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「石破失政」で日本にも極右ポピュリズムの波

「石破失政」で日本にも極右ポピュリズムの波
参院選後の政局は保守中道結集か、右派回帰か

いよいよ日本にも極右ポピュリズムの波が押し寄せて来た。本稿執筆時点で参院選の結果は出ていないが、6月の東京都議選で初めて議席を獲得した参政党が参院選の全45選挙区に候補者を擁立し、比例代表を含め2桁の議席を窺う勢いを見せている。「日本人ファースト」を唱え、外国人の受け入れ規制や消費税の廃止を主張する参政党は、欧州で台頭する極右ポピュリズム政党のカテゴリーに属する。日本の右傾化が進むのか。

 アフリカや中東、アジアからの移民が増えた事への不満等から極右政党が台頭したのが欧州だ。移民排斥等の排外主義を唱え、白人中心の伝統的な価値観を重視し、LGBTQ等の多様性を尊重するリベラリズムを敵視し、反グローバリズムの立場から欧州連合(EU)に懐疑的なのが欧州の極右だ。

参政党が安倍政権に代わる保守層の受け皿に

 グローバリズムによって経済格差が広がり庶民が苦しんでいるとして、減税ポピュリズムに走りがちなのも欧州極右の特徴。「大きな政府=腐敗したエリートが支配するディープステート(闇の政府)」を非難する陰謀論がしばしば付随する。

 欧州程の移民流入に日本が直面している訳ではない。一方で、グローバリズムの波に乗れず、経済の空洞化と少子高齢化による国力の衰退に歯止めを掛けられなかった「失われた30年」の閉塞感が日本社会を覆っている。13年前、「日本を、取り戻す」と訴えて旧民主党から政権を奪還した第2次安倍政権は当初、右派政権と目されたが、大規模な金融緩和と積極的な財政出動によって経済の下支えを続けた「アベノミクス」は、大きな政府を志向するリベラルな政策に位置付けられる。見せかけの経済成長を演出する円安誘導の代償が現在の物価高であり、アベノミクスのツケを私達は今、支払っているのだ。

 労働力不足に対応する為、特定技能制度の導入等によって外国人労働者の受け入れを拡大したのも安倍政権だ。その安倍政権が保守層の受け皿になる事で、日本社会の右傾化が抑えられるというパラドックス現象が発生していたのかも知れない。だが、日本の経済・社会が「失われた30年」の閉塞感から脱しない限り、右傾化のタネは潜在し続ける。3年前の参院選時、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に恨みを抱いた青年の凶弾に安倍晋三元首相が倒れたのを契機として、日本の伝統的家族観を重視する自民党保守派の主張が外国の宗教勢力と結び付いた事実が自民党への信頼を揺るがし、参政党や日本保守党等の極右ポピュリズム政党の登場に繋がったという見方も出来よう。

 そこを直撃したのが物価高だ。首相は岸田文雄氏、石破茂氏と保守中道派に引き継がれ、自民・公明政権としてアベノミクスの出口戦略に取り掛かろうとした矢先だった。金利を上げて円安を是正しようにも、国内総生産(GDP)の2倍以上に膨れ上がった国家債務の利払いが政府財政と日銀財務の両方を圧迫し兼ねず、日銀が大量に保有する国債を市場に戻そうとすれば金利が上がって政府・日銀双方の首が回らなくなる悪循環が懸念される。参政党、日本保守党等の極右ポピュリズム政党のみならず、立憲民主党や国民民主党等の既成野党が消費税の減税や廃止の大合唱で政権を攻め立てる参院選の対立構図が鮮明になっても、日本の経済・財政運営に責任を負う立場の政権与党は減税に舵を切れない。アベノミクスの出口戦略無しに大規模な減税に踏み切れば、更なる円の下落を招き兼ねないからだ。

 昨秋の衆院選で与党が過半数を割り込み、少数与党政権として迎えた今年の通常国会は、新たな保守中道政権として出直す好機だった。目先の物価高対策に留まらず、「失われた30年」から脱する為の中長期的な経済・産業政策、グローバルな人材を育成する教育政策、少子高齢化時代の若者世代に活力をもたらす社会保障政策の構築に向けて与野党が徹底的に議論する「熟議の国会」を期待したが、日本の政治はそこ迄熟してはいなかった。

「小泉進次郎総裁」なら「野田佳彦首相」? 

