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未来の会

不動産市況に空き家問題、インバウンドが救いの神に

不動産市況に空き家問題、インバウンドが救いの神に

観光立国の追い風で変わる人口減少地域の未来

バブル崩壊の元凶だった不動産市況は、一昔前の不況が嘘の様に活況を呈している。3月に発表された2025年の地価公示では、全用途平均の価格が4年連続で上昇する等、景気を支える要因になっている状況だ。こうした背景にはインバウンド需要の高まりが有る。その一方で、人口減少を背景にした空き家問題が深刻化している等、不動産市場には影の部分も存在している事から目を背けてはならない。だが、この問題に関してもインバウンド需要の拡大が1つの解決策を導き出している。現在の不動産市況と、その救いの神とも言えるインバウンドとの関連性を探ってみたい。

公示地価 上昇率トップは北海道富良野市

国土交通省土地鑑定委員会が3月に発表した公示地価は、全国平均では全用途平均が2・7%、住宅地が2・1%、商業地が3・9%と何れも4年連続で上昇すると共に上昇幅が拡大した。

これ迄、地価というと都市部の上昇が顕著で、地方都市には明るさがあまり感じられないといったものだったが、それは少し前の話。コロナ禍後は様相が変わっている。今回の上昇で特徴的なのは、3大都市圏平均では、全用途平均・住宅地・商業地の何れも4年連続で上昇、特に、東京圏及び大阪圏の上昇幅が顕著であるものの、実を言うと、 地方圏平均でも、全用途平均・住宅地・商業地の何れも4年連続で上昇しているのだ。

それを端的に表しているのは、公示地価の上位に並んでいる顔触れだ。絶対的な最高価格と言えば、お馴染みとなっているのは東京の銀座4丁目。19年連続で「中央区銀座4丁目2番4」、山野楽器銀座本店の所在地が最高価格地点となった。首都圏以外でも、関西圏、中京圏共に、上位は常連のお馴染みの場所が並んでいる。

ところが、どれ位地価が上昇したのかを見る地価変動率は様相がかなり異なり、違和感を覚える人も少なくないだろう。変動率1位は、東京や大阪といった都会ではなく、北海道富良野市の「北の峰町4777番33」(富良野‐4)で、上昇率は31・3%だった。このエリアはスキー場の麓に位置し、観光関連施設が集まる人気の観光地。観光客の受け入れ環境を整える為のインフラ整備が進められている事も地価上昇に繋がったという。

変動率2位は長野県白馬村の「北安曇郡白馬村大字北城字堰別レ827番36」(白馬‐1)で上昇率は29・6%。3位は沖縄県宮古島市の「宮古島市上野字野原東方原1104番」(宮古島‐6)で、上昇率は23・1%だった。富良野同様に観光地として著名なスポットである。

何れも、インバウンド需要拡大の恩恵を受けたのは言う迄もない。高級宿泊施設も目立つ等、海外のみならず国内でも富裕層に人気のスポットだ。大都市部では、経済のグローバル化によって海外からのビジネス客が数多く来日、都心ではオフィスビル建設、ビジネスタウンの再開発等が衰える事を知らないが、地方の観光地等も海外からの観光客の増加によって、一部の地域は潤い、連れて地価が上昇しているのだ。

先行き、日本は人口が減少し、需要縮小から不動産価格の低下が言われているものの、インバウンド需要が減退、消失しない限り、日本の不動産市況はそれが下支え要因になると見られる。

蛇足的に大きく値下がりした地域を記すと、令和6年能登半島地震や豪雨により、大きな被害を受けた石川県能登地方は、地価が大きく下落した。だが、地域によっては観光振興や地域再生の取り組みが進められており、回復の兆しが見られる場所も有るという。やはり、ここでもインバウンドが復興の一助となる事が期待されている。

人口減少で空き家問題の深刻さが増す

地価の動向をみると不動産市況が好調で、不動産全般が明るさ一色の様な状況に思えるが、この様に光の部分が有る一方で、将来的な不安材料となる陰の部分も有る。空き家問題がそれだ。

