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未来の会

第62回 長谷川閑史が積み上げた1兆8000億円のリスク

第62回 長谷川閑史が積み上げた1兆8000億円のリスク
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
長谷川閑史が積み上げた1兆8000億円のリスク

 武田薬品工業の抗がん剤「ベクティビックス点滴静注100㎎」(一般名・パニツムマブ、遺伝子組み換え)に「中毒性表皮壊死融解症(TEN)」の重大な副作用があることが分かった。厚生労働省医薬食品局安全対策課は8月6日、使用上の注意を改めるよう製造販売業者に指示している。

 パニツムマブは「重大な副作用」の項にTENを追記。独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)の報告書によれば、国内の直近3年間で1例が死亡。TENとの因果関係が否定できないとされ、改訂が適切と判断したものだ。

 ヒト型抗EGFRモノクローム抗体であるパニツムマブは、KRAS遺伝子野生型の治癒切除不能な進行・再発の結腸・大腸がんに対して用いられる。副作用には皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)が記載されていた。

助成にたかる「グローバル企業」
 一方で、武田は「グローバル企業」への道をひた走っている。

 7月27日にはスイスのDrugs for Neglected Diseases initiative (DNDi)と協働する契約の締結を発表した。内臓リーシュマニア症(VL)の革新的な治療薬開発を目指し、アミノピラゾール系化合物群の中から最適な化合物を特定することが目的だ。武田とDNDiは「誘導体最適化(Lead Optimization)プログラム」に取り組むことになる。

 VLはサシチョウバエが媒介して感染する寄生虫病。病原体であるリーシュマニア原虫は20種を超えるという。熱帯地方を中心に世界90カ国以上で感染が確認されているものの、治療の選択肢は限定的だ。世界保健機関(WHO)が指定する17種類の「顧みられない熱帯病」(NTDs)の一つに数えられている。

 VLは中でも最も深刻。貧血や脾臓・肝臓の肥大、体重減少、発熱を引き起こし、治療しなければ、死に至ることもある。現状では年間約30万例の新たなVL症例が認められ、2万〜4万人の死亡例が報告されている。

 DNDiと武田が連携して最適化に取り組むアミノピラゾール系化合物群は前臨床試験において優れた抗寄生虫活性を示しているらしい。「高い安全性と有効性が期待される」というのが広報辞令だ。短期間かつ経口投与で治癒効果を示すと考えられることから、従来型のVLの治療法とは違った新たな治療薬となることが期待される。ご同慶ではある。

 問題はここから先だ。

 今回の「誘導体最適化プログラム」は「開発途上国で必要とされる医薬品やワクチンなどの研究開発を促進する基金」である公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の助成案件に選定された。同プログラムに対するGHIT FundからDNDiへの助成金額は約4億円とみられる。

 武田ほどの企業が海外企業と組んで乗り出す研究開発。にもかかわらず、資金調達すら市場で行えないのだろうか。前社長の長谷川閑史が唱導した「武田イズム」は今も健在のようだ。これも米国流ということだろうか。

 DNDiと武田は、今回の提携以外にも、「リーシュマニア症およびシャーガス病に対する新薬の発見を加速・拡大するための創薬ブースター」(Drug Discovery Booster)などで協働体制を取っている。これらの取り組みを通じ、両社は「顧みられない熱帯病」の治療に貢献していくという。

ばくち”に負けて膨らむ借金体質
 武田はこれまで海外の企業の合併・買収(M&A)に血道を上げてきた。今さら説明の必要はないだろう。買収先企業の売上高を加算することで海外の業績は伸びたかに見える。

 だが、肝心の国内では減収を続けている。背景には後発薬(ジェネリック)の浸透と薬価引き下げの影響がある。

 「今や武田にとって最大の資産は『無形固定資産』なのです」(製薬企業の経営に詳しい研究者)

 無形固定資産とは何か。世間でいうところの「のれん代」と「のれん由来の販売権、特許権」に他ならない。

 武田がこれまで買収してきた海外企業はいずれも新薬開発プロジェクトを進めていた。これを「特許権」として計上する。

 さらには、他企業と協働して開発し、成功した際に販売権を得る契約を結ぶこともある。こちらは「販売権」ということになる。プロパーの戦力では開発できないと思い込む長谷川にとって、M&Aの狙い目は両者に尽きる。

 「M&Aは一種のばくちです。成功確率は1割程度しかないという調査結果もある。特許権や販売権はのれん代と同様、実物資産の裏付けがありません。成功が保証されているわけではない。開発が不調に終われば、水泡に帰してしまう」(前出の研究者)

 武田が抱え込んだ無形固定資産とはリスクとほぼ同義である。それが1兆8000億円も積み上がっているという。穏やかではない。

 2008年にリーマンショックが起こるまで、武田の総資産は2兆8000億円。このうち余剰資金が2兆円前後を占めていた。財務上、非の打ちどころがない優良企業だ。

 だが、武田は虎の子の2兆円を巨大M&Aに惜しげもなくつぎ込んでしまった。今や有利子負債8400億円の借金会社へと転落。かつての面影はどこを探しても見当たらない。

 「武田がM&Aにまい進したのは自前の大型新薬を生み出せなかったからです。武田の金看板だった四つのブロックバスターの特許が切れる『2010年問題』。10年代の稼ぎ頭となる新薬開発を目指し、武田は数兆円もの研究開発費を投入してきました。ただ、それらは全て捨て銭になった」(前出の研究者)

 長谷川に博才はない。掛け金が底を突いたからといって公益社団法人の基金にたかる。賭場ですら許されない横道がまかり通っている。これも長谷川流の「グローバルスタンダード」なのだろうか。

 今の武田は「進むも地獄退くも地獄」。修羅の道はどこまで続くのか。

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