SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「日本の医療の未来を考える会」日中医療交流Web分科会 開催報告

「日本の医療の未来を考える会」日中医療交流Web分科会 開催報告

海外の超富裕層向けラグジュアリー健康セミナー

睡眠の悩みを解決して健康を目指す

COVID-19の感染状況が落ち着き、インバウンドが戻り始めた今、「次に訪問したい国・地域」のNo.1に選ばれる等、海外の観光客の目は再び日本に向き始めている。海外の富裕層が日本に期待しているのは、観光と高度な医療だ。弊社・集中出版は、ジェー・シー・ディ主催のAMHC(日本の最先端のヘルスケアサービスやラグジュアリー観光を中国・東南アジアの超富裕層向けに提供するアジア・メディカル・ヘルスケア倶楽部)と共同で、医療ツーリズムの推進に取り組んでいる。その一環として6月18日、「日本の医療の未来を考える会」日中医療交流Web分科会を開催した。中国の富裕層の多くは睡眠障害で悩んでいるという。そこで、順天堂大学医学部附属順天堂医院睡眠・呼吸障害センター長の葛西隆敏氏に「睡眠医学」の講演をお願いした。

徐 志敏氏(株式会社ジェー・シー・ディ代表取締役社長)本日ご参加頂いた皆様は、中国の各分野の最前線で精力的に仕事に取り組み、大活躍をされている中国・アジアの富裕層の方々です。皆様は健康への意識が高く、健康寿命を延ばす為には良好な睡眠が欠かせない事をご存知です。そこで、本日は睡眠障害の分野で活躍されている順天堂大学の葛西隆敏先生を講師としてお招きし、不眠に繋がる病気やその治療法等について教えて頂きます。順天堂大学医学部附属病院は、日本でもトップクラスの高い評価のある病院です。平成天皇(現在の上皇陛下)の心臓手術を執刀されたのもこの病院の先生でした。素晴らしい講演にご期待下さい。

尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人)私達は医療情報誌月刊「集中」を発行する出版社です。これまで、医療ツーリズムを通じ、アジアの富裕層の方々に日本の高度な医療を提供して来ました。来日した多くの患者の方々は、日本の名医の手術を受け、元気に帰国して行きました。コロナ禍の為今は中断していますが、この度、日本の経済界で大きな成功を収め、日本社会から厚い信頼を得ている徐志敏社長と共に、富裕層向けの医療ツーリズムを展開出来る事となり、非常に嬉しく思っています。コロナ禍も間も無く沈静化します。是非、皆様と日本でお会いしたいと思います。

講演採録
■適切な睡眠時間は7〜9時間

睡眠にはノンレム睡眠(深い睡眠)とレム睡眠(浅い睡眠)の2段階があります。ノンレム睡眠は深さによって更に3つのステージに分かれ、一番深い睡眠は深睡眠(徐波睡眠)と呼ばれます。レム睡眠からノンレム睡眠になり、もう一度レム睡眠が出て来る迄のサイクルを、一晩の睡眠で繰り返しますが、正常な睡眠では前半にノンレム睡眠が多く、明け方にはレム睡眠が多くなります。ノンレム睡眠、特に深睡眠は、成長や修復に関わるホルモンの分泌を促し、免疫機能を活性化させ、脳をしっかり休ませる為の睡眠だと考えられています。一方レム睡眠は、体はリラックスしていますが脳は少し起きている状態の為「体の睡眠」と言われ、ストレスの処理や、技術を脳に定着させるのに必要な時間とされています。

米・睡眠財団は、大人の推奨睡眠時間を7〜9時間としていますが、アジアでは5〜6時間という人が多く、多くの人が睡眠不足になっている可能性があります。睡眠不足が慢性化すると眠気を感じなくなりますが、脳の活動が低下して、やる気が出ない、怒り易くなる、テンションが高くなるといった状態になり、仕事でのミスも増えます。18時間起き続けていると、酒気帯び運転と同程度に判断力が低下するので、相当危険な状態だと言えます。心臓病等による死亡と睡眠時間との関連を見ると、7時間睡眠の人が最もリスクが低く、睡眠時間が短くなる程リスクは高まります。これは、睡眠が足りないと交感神経が過剰に活性化して、血圧や心拍数、血糖値が上がる為です。又、睡眠時間が短いと、食欲に関わるホルモンに影響し、肥満の要因となります。

■睡眠の質の低下は病気のリスクを高める

睡眠を妨げる主な要因として6つの睡眠障害が挙げられます。不眠症、睡眠随伴症、睡眠関連運動障害、睡眠呼吸障害の4つは中高年に多く、概日リズム睡眠障害、過眠症は若い人によく見られます。これらによって睡眠が妨げられると、眠りが浅い状態が続き、高血圧や糖尿病、心臓病を引き起こす要因となります。

不眠症には眠れない、寝付けない等の症状が有りますが、高齢者に多いのは、夜中に目覚める「中途覚醒」です。若い人に多い過眠症は、直ぐに眠くなる、突然寝てしまう等の症状を持つ特殊な病気です。

