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未来の会

第106回 安倍一強時代の終焉と自民一党支配の再構築

第106回 安倍一強時代の終焉と自民一党支配の再構築

 非主流派を抱き込んだ内閣改造で、安倍晋三政権の支持率はほんの少し回復した。ただ、政権浮揚の材料は乏しく、低空飛行を余儀なくされている。そんな中、国会では次期衆院選に向け、小池百合子・東京都知事との連携を謳う政治団体「日本(にっぽん)ファーストの会」が設立され、野党再編のゴングが鳴った。来年9月の自民党総裁選まで後1年。ポスト安倍と政界再編を巡る長い政治闘争が始まっている。

「都知事選、都議選の有権者の声として自民党でも民進党でもない政党の存在を求めている」

 8月7日、小池都知事の側近、若狭勝衆院議員(無所属)が国会内で記者会見し、政治団体「日本ファーストの会」を設立したと発表した。政治塾「塾」を開校し、国政進出のための人材養成を進めるという。新党結成の時期については、「少なくとも年内の早い段階で作るべきだ」とし、民進党を離党する意向の細野豪志・元環境相らとの連携にも言及。「今の自民党の受け皿になるようなものを作るべきだと強い情熱を持って考えている人、国会議員の現職を含めてこれから協議を進めていく」と宣言した。

日本ファーストは排外主義の極右?

 東京都議選で圧勝した「都民ファーストの会」をベースにした小池新党の結成は、誰もが予想していたことだった。1月1日が基準日となる政党助成金の支給を考えれば、年内の旗揚げも予想通りなのだが、政治団体名「日本ファーストの会」には永田町を含め、多くの国民が首を傾げた。

 自民党中堅議員が語る。

 「都議選後、小池さんが言及した国民ファーストがキーワードだと思っていたから、驚いた。だって、米国のトランプ大統領の『アメリカ・ファースト』と同じだよね。イメージ悪いよ」 

 同様の感想はネットでも広がり、物議を醸した。「何で、国民ファーストじゃないの。これじゃ、国家主義の極右のネーミングだ」「排他的で対外的に問題あり。国政政党にふさわしくない」。

 中には事情通もいて、「国民ファーストの会は既に別の団体が登録済み。重複を避けるため、日本ファーストの会にした可能性がある」との解説まで流れた。

 「小池さんは最初は日本新党だったから、日本という言葉にこだわりがあるのかもしれないな。ただ、日本ファーストの会はあくまで団体名だろう。政党名としては長ったらしいし、ピンと来ない。政党名はそのままズバリ、小池新党でいいんじゃないの。それが一番分かりやすい」

 自民党幹部は冗談とも本気とも取れる解説を終えると、表情を変えて話し出した。

 「新党は細野や渡辺喜美が入るんだろうが、いずれも既存政党のあぶれ者で、新鮮味はない。小池都知事も下手に表に出れば都政軽視のそしりを受けるから、うかつには動けない。現状で言えば、新党は政党助成金目当ての浪人集団にすぎない。問題は、ポスト安倍という自民党内政局とどう絡むかなんだ」 

 安倍晋三首相の自民党総裁任期は来年9月までだ。支持率低迷のあおりで、かつて既定路線とまで言われた「総裁3選への道」には、もやがかかり始めている。挙党態勢を目指して入閣させた野田聖子総務相が、就任の記者会見で早々と来年の総裁選出馬を表明し、河野太郎外相まで出馬に含みを持たせるなど、異例の事態が相次いだ。事あるごとに安倍批判を展開している石破茂元幹事長を含め、「ポスト安倍」は党内で公然と語られ始めているのだ。自民党内の雰囲気は半年前とがらりと変わった。

 「小池都知事と野田総務相、石破元幹事長は相性が良く、気心が知れている。総裁選に向けての連携はあり得るだろうな。安倍首相の総裁3選に異を唱えるグループは今のところ少数派だが、野田総務相と小池都知事が手を組み、初の女性首相を目指した場合、呼応する派閥が出てくる可能性は否定出来ない。党員・党友票(地方票)への影響も少なくないだろう」

 自民党幹部は「小池熱」が総裁選に与える影響が読み切れず、それが不安材料だと語る。その一方で、若狭氏の「自民党の受け皿になる」との主張については、歯牙にもかけていない。

 「政権交代なんてあり得るはずないだろ。支持率が低迷すれば、『ポスト安倍』は『安倍降ろし』に変わるかもしれない。その場合は、岸田文雄政調会長と野田総務相、石破元幹事長らで総裁ポストを争えばいい。野田総務相を小池都知事が応援してもらって結構だ。総裁選は大いに盛り上がり、国民の関心の的になる。その勢いで、衆院解散・総選挙。なくなるのは民進党と社民党で、小池新党はそこそこ。自民党が下野することはない」

 安倍首相も野田総務相が総裁選に意欲を示したことについて、報道番組で「そういう志を持っていることをはっきり示したことは、むしろ党内の活性化にはいいのではないか」と理解を示している。総裁選を盛り上げた上で解散・総選挙に繋げるシナリオが念頭にあると言っていいだろう。もっとも、安倍首相が狙うのは、自身の総裁3選であり、それがかなわない状況なら、岸田政調会長への禅譲であることは間違いない。この場合もやはり「小池熱」が国政レベルにどの程度影響を与えるかが重要なカギとなる。ポロポロと有力議員が抜け、惨憺たる有様の野党第1党・民進党は眼中になく、関心はもっぱら総裁選にあるようだ。

包括政党の色合い強める自民党

 「下野はない」と言い切る自民党幹部だが、危機意識がまるでないかと言えば嘘になる。自民党閣僚OBが語る。

 「安倍首相も野田総務相も初当選直後に野党を経験した世代。野党転落の恐怖が体に染み付いている。内閣改造に際して、安倍首相が心を砕いたのは支持率アップじゃなく、政権を手放さないために何が必要かということだったと思うよ。導き出した答えは、右から左まで多様な意見を内包する包括政党だ。古き良き時代の自民党さ。右派の安倍が駄目なら、左派の岸田、河野がいる。女性の野田も、不思議ちゃんの石破もいる。広範な国民の要請に応えられるのは、自民党だけだということを示したかったんじゃないか」

 政権の危機に際し、右派の安倍色を薄め、包括政党という自民党の強みを前面に出したのが、今回の内閣改造、党役員人事だったという見方だ。安倍一強時代が終わっても、自民一党支配は終わらせない。2度の野党時代を経験した自民党が生存本能から最終ラインを固めたということなのだろう。安倍内閣は勢いを失ったが、自民党はむしろ生き生きしている。野党の前に立ちはだかる壁はむしろ高くなったのかも知れない。

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