衆院の選挙制度に小選挙区制を導入し、政権交代によって切磋琢磨する二大政党体制を目指した「平成の政治改革」の完全なる失敗である。既得権益にしがみつく自民党は企業・団体献金の存続に汲々とするばかり。女性の活躍を阻んできた旧態依然の経済・社会構造が「失われた30年」の一因と筆者は考えるが、30年来の選択的夫婦別姓制度の導入議論に決着を付ける最大の好機を、導入賛成を主張してきた筈の石破首相自ら放棄した。参院選で保守層の支持を得たいという見え透いた党利党略だったが、保守層の一部は既成政党を見放し、極右ポピュリズム政党へ流れ始めた。いや、保守層の一部だけではない。政治不信を募らせて従来は選挙の投票から足が遠のいていた無党派層をも参政党は引き付けている。党利党略ばかりの既成政党は信用出来ないが、「日本人ファースト」の参政党なら自分達庶民に目を向けてくれるのではないかとの期待からだろう。

 嘗て「安倍批判」を繰り返した石破氏は、自民党が国民の支持を失った危機的状況こそ「石破待望論」が湧き上がる好機と考えていた。だが、いざ首相になっても、何を改革するのか具体的なビジョンが見えない。小泉進次郎氏を農水相に起用して農政改革に取り組む姿勢を示した迄は良かったが、野党の減税案に対抗して「1人2万円給付」を打ち出し、目先の減税か給付かに参院選の争点を政権自ら矮小化してしまった。選挙向けの党利党略で手一杯の与党から国民の支持は益々離れ、極右ポピュリズム政党が勢いを増す。「失われた30年」と正面から向き合う覚悟も無く「改革」を標榜するだけの石破首相が招いた極右ポピュリズム政党の台頭であり、日本の将来に大きな禍根を残す「石破失政」に対して国民の厳しい審判が下されようとしている。

 本稿を執筆している参院選投票日10日前の情勢では、自公が議席を減らすのは確実と見られ、非改選議席と合わせて与党が参院の過半数を維持出来るかどうかが焦点となっている。昨年の衆院選に続いて参院でも与党が過半数割れする事態になれば、石破首相は退陣に追い込まれ、先ずは自民党総裁選が行われる展開が予想される。後継総裁に選ばれるのは保守中道の小泉農水相か、右派の高市早苗前経済安全保障担当相か。ただ、誰が新総裁に選ばれても、これ迄の様に自民党総裁が即ち首相になれる政治情勢ではない。衆参両院で野党の一部を取り込まなければ安定的な政権運営が出来ないからだ。

 新たに連立に加わる野党の党首を首相に担ぐシナリオも取り沙汰される。例えば高市氏は減税・財政出動に積極的な立場で、ポピュリズム的な経済政策が国民民主党や参政党と重なる。国民民主党は昨年の衆院選に続いて参院選でも議席を伸ばす勢いで、高市氏が自民党総裁に選ばれた場合の連携相手として有力視される。国民民主党は選択的夫婦別姓制度の導入を推進する立場だが、今年の通常国会では玉木雄一郎代表が法案採決の先送りで与党に同調し、参院選後の「玉木首相」を狙って自民党の保守派に秋波を送ったものとの憶測を呼んだ。

 「小泉総裁」の場合は、減税ポピュリズムと一線を画す立憲民主党との保守中道大連立が視野に入る。同党の野田佳彦代表は党内からの突き上げで渋々「食料品の消費税ゼロ」を参院選公約に掲げたが、赤字国債を財源とせず、1年間の時限措置とする事に拘った。「野田首相」誕生の暁には来年の通常国会迄の1年間の時限的大連立を宣言し、来夏、衆院解散・総選挙に踏み切って、国民に信を問えば良い。

 自公が参院過半数を維持できれば、日本維新の会の協力を得て、石破首相続投か。何れにせよ、極右ポピュリズムの台頭を睨みながらの「政局の夏」となる。

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