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未来の会

グローバリゼーションと規制緩和によって日本経済は疲弊した

グローバリゼーションと規制緩和によって日本経済は疲弊した
小泉政権以前の方がマクロ経済的には良かった

103万円の壁を突破する為に奮闘する国民民主党が大きな壁に阻まれている。玉木雄一郎代表のスキャンダルが野に放たれたり、緊縮財政派の村上誠一郎総務大臣が都道府県知事に対して減税の反対工作を行った事が疑われたり、という混乱に紛れ、政府与党は防衛増税を法案に盛り込み成立させた。非課税世帯に給付金を配る計画を公表する等、国民の目を減税から逸らし減税を阻止しようとする行為が横行している。財務省、総務省、厚生労働省等が世論による減税圧力に混乱した。

 小泉政権が誕生して以来、自民党政権も民主党政権もグローバリゼーションの波に乗り、自由化と規制緩和を積極的に進めてきた。多くの学者が市場主導型の産業の在り方が望ましいとし、市場競争を促した。小泉政権による竹中平蔵氏の政治的且つ政策的な重用以降のderegulation(規制緩和)の導入は一種の流行、もしくは感染みたいなもので経済学や公共政策の学者のみならず多くの有力企業の経営者にも共鳴を得るようになっていった。新自由主義と呼ばれる個人の自由や市場原理を評価する考え方、グローバリゼーションという社会的、或いは経済的な関連が旧来の国家や地域等の境界を越えて、地球規模に拡大して様々な国際的分業化が進む事、等新たな思想が政界や経済界を席巻した。その結果、20年後の日本、つまり今の我が国はどうなったか。結果発表をご覧あれ。

金融ビッグバンで市場が黒船の草刈り場に

 グローバリゼーションの端緒は1996年橋本内閣と小泉内閣で行われた金融ビッグバンである。金融業界について、大蔵省による統治から市場原理による統治への変革を目指した。ビッグバン後、銀行の与信は530兆円から390兆円に低下(04年)。不良債権は98年以降20兆円を超える水準となる。97年には三洋証券が破綻、続いて北海道拓殖銀行も破綻、山一證券が廃業、自民党政権は急いで大手銀行に公的資金を注入した。98年、日本長期信用銀行の経営不振を受けて国有化、その後、不良債権処理を経て米国リップルウッドが中心となって組成した投資コンソーシアムに、何故か10億円というただ同然の価格で政府系巨大銀行は譲渡された。官僚から政治家に主導権は移ったが、金融業界は外資による草刈り場と化した。日本債券信用銀行は01年にあおぞら銀行となり米国サーベラスへ、東京相和銀行は米国ローン・スターの設立した東京スター銀行に譲渡され、その後、中國信託商業銀行へ多額で売却されている。東京相和銀行には公的資金7600億円が投入され健全化されているが、ローン・スターはバミューダ諸島を本店所在地として届け出る事で日本国内での税務申告は行わなかった。ローン・スターは不良債権処理の対象となっていた日本国内の消費者金融やゴルフ場、ホテル、巨大ビル、歴史的建造物を破格の安値で買収しているが税務申告には至らず、当局は差し押さえも出来ていない。他にも外資のハゲタカファンドに食われた企業は数多く在る。GEに日本リース、プルデンシャルに協栄生命、AIGに千代田生命、ダイムラー・クライスラーに三菱自動車、メリルリンチにUFJ銀行、ウォルマートに西友、ゴールドマン・サックスに三井住友フィナンシャルグループと三洋電機、コロニー・キャピタルに福岡ダイエー・リアル・エステート、リップルウッドに日本テレコム、カーライルにDDIポケット、と枚挙に暇が無い。グローバリゼーションは日本にとって単なる外資の参入障壁を無くす作業、金融業界、不動産業界、小売業界の外資系企業による刈り取り場、基幹産業の国外放出機能となった。日本に於ける金融ビッグバンは、グローバリゼーションの名の下に東京金融ハブを目指したがスタートラインにも立てず、国際金融資本の食い物にされる結果となった。失ったのは企業や市場だけではない。我が国固有の社会倫理、経済倫理も失ってしまった。企業は社会の物ではなく株主の物となった。事業の社会性や企業の文化や歴史より証券市場での時価総額が重視されるようになった。96年以降、緊縮財政に転じた日本は30年もの長い経済不況のトンネルへと突入した。

