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未来の会

アメリカ医療の復習

アメリカ医療の復習

 既に詳しい読者も多いかもしれないが、米カリフォルニア州サンディエゴで開業されている「日本クリニック」の金一東院長と米国について議論を行ったので、そのことを元にして米国医療の復習をしてみよう。

 まず米国では民間保険が中心で、公的保険は65歳以上、65歳以下でも障害がある人や腎臓透析を受けている人、移植を受けた人が対象になるメディケア、低所得者はメディケイド、その他軍関係とかは公的な医療保険(保障)制度があり、また小児には1997年のクリントン政権時代から保険制度が作られている。

 メディケアに関しては、受給要件があり、5年以上アメリカに居住しており、永住権を持っている外国人しか受けることはできない。さらに、10年以上メディケア税を納めていることも条件になる。

 管理型医療をマネジドケアというが、代表的なのは HMOと呼ばれる仕組みである。HMOは会員制の健康保険のことで、保険料を毎月徴収し、その代わりに病院や医師を受診した場合に、極めて低額な自己負担あるいは自己負担なしで診察を受けることができる仕組みである。

 しかし、最初にかかりつけ医を必ず受診しないと専門医を受診することができないとか、高額な検査や入院については事前に医師側が保険を通すことができるかどうかの許可を得るといったように、日本の医師にとっては納得しにくい内容も多い。

 米国は、医療費が世界一高いことでも知られている。元々、開業医は外来のクリニックに所属し、あるいは外来のクリニックを経営し、病院に必要な時だけ出入りしていたが、ホスピタリストということで病院に勤務する医師も増えてきている。また、単独で開業する医師は減り、グループで開業する医師が増えてきている。

 オバマケアは無保険者に対して、安い保険料で医療保険に入れるような保険を民間医療保険会社に提供させているのが特徴である。この保険は、保険料が安いために病院への支払いが少なく、当初はオバマケアによる新規の保険患者を診察しないという病院が多かった。

 しかし、近年ではほとんどの病院がオバマケアにより新規に保険に入った患者も受診させている。逆に、2019年からは医療保険に入っていなければ、確定申告の時に罰金を取られるという制度が廃止された。それ以外にも、26歳まで親の医療保険に加入できるとか、既往症があっても民間保険も加入を拒否できないとか、メディケイドの範囲の拡大とかいくつかの変化があった。

 ミッドレベルプロバイダーとして日本には存在しないコメディカルがいる。例えば PA (フィジシャンアシスタント)とか、NP(ナースプラクティショナー)が日本でも有名だが、それ以外にも呼吸器を扱う呼吸技師、麻酔専門の麻酔師、点滴のみを行う点滴師、採血だけ行う採血師なども存在している。

米国のコンビニエントクリニックの最新状況

 米国ではお金次第で受けられる医療に差が出てくる。医師が関係すると費用が高い。従って、ここに新しいニーズが生まれている。

 コンビニエントクリニック、別名リテールクリニックとは、薬局やスーパーマーケット、ショッピングモールの中に開設されており、医師ではなくNPと呼ばれる上級看護師が限定された軽疾患の患者に対し、事前予約なしで診断・ 治療・投薬を行う外来診療機関である。

 米国には「ターゲット」というGMS(総合スーパー)がある。ターゲットは全米で小売業8位の規模を持つミネソタ州ミネアポリスに本社を置く量販店である。2019年5月26日現在、全米に1851店舗を展開する。米経済誌『フォーチュン』が毎年発表している国際企業番付「Fortune 500」2018年版で39位(総売上)にランクインしている。ウォルマートが「Everyday Low Price」の低価格で勝負しているのに対し、ターゲットは若手の消費者に訴求するイメージで対抗している。明るい照明の店舗作りやマーチャンダイジングもトレンディーなイメージで、「行きたい」お店を感じさせる。

薬局内クリニックには医師以外の人が常駐

 米国最大規模のマネジドケア機構である「カイザーパーマネンテ」(以下、カイザー)は、サンディエゴなど南カリフォルニアを中心にしたターゲット内に、ドラッグストアであるCVSとの提携でコンビニエントクリニックを30店舗ほど展開している(写真①)。薬局の中のクリニックに常駐しているのはNPで、NPは風邪や切り傷などを診察したり、予防注射を行ったり、簡単な血液検査、血圧の測定、皮膚科、婦人科(避妊ピルなど)の処方などを行っている。

 カイザー加入者は電子カルテで情報共有される。1日の患者数は土曜や日曜は約12人、平日は約30人で、受付(登録看護師)が1人と、NP1人の2人体制で運用している。軽症はここで対応し、難しい病気は医師がいるアージェントクリニックに回す。遠隔医療も最初は試みたが、あまり需要がなさそうなので現在は中止している。

 費用は、カイザーの保険にはいっている人は15ドル(通常のかかりつけ医と同額)、保険がない人は85ドルからとなっている。その他の追加サービス(検査など)は10〜40ドルである。処方箋薬もCVSでそのまま購入が可能である。

 もう1つは、米国でも著名な病院チェーンである「プロビデンス病院」のケースである。この病院は空港内の薬局内に遠隔医療を行う「エクスプレスケア」というクリニックを設立している(写真②)。このクリニックにおいては、旧来のコンビニエントクリニックとは異なり、次回に述べるスイスのクリニックと同じスタイルであり、画面を通して医師が遠隔で対応するタイプのクリニックである。

 従って、この薬局の中のクリニックに常駐しているのはNPではない。トレーニングを受けた人が、血圧の測定、遠隔での聴診すなわちモニターの向こうにいる医師あるいはNPが聴診の音を聞いて判断するといったことのサポートを行っている。患者数は現在1日数人である。プロビデンス病院の顧客は無料で、そうでない人は1回50ドルになる。処方箋の発行も可能であるが、今回訪れた場所では処方箋薬の対応はしていなかった。

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