
Vol.7 三和病院(千葉県松戸市)
医療法人社団鼎会三和病院は、乳腺外科の専門性を組織全体で共有する体制と、地域に密着する小規模病院ならではの機動力を活かした運営により、女性医師が専門性を維持しながら働き続けられる環境を実現している。その経営の考え方を、渡辺修院長に聞いた。
——貴院は女性医師や看護師の比率が高いとの事ですが、その背景についてお聞かせ下さい。
渡辺 一般急性期50床の病院で、乳腺外科と内科の2本柱で診療を行っています。乳房疾患の診断や乳がん手術を担っている為、患者は女性が中心で、女性医師の比率も高い。嘗ては常勤医師の半数が女性でしたが、現在は出産や育児に伴い週3回勤務や時短勤務へ移行した医師もおり、常勤医師に占める女性比率は35%となっています。
——女性医師の比率が高い背景には、働き易い環境作りも影響しているのでしょうか。
渡辺 女性の場合は、妊娠や出産、育児によって一時的に就労形態を見直す必要が生じる事も当然有ります。彼女達が「子育てをしながら働き続けたい」と望むのであれば、病院として応える責任が有ります。実際、毎年複数名が産休・育休を経て復職しており、常勤に限らず、週1回からでも事情に応じて勤務を継続しています。こうした柔軟な運用は、小規模病院ならではの強みであり、「繋がり続けられる」環境が、結果として当院の女性医師のキャリア継続に繋がっています。
——継続的な就業を支える為の、独自の制度や仕組み等が設けられているのですか。
渡辺 特別な制度を設けている訳ではありません。復帰の際に常勤とするのか、時短勤務とするのか、或いは非常勤とするのか——事情や希望を丁寧に聞きながら、個別に勤務形態を決めています。相談は基本的に私か事務局長が直接受けています。大規模病院であれば細かな規則や運用ルールが必要になるでしょうが、当院では大枠のみを定め、後は対話を通じて柔軟に調整しています。
——柔軟な調整は、日頃から行われているのですか。
渡辺 妊娠中は体調が優れない日も有りますし、腹部が大きくなると手術への従事が難しくなります。その場合は外来診療へ軸足を移す等、状況に応じて業務を調整します。休養が必要な日は他のスタッフが補完します。多くの職員が自身でも経験している、或いは将来経験し得る事柄ですから、「お互い様」という意識が自然に共有されています。困った時は支え合うという姿勢は組織全体に浸透しており、男性職員も積極的に協力しています。
——こうした取り組みは、結果として病院運営にどの様な影響を与えているとお考えでしょうか。
渡辺 経営面では、「働き易い病院」という評価が定着する事で、新たな女性職員の採用に繋がっています。又、病院が職場環境に対して配慮を行っているという認識から職員の安心感が高まり、病院への信頼も醸成されていると思います。その信頼は、「病院の為に何が出来るか」という主体的な姿勢を生み、結果として組織全体のスキル向上や効率化にも結び付いています。
——組織全体の底上げや連携強化の為に、他に実施されている事は有りますか。
渡辺 乳がん治療が多い事から、昨年は全職員を対象に、月に1度、約1時間の乳がん勉強会を開催しました。講師は私や看護師、リハビリスタッフ、ソーシャルワーカーが務め、それぞれの専門分野について話しました。毎回、最後に小テストを実施し、12回全てに合格した職員にはピンクリボンのバッジを配布して、名札の横に着用し、乳がん診療への理解を共有する証としています。
——参加者の反応は如何でしたか。
渡辺 特に事務職員の参加が積極的で、「患者さんの気持ちをより深く理解出来た」「どの様な言葉掛けが適切か学ぶ事が出来た」といった声が多く寄せられました。治療内容や様々な職域の背景を病院全体で共有する事で、接遇の質が向上しただけでなく、各自が自らの役割を改めて認識する契機になったと感じています。
——この勉強会は、院長が発案されたのでしょうか。
渡辺 いいえ、看護師からの発案です。「勉強会を開催したい」という提案に私も賛同し、実施に至りました。実は、現場からの声を出来る限り形にしていくという姿勢は、他の取り組みにも現れています。例えば、がん治療後に生じるリンパ浮腫への対応ですね。現在当院には、リンパ節の切除や放射線治療後の症状改善の為のセラピスト資格を持つ看護師が3名在籍していますが、施術を行うリハビリ室に勤務しているのは1名のみでした。残る2名は手術室と病棟を担当しており、日常業務の中ではその資格を十分に活かせていなかったのです。そこで、予約が入った際には病棟や手術室からリハビリ室に出向き、施術を行う事が出来る体制へと改めました。これも看護師の提案によるものです。
——こうした主体性の有る組織文化は、どの様に醸成されたのでしょうか。
渡辺 職員1人1人の状況を把握し、迅速に調整する事が出来る事が大きいと思います。意思決定の距離が近い分、現場の声を形にし易い。その瞬発力が、結果として働き易い環境作りにも繋がっているのだと思います。職員が安心して働ける環境が有ってこそ、それぞれの力が発揮され、組織全体のレベル向上にも結び付く。今後も、この機動力を強みとして活かしながら、新しい人材と共に、より良い病院作りを進めていきたいと考えています。
Voice
元々、東京女子医科大学東医療センター(現・東京女子医科大学附属足立医療センター)の乳腺外科から当院に出向していたのですが、妊娠を機に退職し、出産後に当院で復職しました。当時はコロナ禍で、大学病院では育児をしながら働く事が難しい時期でした。しかし、当院なら、育児をしている間は、仕事と家庭を両立出来るのではないかと感じました。
最初は常勤でしたが、第2子を出産し、現在は週3回の非常勤で外来を担当しています。やはり子供がいると、風邪を引いたり熱を出したりと休まざるを得ない時も有りますが、他の医師や看護師の皆さんの協力で働き続ける事が出来ています。実際に子育てをしている方も多いので、同じ母親として心強さも感じています。
現在は子育てと外来診療に軸足を置いていますが、外科医としての研鑽は継続しています。将来的には再び手術にも携われる様、着実に経験を積み重ねていきたいと考えています。
東京の大学病院に勤務していましたが、夫が千葉に転勤となったのを機に退職し、当院に常勤医として着任しました。第2子の出産後に復職し、現在は週3回の非常勤として外来を担当しています。
大学病院では関連施設への定期的な異動が有り、育児との両立を考えると、より安定した勤務環境を求める様になりました。乳腺外科を専門とする医療機関は全国でも限られていますが、その分、当院では看護師の専門知識も高く、私が不在の際も一定水準の対応が可能です。専門性を組織全体で共有する事が出来ている点は、大規模病院との大きな違いだと感じています。
大学病院在籍時には、育児をしながら現在の様な勤務形態を選択する事は難しいと考えていました。当院では小規模ならではの柔軟性に加え、渡辺院長に直接希望を伝えられる環境が有り、それが実現している事を有難く思っています。



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