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未来の会

第90回 「日本の医療」を展望する 世界目線 医師が組織に属するということ ④

第90回 「日本の医療」を展望する 世界目線 医師が組織に属するということ ④

医師を取り巻く環境の変化について、2000年に上梓した拙著『医師は変われるか—医療の新しい可能性を求めて』(はる書房)を参照しながらの考察をもう少し続けよう。

拙著の内容は主に私自身が米国に留学した直後に感じた事であるが、現在の状況と照らし合わせても相通じる面が多く、この20年間の変化がいかに少なかったかという事については、これまでも確認してきた通りである。

医師の労働条件とやる気

さて、この20年を見渡すと、「常勤の医師の給料は必ずしも高いものではなくなってきている」というのがひとつの結論と思われる。

少し前、医師は高収入であった。しかし現在はいくつか異なる点が現れてきた。その一例は給与額の比較についてだが、日本経済の地盤沈下に伴い、一般のサラリーマンの給与額、及び体系に変化が見られてきている。

具体的には、一般のサラリーマンの給与が以前のように増加しなくなってきており、年俸制の導入など、年功序列ではない給与体系が現れてきたことである。医業の場合、医師の指示で、患者さんが病気と診断が確定され、それによって、各種の治療が行われる。言い換えれば、少なくとも外来診療においては、1人の医師の獲得した収入で、その医師を評価することは比較的容易であることになる。正しいかどうかは別にして、医療機関の経営状態が悪化すれば、近いうちに、その医師が稼いだお金でその医師の給料が決まる時代が来るかもしれない。

もう一例は、医師の副収入であるアルバイトについてである。これは常勤給与の格差(大学・国立病院、自治体病院、民間病院の順で給与が安い)を縮小する働きがあったのだが、これついては医師が、特に公務員あるいはみなし公務員の扱いを受ける病院では禁止されつつある。旧来ほぼ平均化されていた給与に明らかな差がつくと、医局中心の病院支配に影響を及ぼす可能性があると思われる。

いずれにしても、給与中心というより、余暇が重視されるようになってきている時勢において、医師は休日が少なく、オンコール等で呼び出しが多い職業であることは間違いなく、また、感染症等の危険もあるので、少なくとも労働条件が良い業種ではないと思われる。

やりがいと実情のギャップ

そんな中で、医師の仕事はやりがいはかなり高い業種であると思われる。その所以は、高い専門性に基づく、個別性を重視した「裁量権の大きさ」であろう。わかりやすく言うと、医師という仕事は看護師、薬剤師などのコメディカルの助けなしでできるものではなく、チーム医療の重要性を否定するつもりも毛頭ないが、例えば患者が死の淵から蘇った時に医師が感じるリーダーとしての自負心、満足感こそが仕事のやりがいにつながっていることは間違いないであろう。

また、裁量権と言うとあまりいいイメージがないが、これを今、看護や福祉の世界で流行っているエンパワーメント(権限委譲)と考えると、より現実のイメージに近いのではないか? このエンパワーメントという考えは、ビジネスの世界では、会社内のヒエラルキー型世界の崩壊に伴う部下の動機づけの一要素として、以前から取り入れられている。反面、意思決定が分散することも欠点としてある。

https://tanabota-life.com/doctor-wage/

病院という組織で考えてみると、医療に関係した指示面では医師を中心としたヒエラルキーがあった(ある)わけだが、別の観点からみると、病院は10を超える専門職の集団からなる組織であり、医師に限らず各専門職はそこそこに権限委譲されていたわけだ。これが、病院マネージメント側からみると、管理のしにくさにつながり、ビジネス界とは逆に、病院では今後、医師ら専門職の権限(裁量権)は少なくなっていくかもしれない。

現在の医師の労働条件は、必ずしも良いとは言えない。給与面はさておき、当直、急患になど時間外の対応もあり、生活の質良いとは言えない。それを補っていたのが、自由裁量に裏付けられた医師としての誇りだとすると、これを他の労働条件の変革なしで奪ってしまうものはいかがなものか? 

今、企業では週休2日制が常識化しており、その他にも有給、保養、研修などについての配慮がある。医師数が増えていることと相まって、病院でも労働者としての医師の待遇について、考えなければいけない時期が来ているのかもしれない。

現在との差

実は、先述の「医師の労働条件とやる気」は、20年前の私の記載である。ここで、現状とこの書籍での私の記述に異なってきた面があるのは、医師の給与面の格差であろう。前回少し触れた点でもあるが組織母体によって給与の差が大きくなった。すなわち、民間病院ではもちろん職務やその人の技術にもよるが、業績主義の考え方がかなり広がってきている。勤務医の平均年収自体は上の図のように、近年減少しているので、格差が起きてきていると言えよう。ただ、少し前までは医療費が増加する中、医師に回ってくる部分もそこそこに増加したという面もある。しかし一方では、下表に示すように医師数は増加している。この点については次回、米国の医師との比較で考えてみたい。

出典: 厚生労働省 令和2(2020)年 医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

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