日本は少子高齢化が進むと共に、人口が減少しているのは語るまでもない。内閣府が纏めた「令和6年版高齢社会白書」によると、我が国の人口は現在の1億2435万人から20年後の2045年には1億0800万人まで減少。働き手である15歳〜64歳の生産年齢人口は7395万人から5832万人まで減る見込みである。

人口が減れば、比例して家が減るのは当然の事だろう。しかも、高齢化によって自宅に住まず、施設暮らしのお年寄りが増えるとなると、空き家も加速度的に増加して行く。

野村総合研究所が24年6月に纏めた「2040年の住宅市場と課題」によると、23年には900万戸だった空き家は、43年には1861万戸まで増えると推定されている。足元では不動産市況が堅調となる一方で、誰も住まず買い手も付かない様な空き家が増えている事は無視出来ない。

大きな問題は、持ち主が亡くなった後に相続放棄等によって空き家が生じる事である。親族で揉めて相続が確定しないという例ばかりではない。相続する事によって生活への負担が増す等の理由から、放置されたままになる案件も多いのだ。

空き家が増えると、景観の悪化、犯罪の温床といった環境面への影響は勿論、周辺不動産価値が釣られて下落、更に、ゴーストタウン化する事で経済が不活性化する等、今の好調な市況を揺るがし兼ねない要因になる。こうした悪循環を断ち切る為に、自治体、不動産業界は、官民を問わず真剣に問題に向き合う必要が有る。

民泊需要拡大が空き家対策の一環に

この様に深刻化する空き家問題だが、不動産市況全般を支える一因のインバウンド需要が、ここでも解決策の1つになりそうと注目されている。

先ず、インバウンドの現況についておさらいしてみよう。コロナ前の19年に3188万人を数えた訪日外国人旅行者は、21年には僅か25万人まで激減、その後回復し、24年は3686万人とコロナ前の水準を上回ると共に過去最高を記録した。そして、観光立国の実現に向けた政府のサポートもあって、今後も訪日外国人旅行者数の更なる拡大が見込まれる。日本政府観光局の資料「訪日外国人旅行者数」によれば、「30年に6000万人」の目標を掲げている。

日本経済全体の活性化に繋がるのは勿論、不動産市況にも好影響を与えそうな数値だが、その一方で課題も少なくない。とりわけ、ここで問題となるのが、受け皿となる宿泊施設の供給が現状では少ない点である。そこで注目されるのが、空き家を民泊に活用しようとする試みだ。

18年6月に施行された住宅宿泊事業法に基づく住宅宿泊事業、所謂民泊の届出件数は年を追う毎に増加している。18年6月15日時点に於ける住宅宿泊事業の届出件数は2210件だったのが、25年7年3月14日現在の届出件数は4万8686件、内事業廃止件数が1万8368件となった。コロナ禍が間に挟まった事もあり、事業廃止件数も多いものの、増加は顕著だ。イベント民泊(イベント開催時に、宿泊施設の不足が見込まれる事により、開催地の自治体の要請等により自宅を提供するもの)も合わせれば、更に実数は増えると見られる。

この様に、空き家や持ち家を民泊として運用する事によって、古家の活性化に繋がれば、空き家問題解決の一助になるだけではなく、不動産市況にも好影響をもたらす事になるだろう。勿論、インバウンド絡みとなると、公示地価の上昇率で名前が出た様な観光地の他、長期滞在旅行の拠点にされる大都市が中心となるだろうが、それだけでも空き家問題の改善策となるのは間違いないだろう。

医療界でも、高度な日本の医療を求め、病気の治療を目的に外国人が訪日する。今回は不動産について取り上げたが、どんな分野であっても「人口の減少=需要の減少」となる為、衰退を招く事は言う迄も無い。インバウンドは、国内需要だけでは先行き停滞待った無しの日本経済を支える必須要件となりそうだ。

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