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第55回 長谷川閑史が推進した「グローバル経営」の帰着

第55回 長谷川閑史が推進した「グローバル経営」の帰着
虚妄の巨城 武田薬品工業の品行
長谷川閑史が推進した「グローバル経営」の帰着

 年初から慌ただしい動きが続いている。国内製薬業界の「雄」・武田薬品工業の周辺。

 まずは連日、「昨年来高値」を付けた株価である。欧州や中国の情勢をめぐって不透明感が漂う中、武田はやせても枯れても国内製薬業界首位にある。それを見込んで「ディフェンシブ性を評価した買い」が流入しているという。

 「リーマンショックの直後、上場企業の株価が軒並み下がった際にも、兜町界隈では『ディフェンシブ銘柄』なる用語が飛び交いました。ディフェンスとは守備のこと。景気動向に左右されにくく、安定的な業種に属する銘柄がディフェンシブだといわれます。具体的には製薬をはじめ、電気・ガス、食料品、交通機関関連企業を指している言葉です」(株式市場関係者)

武田の申し立てを米裁判所が却下
 ディフェンシブ性を評価した買いとはどういうことか。武田株は急騰もしない代わりに急落することもないとみられている。今の市況は「売買の差額」こそがうまみであるキャピタルゲイン益を狙う相場ではない。配当などのインカムゲインを取りにいく買いである。現下の状況は投資家にとって対象が選びにくいことこの上ない。「アベノミクス」はどうなったのか。不景気といってもいい情勢である。市場は安定を求めている。武田の株高が続く限り、日本経済に浮上の目はない。

 武田は1月16日、医薬営業本部にある流通政策担当組織を見直すとの発表を行った。現行の組織は流通推進部傘下に配した3特約店部それぞれにエリアごとの特約店担当組織を置く形を取っている。今回の見直しで推進部は「流通統括部」と改称。傘下に全国に7特約店部を新設する形に改める。組織の簡素化によってエリアの声を吸い上げやすくし、機動的な政策展開ができるとうそぶく。「流通統括部」は、特約店のサポートだけでなく、新たなビジネスモデルや将来的な流通政策の企画立案も担う。2月1日から実施する。

 新設される特約店部は▽北日本特約店部▽北関東・甲信越特約店部▽首都圏特約店部▽名古屋特約店部▽中日本特約店部▽中国・四国特約店部▽福岡特約店部。従来の▽東日本特約店部▽中日本特約店部▽西日本特約店部は廃止した。

 これと並行し、医薬営業本部内に▽オンコロジーマーケティング部▽オンコロジー東日本営業部▽オンコロジー西日本営業部▽ワクチンマーケティング部▽ワクチン営業部を新設する。

 「これらの組織見直しは、4月1日の完全移行を目指す新グローバル組織体制の構築の一環です。効率的で機動的な組織体制にするとの狙いがあるとみられています」(武田の内情をよく知る関係者)

 国内での苦境もさることながら、鬼門は海外である。昨年も災厄が続いた米国市場。今年も武田にとって楽観できない材料がそろっている。

 武田薬品工業は1月13日、不本意な発表に踏み切った。痛風治療剤「コルクリス」に関する特許を侵害したとして、米製薬会社のヒクマファーマシューティカルズに対して求めていた販売仮差し止めの申し立てが米国の裁判所から却下されたのだ。

 武田は14年10月、コルクリスに対する特許侵害で、ヒクマ社を米デラウェア州連邦地裁に提訴している。11月に同裁判所は武田が求めていた販売の仮差し止めを却下。これを受け、武田は控訴した。だが、先ほど米国連邦巡回区控訴裁判所が申立却下を支持。ヒクマ社が同製剤を販売することが認められた。武田は「今後も訴訟を継続し、争っていく」と虚勢を張っている。

メガファーマ経営者か長谷川後継か
 武田の外患はこれだけではない。他にも、ヒクマの痛風治療剤を承認する手続きに違反があるとして14年10月に米食品医薬品局(FDA)を提訴。だが、こちらも1月9日、米コロンビア特別区連邦地裁に申し立てを却下されている。こちらについても「控訴する」方針を明らかにした。

 一連の訴訟は15年3月期の業績にどのような影響を与えるのだろうか。武田は「現在精査中であり、開示すべき事項が判明した場合は速やかに開示する」と、通り一遍の説明にとどめた。

 慌ただしさは経営中枢にまで波風を立てている。中枢とは他でもない。社長クリストフ・ウェバーその人である。メガファーマとして世界第3位に位置する仏サノフィの次期CEO候補として一部メディアでその名前が報じられたのだ。

 ウェバーは即座に社内メールでサノフィとの関係を否定した。だが、両社を天秤にかければ、答えはおのずと明らかになる。海外メガファーマの経営トップへの就任。製薬業界に身を置く経営者ならば、誰もが手にしたいチャンスに違いない。

 ウェバーはサノフィを選ぶのだろうか。決断した瞬間、武田の社長兼最高執行責任者(COO)のポストは「腰かけ」に過ぎなかったことが明白になる。「世界80カ国にある拠点を足場に、グローバルリーダーを目指す。会社の魅力を高め、『武田で働きたい』と思わせたい」という言葉も水泡に帰すことになる。これは前社長・長谷川閑史にとっても由々しき事態だ。長谷川は「グローバル経営」を金看板に側近を外国人で固めてきた。生え抜きの実力者にもかかわらず、長谷川とぶつかり放逐された有為の人材は枚挙にいとまがない。

 ウェバーを後任に据えて以来、長谷川を「製薬業界の出井伸之」と揶揄する声が製薬業界内外で聞かれるようになっていた。出井はあらためて紹介するまでもないだろう。かつてソニー会長兼最高経営責任者(CEO)を務めた人物だ。

 どん底の業績不振の真っただ中、2005年に米国メディア事業担当のハワード・ストリンガーを後釜に指名した。ストリンガーにはエレクトロニクス事業の経験がなかった。工場に顔を出すことはほとんどない。国内への滞在は1年のうちのわずか3カ月ほど。ソニーの業績はストリンガー社長の誕生から現在まで10年近く上向くことがないままだ。

 大型の企業合併・買収(M&A)が続き、武田のグループ企業は実に3分の2が外国人従業員で占められている。研究開発はもちろん、財務や人事などの部門で意思決定に関わっているのも外国人幹部だ。ウェバーは順当にいけば、今年6月に長谷川からCEO職を禅譲される運びだ。

 グローバル化は結構。だが、自ら後事を託したつもりの腹心に裏切られる心配は皆無なのだろうか。政治ごっこにかまけている時間などどこにもないように思えてならない。

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