とは問題の捉え方が違う。

資格設立当初の試験から不正受験  その西友の不正受験事件は、2008年以降4年間にわたり、水増しした実務経験証明書を282人に発行し、そのうち200人が合格。発覚するまで101人が70店舗で医薬品を売っていたという内容である。改正薬事法が09年に施行されたのに合わせて、その前年の08年から登録販売者の試験が始まったから、最初から不正受験させていたことになる。しかも西友の282人分の水増し証明書は、実務経験証明書を発行した352人の8割を超える。「調べても分からないだろう」と木で鼻をくくったような行為に映る。

 もちろん、西友以外にも実務経験水増し事件は起こっている。ざっと報道されただけでも、12年1月に和歌山県でドラッグストアと調剤薬局を経営するウエダ薬局が摘発されたのを手始めに、3月には大阪の全国柔整鍼灸協同組合の組合員である柔道整復師が各地で水増ししていたのが発覚。6月には埼玉県のディスカウントストアのロヂャースでも29人の従業員に水増し証明書を発行して不正受験させていたのが摘発されている。

 続いて神奈川県と東京にドラッグストア「Fit Care DEPOT(フィット・ケア・デポ)」56店舗を展開するカメガヤでも水増し証明書を大量に発行し190人が不正受験で合格、薬を販売していたことが露見。ダイエーでも社内調査をしたところ登録販売者試験合格者379人のうち29人が実務経験不足だったと発表している。西友の不正受験もそんな中の1件だが、何といっても大手スーパーの西友が水増し証明書を発行して過去最多の200人もの不正合格者を生み出し、医薬品を販売していたのは社会に与える影響が大きい。

 西友の不正受験事件が発覚したのは、昨年8月。「西友の店舗には薬に詳しくない登録販売者がいる」という東京都への通報があったという。西友から退去を迫られたテナントの腹いせではないか、いや、従業員の内部告発だろうという説もある。あるいは、登録販売者の名札を付けた店員が薬についてあまりにも知らな過ぎるのを不審に思った客が通報した等々、さまざまな説が流れている。

 ともかく、通報を受けた東京都薬務課が西友の店舗に立ち入り調査を行うと、勤務日報の実働時間と受験で提出した実務経験証明書とが異なり、実務経験不足だったことが判明したという。

 「実務経験は薬剤師の下で月80時間、1年以上の勤務と定められている。しかし、会社側は勤務ローテーションを組んでいて、医薬品売り場の従業員が食料品売り場や衣料品売り場でも働いている。そんな状態にもかかわらず、食料品売り場や衣料品売り場にいる時間も医薬品売り場で勤務していた時間としてカウントしていた」(都薬務課)

 勤務時間をごまかした程度とはいえ、健康に関係する医薬品販売資格の不正であり、れっきとした薬事法違反事件である。都は受験した本人と会社の責任者を呼び出し、資格取り消しの行政処分にした。改正薬事法では、薬剤師でなければ販売できなかった一般医薬品を副作用リスクに応じて3分類。大半の医薬品は登録販売者が販売できることになった。登録販売者さえ確保すれば、利幅の大きい医薬品を売れるとあって、ドラッグストアやスーパー、コンビニエンスストア、ホームセンターが競って登録販売者育成に走った。

ウォルマート傘下後、企業体質が変貌  早くから店舗内に医薬品売り場を設けて販売に乗り出していたイオンは2140人の登録販売者を確保し660店で医薬品販売を行っている。セブン&アイ・ホールディングスは調剤薬局大手のアインファーマシーズと提携して420人の登録販売者を育成。ダイエーも340人をそろえた。テレビ電話で薬剤師の説明を受けることで夜間も医薬品を売るという挙に出て話題になったドン・キホーテも320人の登録販売者を集め、積極的に医薬品販売に乗り出した。当然、西友も登録販売者確保を急いだ。そういう中での不正事件だ。

 「かつての西友では考えられない」と言うのは、西友の元幹部だ。「かつて西友は堤清二氏が率いるセゾングループの優良会社でした。しかし、経営危機に陥ったグループ各社を助けるためにインターコンチネンタルホテルを買い取ったり不良債権処理に資金を注ぎ込んだりした結果、セゾングループが崩壊したときには西友も経営危機に陥った。その西友を買い取ったのが、日本進出を狙っていた米ウォルマートだった。セゾングループ時代の西友は堤会長が唱える文化を大切にし、消費者を裏切るようなことは考えもしなかった」。

 だが、ウォルマートの傘下に入り、すっかり変わってしまったらしい。買収後、しばらくの間は日本人トップに経営を任せていたが、赤字体質は直らなかった。西友の店舗は駅前の好立地にあるとはいえ、ほとんどの店舗は売り場面積が小さい上、建物も改装が必要な古いものが多かったことが大きな原因ともいわれている。

 「ウォルマートは西友を完全子会社にしてウォルマート流の仕入れや商品管理、販売方法などを導入して立て直しを図ったが、当初は日本の商習慣に合わず失敗を繰り返した。例えば、アメリカから派遣されたトップはエブリデー・ロー・プライスをうたい、経費節約として新聞の折り込みチラシを減らした。すると、ライバル店が一斉にチラシ攻勢に出たため、西友は客が減少。慌ててチラシを復活したこともある」(元西友幹部)

 安く売れる商品を探せという号令で、仕入れ部門が見つけてきたのが、幅が狭く、少々ゴツゴツした茶色のトイレットペーパー。日本の消費者に受け入れられなかったのは言うまでもない。

 こんな具合に失敗を繰り返した後、食品スーパーに切り替えたのが成功。赤字垂れ流しをストップさせ、この数年、売り上げを着実に伸ばしている。さらに売り上げ増、利益増を加速させようと取り組んだのが、医薬品販売だった。

昨年末予定していた調査結果は未公表  しかし、ウォルマート流の効率経営を進めるために西友は一つの売り場だけを担当するのではなく、忙しい売り場にも立つローテーションを組ませている。その一方で、店員に専門知識が求められる登録販売者の受験を勧めた。この矛盾する行為の結果、薬事法で定める医薬品売り場での実務経験不足のまま証明書を発行したのだが、大量の不正受験は、登録販売者確保を急ぐあまりの組織的な行為ではないかという疑いが残る。

 西友は記者会見でこう説明している。「当社はお客さまが必要とする商品を幅広く、低価格で提供するという方針で、医薬品も幅広く提供する商品として販売している。だが、都の立ち入り調査を受け調査した結果、実務経験が厳しくチェックされていなかった。実務経験の認識が足りなかったというしかない。しかし、組織ぐるみではない。調査の上、問題がどこにあったか明らかにしたい」。

 だが、年末までには明らかにするといっていた調査結果はまだ公表されていない。資格剥奪で登録販売者がいなくなった店舗では医薬品販売を中止したから問題はないということなのだろうか。ウォルマートはアメリカでもしばしば低賃金や商法が批判されるが、傘下の西友もウォルマート流の批判される商法に染まっていたようだ。

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