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第147回 アビガン早期認証断念に省内から安堵の声

第147回 アビガン早期認証断念に省内から安堵の声

 政府は新型コロナウイルス感染症の治療薬候補「アビガン」について、安倍晋三首相が目標に掲げていた「5月中の薬事承認」を断念した。官邸は国産薬の承認と販路拡大に前のめりとなっていたが、まだ有効性が確認出来ていない事が響いた。早期承認に慎重だった厚生労働省内からは、安堵とともに「当然の結果」(幹部)との声が漏れる。

 5月26日の閣議後記者会見。アビガンの5月中の承認を目指すという政府方針について問われた加藤勝信・厚労相は「(5月中の)薬事承認という流れも想定していた」とした上で、「独立評価委員会が、科学的に評価する事は時期尚早との考え方を示している」と述べ、5月中の承認を諦める考えを示した。

 アビガンは富士フイルム富山化学が新型インフルエンザ薬として開発し、2014年に限定付きで承認された薬だ。動物実験で催奇形性が見られ、副作用が懸念されていた。それでも、新型コロナに効く可能性があるとして、日本では2月から臨床試験が始まった。薬害を懸念する厚労省は慎重だったものの、首相や官邸を牛耳る経済産業省は積極的で、200万人分を備蓄する方針を決めた。首相は5月4日に「5月中の承認を目指す」と踏み込み、これを受けて厚労省は、治験以外の限定的なデータでも最優先で承認審査をする特例の実施を迫られた。

 しかし、5月末時点で有効性を示すデータは得られていない。現在、アビガンを巡っては、①藤田医科大(愛知)等による「観察研究」②同大による「特定臨床研究」③富士フイルム富山化学による治験——が行われている。①では2158人に使用した結果、9割が回復したという。とはいえ、プラセボ(偽薬)を使用した患者群と比較した調査ではなく、回復が薬の効果なのか自然治癒なのかが判然としない。②では86人の患者に投与、第三者機関による中間解析で「科学的に評価することは時期尚早」とされた。③も規模が小さい上、完了は6月末以降だ。

 官邸幹部は「ぐずぐず言うな」と厚労省に早期承認を求めた。だが、5月18日には日本医師会の有識者会議が拙速に特例的な承認を行わないよう求める緊急提言を提出。アビガンを新型コロナに使う場合、インフルエンザの約3倍の量を服用する事になる。安全性や有効性を示すデータが得られない中、官邸も手足を縛られた。

 政府は6月以降の承認に向け、動いている。だが、第1波が落ち着き、患者数が減っている中、精度の高い治験に必要な多数の参加者の確保は難しくなっている。治験外のデータで審査する新たな仕組みには、根強い反対論もある。

 政府はアビガンより一足早く、ギリアド・サイエンシズの抗ウイルス薬「レムデシビル」を新型コロナ治療薬として5月7日に承認した。元々はエボラ出血熱を対象とする薬で、米国内での認可を受け、申請からわずか3日での特例承認だった。だが、米国での扱いは緊急使用許可であり、正式承認ではない。ある厚労省幹部は「粗っぽい手続きだ」と認め、「重篤な副作用が出ない事を願う」と神頼みだ。

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