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未来の会

親会社完全傘下入りでも険しい田辺三菱「復活への道」

親会社完全傘下入りでも険しい田辺三菱「復活への道」
三菱ケミカルの力は最先端創薬技術競争で生きるのか

合併の失敗を半ば認めたようなものだ——。

 2019年11月18日、国内化学最大手の三菱ケミカルホールディングスが傘下の製薬準大手・田辺三菱製薬を完全子会社化すると発表した。

 翌年1月7日までに約4900億円を投じ、直前価格の5割増しで株式公開買い付け(TOB)を行い、現在56%強保有する株式を買い増す。

 「医薬への特化だけでなく予防医薬や再生医療などをやっていく」と三菱ケミカルHDの越智仁社長は記者会見でその狙いを語った。

 医薬事業の中核を担う田辺三菱を完全掌握し、別に細胞医療を手掛ける生命科学インスティテュート等グループ内に分散する資源を再結集、重点強化を狙うヘルスケア事業でのシナジーを上げていくという。

 ただ07年に三菱ケミカルHD系の三菱ウェルファーマが老舗・田辺製薬と合併して誕生した田辺三菱の12年の歴史を失敗とみる論者の間では、田辺三菱株の売却を予想する見方があった。田辺三菱の再生には外部の力を借りる方が近道というわけだ。

どん詰まりの田辺三菱

 田辺三菱は今どん詰まりだ。19年2月、多発性硬化症治療薬「ジレニア」のロイヤルティ支払いに関し、海外販売を担うスイス・ノバルティスが係争を起こした。ジレニアの海外販売から出るロイヤルティ収入は17年度で約580億円。17年度の田辺三菱の営業利益の75%を占める。その支払いの大半を否認された衝撃は大きい。

 前18年度は最後の2カ月分だけにとどまった影響は、今19年度には12カ月分に及ぶ。今期のジレニアのロイヤルティ収入は70億円程度に急減する見込みだ。ジレニア関連で年500億円を超す営業減益要因が発生し、田辺三菱の営業利益も17年度773億円、18年度503億円、今19年度は115億円につるべ落とし。利益では準大手を名乗る資格はない。

 「自らの正当性を粛々と仲裁の場で主張していく」。田辺三菱は係争に勝てば、未計上分のロイヤルティ収入を一気に計上できると強調し、表面的には強気の姿勢を崩さない。

 実は田辺三菱は、国内販売の主力となっている関節リウマチ等の治療薬「レミケード」の仕入れ価格引き下げを国際商業会議所に申し立て、13年に導入元の米ヤンセンとの係争に勝った経験がある。ただ、その解決に4年半の歳月がかかった。強気の裏側で、係争に勝つ保証もなければ、時間がかかるのを誰よりもよく知っているのは田辺三菱自身のはずである。

 4年間係争が続けば、年500億円として2000億円のキャッシュインが吹っ飛ぶ。損益以上に研究開発費等を賄うキャッシュフローで苦しい状況が続くのだ。

 今の苦境の根を探っていけば、合併の実を上げられていない事に行き着く事が分かる。売り上げは合併発表直前期の両社合算4078億円から前期4247億円でほとんど成長していない。今期予想は3760億円で合併発表直前期を下回る。目標の5000億円は常に遠い夢に終わり続けている。合併ほどない10年にはグループ会社が遺伝子組み換えヒト血清アルブミン製剤の品質データの一部を改ざんしていたことが発覚、業務停止になった。11年、13年にも品質関連問題を起こし、医薬品メーカーとしての信頼を失墜させた。

 合併初期に不祥事対策に力をそがれたのが痛かったが、合併当時に目指した①創薬力の強化②海外事業展開の加速化③事業機会の追求、という3本柱では未達成が多い。

合併は完全失敗

 メガファーマと提携しての海外ロイヤルティ収入は拡大したが、これ頼りの収益構造リスクは、今回の係争で浮き彫りになった。薬価制度改革等で国内市場縮小は加速する一方だ。それを見越して海外事業の拡大や、新たな事業機会の追求を成長戦略の柱に据えたはずだが、それも合併から12年たった今の姿を冷静に眺めれば、完全に失敗している。

 新事業機会の追求では後発品事業に活路を求めたが、17年に後発品等の事業子会社を売却し撤退した。

 海外事業強化の柱になる海外自社販売はお寒い状況。海外医薬品売り上げは、17年に米国市場に投入した筋萎縮性側索硬化症(ALS)薬「ラジカヴァ」の貢献で前期に約550億円に拡大したが、未だ田辺三菱の売り上げ全体の1割強止まり。同じ合併組のアステラスや大日本住友が海外医薬品販売で売り上げの過半を稼ぐのに比べれば大きく劣る。

 17年にはイスラエルの医薬ベンチャー・ニューロダームを1241億円で買収し、パーキンソン病の新薬候補を手に入れた。この開発薬の承認・発売にこぎ着けて、20年度の海外の最大市場・米国売り上げを800億円にまで拡大するのが当初、会社のはじくそろばんだった。反撃の狼煙を上げたまでは良かったが、これもその後は誤算続きだった。

 ラジカヴァは米国での患者獲得が遅れ、今期は減収に転じる。欧州での承認申請も取り下げた。パーキンソン病治療薬も開発が遅延。承認・発売時期は当初計画の19年度から3年程度遅れる見込みだ。20年度に米国で800億円売り上げる現中期経営計画の当初目標は取り下げ、23年度頃に目標時期を先送りしている。

 田辺三菱の歴代経営陣の失策は明らかだが、合併後の田辺三菱の株式の過半数を保有し続けた三菱ケミカルHDに責任がなかったとはいえまい。14年に三菱ケミカル出身の三津家正之氏が田辺三菱の社長になってからは、なおさらだ。

 今、薬の開発対象は希少疾患、がん、認知症などの神経疾患、要するに難治疾患に移り、成功をもたらす創薬技術も、バイオ抗体に続き遺伝子治療、再生細胞治療などに広がっている。その進歩は日進月歩、まさに創薬技術革命の渦中にある。

 激しい国際的な創薬技術開発競争に劣後しないためには、買収や研究開発にかかる費用も今後さらに膨らむことは避けられない。

 田辺三菱の研究開発費は今期計画で800億円台にすぎない。合併発表直前期の合計値784億円からほとんど増えていない。開発パイプライン(新薬候補)の進捗が合併時からそれほどないという事だ。これは一方では研究開発にかける財務体力がないという事を示唆するものでもある。

 ライバルの大日本住友は新しい創薬技術の再生細胞医療に力を入れ、カギを握る専用生産施設を既に立ち上げ、開発で先行する。つい先頃には約3200億円の巨費を投じてスイス・英国を本拠とする医療ベンチャーと異色の戦略提携を結び、創薬開発の効率を上げる先端のAI・ITの技術基盤を導入する大胆な手に打って出ている。これと比較しても、これまでの田辺三菱はトゥーレイト・トゥースモールな打ち手に終始してきた感がある。

 「化学屋と製薬企業のシナジーはない。世界の製薬業界の動きを見れば分かるはずだ」。市場関係者の冷めた批評を跳ね返せるか。ヘルスケア強化と大上段に構える前に、まずは田辺三菱を再生できるかで、日本最大の化学会社の実力も見えてくる。

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