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日本放送協会改革推進法案の中身とは

日本放送協会改革推進法案の中身とは

NHKのスクランブル放送導入の是非を問う法案

今年の通常国会に日本放送協会改革推進法案という法案が提出されている。この法案は昨年の通常国会にも臨時国会にも提出されており継続審議となっている。つまり、審議される事なく何度も持ち越しとなり改めて今国会の議案となっている。提出者は日本維新の会である。

 法案の内容として大きく2点が挙げられている。

 1つは「協会の業務の全般にわたる不断の見直しを行い、協会の業務の重点化を図るとともに、協会の組織の合理化を図ること」。国内放送、国際放送、衛星放送において「報道番組、教育番組、福祉番組等に重点を置いたものとなるよう必要な措置を講ずる」というものである。要するに、ドラマ、スポーツ、音楽、娯楽等のエンタメ番組を制作せずに報道・教育・福祉番組の制作放映に特化するべきだという案だ。そして、特化する番組以外の制作放映をNHKから分離分割した法人に継承し委ねる事でNHKの組織の整理を図るとしている。

 もう1つは受信料の国民負担についてである。業務の重点化と組織の分割によって大幅に支出が削減される事を前提に2つの運営費の国民の負担方法の案を明示している。

 1案は「協会の放送番組を視聴した分量に応じて受信料の額を定める仕組みを構築すること」を提案している。所謂、スクランブル放送を採用する案である。

 スクランブル放送とは映像や音声を暗号化して送り出す放送で、暗号化された信号を攪拌する事で通常では視聴が出来ない様にしておき、料金等を支払う事で元の状態に戻す事が出来る。デジタル放送に完全移行されて以来、CASと言われる限定受信方式によってデジタル放送が管理される様になりスクランブル放送の導入が可能となっている。B−CASカードを使用して視聴者の受信方法によって区分する事が出来る。

 又、別案として「現行の受信契約及び受信料に係る制度を廃止し、協会の放送を受信することのできる受信設備の設置の有無にかかわらず協会の運営に要する費用を国民が負担する制度を導入する」事を挙げる。こちらは簡単に表現するとNHKの運営費用を税金で賄うという事だ。

 フランスは受信料を地方税と共に徴収している。フィンランドも税金で運営されている。スペイン、ロシア、シンガポール、ベトナム、インド、オーストラリア、アメリカ、カナダ、ブラジル、南アフリカ、ガーナ等は政府の補助と寄付や広告収入等によって運営されている。この法案は全額を税金として国民が公平に負担するという案である。

NHKが唱える4つの主張とは

 本法案が提議する内容についてNHKの見解はどうか。先ず、スクランブル放送についてはNHKは導入しない事を明言している。その理由として幾つか挙げている。

  1つは「特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っている」という事からスクランブル放送はそぐわないとしている。NHKは企業のコマーシャルを流していない為に特定の利益に左右される様な番組作りを行っていない事はその通りである。一方、NHKが視聴率に拘っているのも事実。豊富な資金力を背景に国際的なスポーツ番組や連続ドラマ、大規模イベント並みの音楽番組等を制作し、民放各社と熾烈に鎬を削っている。必ずしも公共放送に必要不可欠なコンテンツとは言えない様な番組も有る。民放の娯楽番組をNHKが圧倒する事が有れば、それは紛れも無く民業圧迫に他ならない。

 2つ目の理由として、「緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることのできない番組も数多く放送している」という主張。NHKのネットワークは民放とは比べ物にならない位国内外に網羅されている。定点カメラや人員配置も民放とは比較にならない位の体制を敷いている。緊急災害時にはNHKの情報量が最も早くて多く、国民の信頼を得ている。だからと言ってスクランブル放送を否定する絶対的な理由とはならない。緊急災害時に即座にスクランブルを解いて全ての受信設備で視聴が出来る様にすれば良いだけの事である。

 3つ目の理由として、「NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題がある」というものだ。国民が遍く視聴出来る様に整備する事がNHKに課されて来た役割であったが、既にほぼ遍く視聴出来る体制を確立している。それは、受信料制度とはまた別問題であり、スクランブル放送を導入しても見たい人が対価を支払えば遍く視聴出来る。

 4つ目の理由として、「スクランブルを導入した場合、どうしても『よく見られる』番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう『健全な民主主義の発達』の上でも問題がある」としている。「よく見られる」は単なる人気番組であって現在のNHKにも存在する。例え人気番組であっても内容が画一化されて行くと人気を失う。よって、NHKが危惧する番組視聴の選択肢が狭まるというのは杞憂であろう。番組の人気を維持する為の努力を継続する事は当然でありスクランブル放送の導入とは関係無い。むしろ、見たい人が見たい番組を選択して見た分だけ支払う制度こそが「健全な民主主義」と言えるのではないだろうか。

 次に財源を税金に出来ないかという提案に対するNHKの見解を記す。「運営資金を国家権力に依存するということになり、財政面で時の政府の大きな影響を受けることになる。そうなると、NHKの事業運営の自主性が損なわれ、表現の自由を守るべき言論報道機関としての役割を十分に果たせなくなるおそれがある」つまり、公平公正・不偏不党の報道機関としての役割を果たす事が出来なくなるという主張である。政府の予算によって運営すると政府の干渉を受け易くなるという主張だが、それは前提から違っている。現在に於いても公共放送として総務省の許認可の下に運営しているのであって、既にNHKの運営に関して干渉は受けている。何より、政府がその気になれば現状に於いても強く事業運営に干渉する事も可能である。税金で運営されようが、受信料収入で運営されようが立場的にはそう変わらないのではないだろうか。そもそも政権は主に政治家によって構成されており、政治家は選挙によって選ばれている。政権の意向は国民の意向とも言え、民主主義を蔑ろにする事になるとは限らない。勿論、表現の自由は万人に保障された権利なので政府が侵害する事は考え難い。

NHKの娯楽番組にCMを導入してはどうか

本法案ではNHKを分社化して重点とする報道・教育・福祉以外の放送を移すという案を出している。分社化は社屋や放送設備を共用する事も有って容易ではない。代替案として、報道・教育・福祉以外の番組に関してはスポンサーを募集して広告を流しても良いのではないか。そうする事でNHKが民業を圧迫しているという批判を避けられる様になる筈だ。広告収入を得る事で受信料の大幅な減額が可能になる。

 報道・教育・福祉以外に限定してスクランブル放送を導入しても良いのではないだろうか。全面的なスクランブル放送の導入には慎重になる必要が有る。劇的な受信料制度の変更に視聴者の対応と理解が追い付かないケースも予想される為に大幅なNHKの収入の減少に見舞われる可能性が有る。場合によっては事業が立ち行かなくなる事も考えられる。1万人余の職員を擁すNHKの極端で性急な改革はリスクが高いかも知れない。

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