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未来の会

新型コロナで横倉会長5選に〝暗雲〟も

新型コロナで横倉会長5選に〝暗雲〟も

 「先日あるテレビ番組に出た時に1つの言葉を書いてくれと言われて『雲外蒼天』を選んだ。われわれの上に今黒い雲がかかっているが、雲は必ず晴れる。その雲の上には素晴らしい青空が広がっている。その希望を持って国民がみんなで協力した先に明るい未来を作りたい」

 4月15日午後、東京・本駒込の日本医師会館3階の小講堂で開かれた定例記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大に関し、日本医師会の現状の対応等について説明した横倉義武会長は、冒頭発言を最近好んで紹介する四字熟語で締めくくった。なかなか終息は見通せないが、足の引っ張り合いはやめ、一致団結して国難に打ち勝とうという思いからの言葉だった。

 新型コロナ騒動の深刻化に伴い、有識者による百家争鳴の意見が飛び交う中、横倉氏の一言は医療界を代表する重みのある発言として注目度が格段にアップしている。毎週水曜日の定例記者会見以外にも緊急に記者会見を開くことも度々で、テレビやインターネットで記者会見が生中継される回数も増えている。

 横倉氏は、自身以外の役員らにも積極的にマスコミ出演して、医療界の立場をアピールするよう指示。1日には「医療危機的状況宣言」を独自に発表して、東京都等一部地域で病床不足が発生している事に警鐘を鳴らし、政府が7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を決定する世論の流れを作り出した。

出馬表明予定だった臨時代議員会中止

 憲政史上最長の長期政権となりながら、新型コロナ対応を巡り支持率が乱高下する安倍晋三政権と比べ、同じく4期8年目の長期政権を築く〝横倉日医〟は抜群の安定ぶりを発揮している。

 そんな横倉氏も6月に任期満了を迎える。昨年8月末に地元の九州医師会連合会の会合で、会長選に向け事実上の5選出馬を表明してはいるものの、正式に出馬表明するはずだった3月29日の臨時代議員会が新型コロナの影響で中止になり、表向き会長選は誰も名乗りを上げていない状態だ。横倉氏も周囲に「こんな新型コロナで大変な時期に5選うんぬんをベラベラしゃべるべきではない」と強調する。

 次期会長選の構図が固まらない状況下で、盤石の横倉体制を揺るがしかねない事態も発生している。新型コロナ対応の一環で、日医が強硬に反対してきたオンライン診療の全面解禁が、時限措置ながらも認められたのだ。

 オンライン診療は、医師がスマートフォンやタブレット端末などIT機器の画面を通じて遠隔の患者を診察する。1997年に初診患者は原則対面診療とした上で、僻地や離島等での利用を前提に自由診療で解禁。2015年には一般での診療にも認められたが、日医内でIT基盤の整った新興の診療所に患者を奪われるといった懸念も少なくなく、規制は強いまま残され、オンライン診療の普及は進まなかった。

 一方で、規制改革推進派からのプレッシャーも強く、徐々に規制緩和は進み、18年に糖尿病や高血圧症といった生活習慣病や難病等を対象に限定的に保険適用がスタート。20年度診療報酬改定では、事前に6カ月にわたり毎月対面で医師の診察を受けなければならなかった規制が3カ月に緩和された他、僻地や離島で医師の急病により診療の継続が難しくなる場合等の一定条件を満たせば初診からオンラインで受診出来るようになった。さらに対象疾患に慢性頭痛が追加され、服薬指導についても対面指導を行った事がある外来と在宅の患者にはオンライン診療が可能になった。

 こうした緩やかな従来の措置に、新型コロナ対応で更なる規制緩和が求められる事になった。厚生労働省は3月19日、軽症と無症状の感染者に限り、オンラインでの診療や薬の処方を可能とする運用方針を都道府県等に通知。対面診療の結果、陽性と診断されて自宅療養する患者が対象で、診断した医師や情報提供を受けたかかりつけ医がオンライン診療出来るとした。

 ただ、慎重論が根強い日医にも配慮した厚労省方針を安倍首相が穏当過ぎると問題視。31日の経済財政諮問会議で「医師、看護師を院内感染リスクから守るためにもオンライン診療を活用していく事が重要だ」と強調し、規制改革推進会議で更に強力な規制緩和策を至急取りまとめるよう指示した。

 この機に乗じて規制改革推進会議は一気に初診も含むオンライン診療の全面解禁を要求。議長を務める三菱ケミカルホールディングスの小林喜光会長は「人類が経験した事のないような事象に対する反応としてあまりに生ぬるい」と厚労省を強烈に批判した。

 不意を突かれた日医は安全性等を理由に「現時点でオンライン診療は原則初診で行うべきではない」(松本吉郎・常任理事)と遅まきながら抵抗し、4月3日には横倉氏自らが首相官邸へ直談判しに乗り込んだものの、安倍首相から色よい返事は得られなかった。

 その後も、ウイルス感染が拡大する時期の時限的な措置として、過去に受診歴があるなど患者の情報を一定程度得られる場合に限り初診も含めてオンライン診療を認めるという妥協案を規制改革推進会議に提示したものの一蹴。最終的には4日に横倉氏と厚労省幹部が極秘裏に協議し、受診歴がない患者の初診からのオンライン診療についても、IT基盤が整っていない診療所では電話での対応も可能としたり、成り済まし等の不正防止策を徹底するといった条件を付けたりする事で認める方針を渋々受け入れた。

 オンライン診療全面解禁の正式決定を受け、横倉氏は7日の記者会見で「ウイルスが蔓延している間はある程度オンラインでの診療を進めていかなければならない。ただ、問題は全ての患者が初診で適切な診療に繋げられるかというと、我々医師としては不安がある」と引き続き懸念点を指摘した。

 ただ、新型コロナを巡る混乱で表面化してはいないものの、日医内には「受診歴のない初診患者に事故が起きたら誰が責任を取るのか」等と最後の一線を容認した横倉執行部に不満もくすぶる。

横倉氏に今季限りの「引退説」が浮上

 そんな中、横倉氏が今期限りで会長を引退するとの噂が浮上している。現在75歳と後期高齢者入りし、周囲に「体力的にしんどい」と漏らしているのが理由とされるが、有力な支持基盤の1つである大阪府医師会で年明け以降に内紛が表面化しており、それを不安視しているとの見方も出ている。

 有力な対抗馬の中川俊男・副会長は水面下での動きを続けているといわれ、オンライン診療全面解禁への不満を契機に反横倉勢力を結集すれば勝ち目も出てくるとみられている。

 日医は14日、役員選挙を実施する定例代議員会を予定通り6月27日に開くと都道府県医師会に通知した。会長選も新型コロナ騒動と同様、「雲外蒼天」とならないまま、6月上旬の公示直前まで神経戦が続く。

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