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電子決済手段等に関する法整備が急務

電子決済手段等に関する法整備が急務
安定的な電子決済を可能とするステーブルコインとは

金融庁提出の「安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案」という法案が昨年の通常国会で可決された。

 長過ぎる法案名を簡単なものに置き換えると「電子決済手段等に関する法律案」という事になろう。電子的支払手段とは所謂ステーブルコインである。海外において昨今、ステーブルコインの発行や流通は急速に増加している。ステーブルコインの発行者と利用者の間に立って売買や交換、管理等を行う仲介者に対する法整備を進める為の法案が可決された。

 先ず、ステーブルコインとはどういったものなのかに触れておく。ビットコイン等を始めとした暗号通貨はドルや円等の法定通貨に比べて価格変動が激しく実用的ではない。ステーブルコインは価格の安定を目的とした仮想通貨である。価格を安定させる事で仮想通貨の普及を促進する事が期待されている。ステーブルコインには3種類有る。各国の中央銀行が発行する法定通貨と同額を担保として発行するステーブルコイン、ビットコインやイーサリアムと交換が可能な仮想通貨を担保としたステーブルコイン、法定通貨や仮想通貨など既存の通貨を担保とする事無く通貨の供給量を調整する事で価値の維持を図るステーブルコインの3種類である。既に流通しているステーブルコインの多くは法定通貨を担保としたものだ。現在の日本の法令上では仮想通貨を担保としたものと担保等が無いステーブルコインは「暗号資産」に、法定通貨を担保としたものは「為替取引」か「前払式支払手段」と位置付けられている。

 法定通貨に連動した価格で発行されるコインは「通貨建資産」とされ、発行や移転は為替取引に該当し得るとされている。為替取引を行うには銀行業免許、資金移動業登録を行う必要が有る。

取引業の創設、モニタリング、クレジットの規制が柱

 今回可決された法案は、電子決済手段等取引業の創設、為替取引分析業の創設、高額電子移転可能型前払式支払手段への規制の3つの対応に関する法整備をする法律である。同法ではステーブルコイン発行者の銀行と利用者の間に立つ仲介者に関して登録制を導入する事になった。仲介業を電子決済手段等取引業として創設し登録制にする。2021年12月の金融審議会資金決済ワーキンググループに於いて発行者に対する規制と仲介者に対する規制を分ける方針が報告されており、それを受けて仲介者に対する規制を目的としたものだ。法律案が成立した為、省令で基準が順次決定されて行く。仲介者には恐らく暗号資産交換業者と同様の体制整備を求められるであろう。併せて、為替取引分析業を創設し、金融機関からの委託を受けて取引内容を分析する業務を行える様にする。但し、為替取引分析業は許可制となる。19年10月の金融活動作業部会の報告書に於いてステーブルコインを利用したマネーロンダリングやテロ資金の供与に関するリスクが指摘された。P2P(個人間)取引が増えて来ると金融機関のモニタリングが追い付かなくなり深刻なリスクを招く事になる。よって、政府の許可を受けた業者による専門的な取引のモニタリングを行う事は有効な手段である。但し、モニタリングの質にばら付きがあってはならない為、どの様に標準化するかが今後の課題と言える。

 高額電子移転可能型前払式支払手段とは端的に言うとクレジットカードの機能の1つを指している。中でも国際的なブランドのクレジットカードの中には近年、数千万円規模の高額なチャージを可能とするサービスも存在する。クレジットカード事業者には犯罪収益移転防止法により本人確認等の義務や疑わしい取引の届出義務が有る。法律ではクレジットカードの前払式支払手段にも同様の義務を課す様に法整備している。マネーロンダリングのリスクの軽減が目的だ。架空名義や借名口座での契約や暴力団等に係る取引、同じIPアドレスが複数の口座を開設または利用者登録している場合等がこれに該当する。高額とは1回当たりのチャージ額が10万円以上、及び1カ月当たり累積譲渡額が30万円を超える場合を想定している。

 以上の様に、今回の改正法により整備されても未だ多くのステーブルコインに関するリスクは残されている。コインの取引量の規制も無く、金額の上限も無い。取引に関して登録している仲介業者や金融機関の利用も義務付けられてはいない。

日本の発行者はJYPC1社だけ

法改正によって法定通貨で担保されたステーブルコインの取り扱いが明確化されるのは望ましい事だが、厳しい規制を行う事で日本の競争力を削いでしまうのは避けなければならない。現在、日本に於いて通貨建資産に該当するステーブルコイン発行者はJPYC社の1社のみだ。同社が発行するステーブルコイン「JPYC」は、1JPYCが日本円で1円となるが、購入はビットコインかイーサリアムで行う様になっている。

 日本では銀行免許の取得が非常に困難で、資金移動業の場合は100万円以下の取り扱いに制限されている。暗号資産型のステーブルコインは暗号資産交換業者が取り扱う場合は金融庁の厳格な審査が有り、体制の準備にも相応のコストが掛かる事から現状日本での取り扱いは無い。この様な状況では世界から大きく遅れる事になり、日本の発展と世界での競争力の向上という観点からも望ましくない状況である。今後、政令や内閣府令によって規定されていくが、国際的な規範との連携を前提とし、日本円を基軸にした通貨建資産のステーブルコインの発行をメガバンクが主導して整備していく事が望まれるのではないだろうか。

 1例としてメガバンク3社を含む国内主要74社が参画する「DCJPY」というステーブルコインの準備が進んでいる。DCJPYの特徴は銀行預金と連動している点だ。DCJPYのコインが移動するとその裏で銀行預金も同時に移動する仕組みとなっている。実質的に銀行プログラムが可能となる。銀行預金を活用してステーブルコインを発行した側面だけでなく、ブロックチェーンを使って銀行預金をプログラム可能にした点がDCJPYのユニークな点である。

 政府と日銀が主導する中央銀行デジタル通貨(CBDC)は21年6月に閣議決定されており、22年3月迄に基本機能の検証を行い、22年4月に「概念実証フューズ2」が開始された。CBDCの重要な役割としてホールセール型CBDCが有る。一部の取引先に対する大口の決済を行う目的を持つ。政府と日本銀行が主導するCBDCと国内メガバンクと主要企業が参画するDCJPYが決済可能な通貨建資産として広く流通し安定的な運営を行える様な状況を早々に確立される事を期待してやまない。

 世界の民間のステーブルコインのシェア状況は次の通りである。仮想通貨情報サイト「コインゲッコー」が発表した21年の年間レポートによると、トップ5社の時価総額は469%成長し、テザー社が依然として独占的な地位を維持し、他4社の合計よりも高かった。23年2月の時点で、テザー社の時価総額は約9兆円にも達している。続いてアメリカのUSDコインの時価総額は約5兆円。両方ともUSドル建てのステーブルコインだ。

 世界のCBDCを巡る動向は、欧州(ユーロ圏)はデジタルユーロ導入に向けた2年間の調査を開始しており、CBDCの発行は3年後の2026年頃と目されている。アメリカはボストン連邦銀行とマサチューセッツ工科大学が共同研究を行っている状況に留まっている。中国は20年以降、深圳、蘇州、北京、上海において大規模なパイロット実験を実施しており実用化もそう遠くない将来に可能な状況であろうと思われる。

 いずれにせよ、金融のデジタル化は日進月歩で進化している。安定的で効率的な制度の整備が急務と言えよう。

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