SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第59回「精神医療ダークサイト」最新事情発達特性は才能の源泉ではないのか

第59回「精神医療ダークサイト」最新事情発達特性は才能の源泉ではないのか
診断拡大で狭まっていく「正常」

以前福岡市で開かれた日本精神神経学会学術総会の記念講演で、精神療法の達人として知られるカリスマ精神科医・神田橋條治さんが、真面目なのか冗談なのか分からない絶妙な語り口で会場を沸かせた。

「精神科医の7割は発達障害です」

この講演から10年以上経つので筆者の記憶は頼りなく、実は6割とか8割と言っていたのかもしれない。いずれにしても突拍子もない割合なのに「それ、あるかも」と思わせて笑いを誘う神田橋さんの話術は凄かった。

自閉症(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)などの発達障害(神経発達症)は、こだわりの強さ、注意の偏り、対人関係の難しさ、感覚過敏、などの生来の特性ゆえに、環境と折り合わず生活に著しい支障が出る状態を指す。特性が濃くても精神科医として問題なく生活できていれば、発達障害には当たらない。

そんな定義は百も承知の神田橋さんが言いたかったのは、精神科医のみならず医者の多くは特性や凸凹の濃淡を持っているということだろう。並外れたこだわりの強さや集中力、旺盛な好奇心が無ければまともな医者になれないし、一流のスポーツ選手や政治家や官僚や弁護士やジャーナリストにもなれない。特性をこじらせて障害にすることなく、いかに才能に昇華できるか。そこに人生が懸かっている。

2025年9月、米国のトランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で「妊娠中のアセトアミノフェンの服用は出生児の自閉症リスクになる」と語った。他の解熱鎮痛剤よりも安全で妊婦も服用できる、とされてきた薬に急に待ったがかかったのだから穏やかではない。当然、世界中の医療関係者が反論したわけだが、トランプ政権がなぜこんな声明を出したのかと言えば、もはや無視できないほどの発達障害患者急増に直面しているからだ。

自閉症の犯人扱いにされたアセトアミノフェン

米国で自閉症と診断される8歳の子供の割合は、22年には31人に1人となり、00年の150人に1人から急増した。そこでケネディ厚生長官らが原因究明に取り組み、犯人扱いしたのがアセトアミノフェンだった。実際、複数の観察研究で関連が指摘されている。しかし、同じ母親から生まれた兄弟の比較などを含むスウェーデンの大規模研究では関連が否定された。

自身が発達特性を持ち、遺伝的要因が子に伝わりやすい母親は、その過敏性ゆえに体の痛みを感じやすく、アセトアミノフェンの服用量が増える。すると、子の自閉症は遺伝的要因で生じているのに、アセトアミノフェンの影響であるかのように見えるのではないだろうか。実際、25年6月に東京大学が発表した研究結果では、慢性疼痛とADHDとの関連が強く示唆されている。

発達障害の急増は、診断基準の拡大が一番の原因であることは論をまたない。だが、トランプ政権はなぜかそこには切り込まない。重い自閉症の場合、幼い頃の療育が重要なので早期診断は大事だが、昔は正常域だったゾーンにまで「障害」の網を広げている現状は危険過ぎる。

本誌を読んでいる優秀な医者のあなたが、今この時代に子供に戻ったとしたら、高確率で自閉スペクトラム症かADHDの診断を受けるのではないか。幼い頃に余計なレッテルを張られ、おせっかいな介入を受け続けるとしたら、あなたは今のあなたになれるだろうか。


ジャーナリスト:佐藤 光展

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

Return Top