睡眠随伴症は「レム睡眠行動障害」という病気が中心で、老化現象の1つです。夢遊病の様に夢の中での動き(何かに追いかけられ、逃げる素振り等)を見せる症状が有り、パーキンソン病やアルツハイマー病の初期症状の可能性も有ります。

睡眠関連運動障害で、よくあるのは「歯ぎしり」です。歯が傷む原因となる為、歯科医院でマウスピースを作って治療する事も有ります。

「周期性四肢運動」という睡眠関連運動障害は、寝たまま足がピクピクと動く症状が現れます。原因ははっきりと分かっていませんが、高齢者や心臓病や腎臓病の患者に起こり易く、眠りが中断されて睡眠の質が悪くなります。

「むずむず脚症候群」という睡眠関連運動障害では、脚にむずむずするような違和感が有り、無性に脚を動かしたくなります。安静時や横になっている時、日中より夕方や夜間に増悪し、脚のむくみや筋肉痛など他の症状で説明が付かない時に「むずむず脚症候群」と診断されます。欧米人にやや多い病気で、脚が気になって寝付けないという人が多く、原因は「周期性四肢運動」とほぼ一緒ではないかと言われています。

睡眠呼吸障害は、所謂、「睡眠時無呼吸」という病気です。寝ている間に舌が喉の奥の方に落ち込んでしまい、空気の通り道が塞がれて息苦しくなります。この為、眠りが浅い所に引き戻され、そうすると、筋肉が緊張して喉が開き、呼吸出来るようになるのですが、暫くすると再び舌が落ち込み、これを繰り返します。睡眠呼吸障害は圧倒的に男性に多く、女性は閉経後に増えます。「むずむず脚症候群」は逆に女性(特に妊娠中の人)に多く、性ホルモンや月経による影響だと考えられています。

■生活習慣の改善でも睡眠の質は良くなる

普段の生活でも、睡眠にとって良い行動と、良くない行動があります。眠る2時間前迄に軽い運動をするのは良いのですが、就寝直前の強い運動はいけません。ミルクに多く含まれるトリプトファンは睡眠の質を上げるので、寝る前のホットミルクは良いと言われていますが、コーヒーや紅茶に含まれるカフェインを摂り過ぎると眠りを妨げます。就寝時の部屋は暗い方が良く、快適と感じる音楽を流して寝るのも睡眠にとっては良い事です。寝具は頭が冷え、手足が温まり易くなるものが良く、服装も長袖・長ズボンの方が良いでしょう。室温も暑過ぎたり寒過ぎたりしないようにする事が大切です。寝る前には、一旦体の中の深部体温を上げて、下がり始めた頃に眠りに就くと、質の良い睡眠になります。夜11時に寝る場合は、7時に夕食を取り、8時から9時に入浴して深部体温を一旦上げると、体温が下がり始めた頃に就寝出来ます。サプリメントでは、メラトニンは体内時計の調節をすると言われ、眠りに就くのに効果的です。グリシンやL-オルニチンも眠りに良い影響が期待出来ます。

病院での治療は、不眠症の場合、以前は睡眠薬を使っていました。しかし、最近は睡眠に関する指導や認知行動療法など精神科的なサポート、カウンセリングを重視し、出来るだけ薬に頼らずに睡眠の環境を良くする事を中心にしています。生活習慣としては、日光によってメラトニンの分泌がリセットされる為、朝に明るい光を浴びる事が重要です。メラトニンは海外ではサプリメントとして売られていますが、日本では薬として処方されます。

睡眠随伴症の「レム睡眠行動障害」や、睡眠関連運動障害の「むずむず脚症候群」、「周期性四肢運動障害」には薬が有り、医師が処方します。

睡眠呼吸障害(睡眠時無呼吸)の治療は、現状では薬等の根本的な治療は無く、対症療法が中心となります。仰向けになると気道が塞がれ易くなる為、仰向けにならないようにする補助装置やマウスピース等も有りますが、現状で最も有効なのは「CPAP(シーパップ)療法」(CPAPという機械を使い、鼻にマスクを当て、圧縮した空気を送り込む事で、舌が落ち込んでも気道を塞がないようにする方法)です。有効性が高く、無呼吸もほぼゼロに出来る治療法で、日本では50万人位の人が使っています。

最近は「舌下神経電気刺激装置」が、日本でも治療に使えるようになりました。心臓のペースメーカーのような機械を皮膚の下に埋め込み、寝ている間、呼吸に合わせて舌の動きを司る神経に電気刺激を与えます。有効性の高い治療法ですが、手術が必要で体に負担が掛かり、日本ではまだ数例しか治療例は有りません。

睡眠障害は、生活習慣の改善で良くなる事も多い病気です。文化や食事によっても事情は変わり、中国独自の問題についても報告が増えています。そうした情報も参考に、ご自身の睡眠の質を振り返ってみて下さい。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top