規制緩和によって貧困化が進んだ

次に規制緩和。運輸業界での規制緩和による影響は凄まじい。貨物運輸は最も新規参入が多い業種となった反面、最も倒産や廃業の多い業種になる。貨物自動車運送事業は90年から許可制に、運賃は自由化し届出制に、03年には営業エリアの限定が無くなった。その結果、凄まじい新規参入を招き、事業者間での荷物の奪い合いから運送料は一気に低下、運転手の収入の低下、事故の増加、倒産件数の急増など壊滅的ダメージを負った。タクシー業界も同様である。規制緩和によって適正な競争状態は破壊され、著しい供給過剰状態を生み、競争の激化、労働条件の悪化、過疎地でタクシーはいなくなり、事故が増加し、ダンピングまで始まる始末。タクシー運転手の年収は20%程度低下している。バス業界も収益性の高い貸切バスに新規参入が集中し運賃が下落してしまった。安全性は低下し大規模事故を誘発している。

 電力の自由化も大失敗の例である。24年9月末の時点で734社が登録している一方、16年の自由化以降の累計で、123社が倒産もしくは撤退している。発電に必要な燃料価格が高騰している事が要因である。

 労働者派遣の規制緩和も代表的な失敗例である。緊縮財政によるデフレ不況が長期化し、事業者が正規雇用から非正規雇用にシフトする後押しをしたのが労働者派遣法の改正である。殆どの職種で派遣が可能となり、正規雇用は急激に減少し非正規雇用者が急増した。労働者の4割近くが非正規雇用者となり、その数は30年で2倍に膨れ上がった。その結果、国民の所得は減少し、増税や社会保障費の増加に伴い可処分所得も減少の一途を辿った。雇用も収入も不安定になり消費も冷え込んだ。

 建築確認は民間事業者に開放されたが、構造計算書偽装事件が発生した。大店法改正により大型店の出店が規制緩和され、日本全国にシャッター街が発生した。規制緩和による無秩序な郊外の開発によって、地方都市の行政サービスに係るコストが膨れ上がった。それにも拘らず、今尚モータリゼーションの波に乗りドーナツ化現象が進行している。

 他にも数えきれない程の規制緩和が次々と為されている。地方で循環していた資本は大都市圏や外国資本に吸い取られている。規制緩和に異を唱えると既得権者だと非難を浴びる。欧米では日本程の規制は無いという話をよく聞くが、全くの嘘である。欧米は規制で雁字搦めだ。先進諸外国は規制をしっかりと維持した上でマクロ経済を成長に導いている。規制緩和が唯一無二の正義だという考えは欧米では通じない。規制緩和をして生産性の向上を図ると政府も学者も口を揃える。その様な提案に沿った結果が今の日本である。地方の鉄道、航空路線、バス路線、郵便局等の惨状は酷いものである。規制緩和の失敗が地方経済を疲弊させている。

 時代に合わない規制や不要な規制は撤廃するか緩和すれば良い。だが、規制緩和を始める前の80年代や90年代前半の方がそれ以降よりも経済成長しているし、国民の世帯所得が増加しているのも事実。緊縮財政、グローバリゼーション、規制緩和が持て囃される様になり我が国は30年もの迷走を余儀無くされた。規制緩和イコール正義ではないし正解でもない。寧ろ、一定の規制を行っていく事が責任有る国家運営である。

 中国やロシアの台頭、北朝鮮の暴挙等我が国の周辺は穏やかではない。危機感を持って責任有る国家運営を取り戻さないといけない。政治家の思い付きによる主導を許さない為には官僚に対するガバナンスと行政の透明化が必要となる。官僚を民主的に統治するガバナンスを確立する事を急がねばなるまい。

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