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未来の会

第207回 政界サーチ
2026年、政局は迷宮の如し

第207回 政界サーチ2026年、政局は迷宮の如し

市早苗首相が初めて臨む通常国会は冒頭解散で始まった。2026年度当初予算案始め、政治改革、物価高対策、安保防衛政策等、長丁場の論戦は全て選挙後に持ち越される事になった。

 高市内閣への支持は政党の枠を超えて広がり、殊に次代を担う若年層ではカリスマ化の様相さえ窺えるが、個人人気の陰で政権基盤は依然脆い。衆院選で大勝し、一気に局面を転換する戦略だ。ネックは内閣支持率に比べ、自民党支持率が低い事だが、〝党首力〟で勝てると踏んだのだろう。

 衆院選で大勝しても企業・団体献金の見直しや、衆院の定数是正の問題は依然残る。参院での少数与党体制を考えれば、公明党の連立離脱に伴う選挙体制の再構築や日本維新の会、国民民主党等との調整は不可避だ。連合政権の構成は問われ続け、失敗すれば頓挫が待つ事に変わりはない。

 外交は、昨年躓いた中国との関係が最大の課題だが、これは2国間関係に留まらず、日本の国際的な地位とも大きく関わる問題だ。秋の中間選挙を睨み、中国との融和を進めるトランプ米政権との関係維持は難易度が増しているし、中国による「日本の軍事国家化」の喧伝に晒されている諸国から誤解を招かぬ様、努めなければならない。

 面倒この上無いのだが、ほとぼりが冷めるのを待つ姿勢では劣勢を避けられないのが現状だ。「パンダなんか要らない」「パンダがいなくなるのは残念だ」「中国人観光客が減って観光公害が解消された」等というのは内向きの話であり、この問題の本質とは殆ど関係無い。対中政策の肝は寧ろ、国際舞台に在る。

 硬い表記になったが、この1年を見通せば、至る所に難所が待ち構えていて迷宮の様だ。攻略には慎重さと大胆さが必要になりそうだ。

 「好スタートを切って最初のコーナーに差し掛かった所かな。ポジション取りも悪くない」

 競馬好きの自民党閣僚OBは高市政権をひとしきり褒めてから話し始めた。

 「内政の問題は触り方が難しい所は有るが、内閣支持率は高いし、野党に纏まりが無いから上手く熟せると思うんだ。問題は円安による物価高だな。インフレが続き、国民生活が暗くなると不味い。ここは留意が要るな。でも、何とかなりそうだと俺は思うね。問題は外交なんだ。トランプさんは4月に訪中する。対中融和の流れなんだな。ところが、日中はご覧の通り。頭越しに米中で話が進められると、日本は宙に浮いてしまう。ここが第2コーナーだな。急がず、力を貯めて我慢しないとね」

最大の関門は外交分野に在り

 このOBは今年前半の最大の関門は外交に在ると言う。米国は秋に中間選挙が有る。共和党が大敗すれば、トランプ政権はレームダック化が避けられないというのが大方の見方だ。トランプ大統領の訪中の最大の狙いは米国の内政課題に有ると見られている。先ずは、昨年の米中対立の経過を辿ってみよう。

 トランプ関税で始まった米中貿易対立は、昨年5月に互いに100%超の関税を引き下げる事で一応の合意を見た。だが、米国の中国からの輸入はその後も低迷を続ける。中国は26年秋の米国中間選挙を睨み、トランプ政権の支持母体である共和党支持層の多い農家を標的にし、米国産大豆の購入を絞る作戦に打って出た。米国の主力産業の「アキレス腱」となっているレアアース(希土類)の輸出規制強化も持ち出し、トランプ政権の足下を揺さぶった。

 その後、数回の閣僚交渉を経て、昨年10月に米中首脳会談が韓国で行われた。中国は米国産大豆の輸入を再開し、レアアースの輸出規制強化も1年間延期する事で両国が折り合った。その後、トランプ政権は米半導体大手エヌビディア製の先端人工知能(AI)半導体「H200」の対中輸出許可を表明。中国への半導体関税の導入を27年6月まで見送る等融和姿勢を強めた。

 高市首相が台湾有事を巡って、「存立危機事態」の可能性に言及したのは米中融和が進む、このタイミングだった。前号で政治家の発言は「内容よりもTPOが問われる」と指摘したのは、この事を踏まえてのものだ。

 中国は日米の連携を勘繰った上で、高市首相の言動を米中交渉のカードに利用する事を思い付く。執拗な迄の日本に対する嫌がらせは日本そのものより、米国に向けられたものと見ていい。端折って言えば、「米国は日本を利用して中国の大事な権益に干渉した。この責任を取ってもらう」という訳だ。

 高市首相の発言が不当だと、中国が欧州諸国に喧伝して回っているのもその一環と見ていいだろう。目指すのは米国を中心にした自由民主主義勢力に楔を打ち込む事だ。勿論、西側諸国もその辺は分かっているし、中国も即効性だけを求めているのではない。米中による「G2体制」の微妙な均衡を僅かでも打ち破れれば御の字なのである。何故なら4月と見られるトランプ大統領の訪中に伴う米中首脳会談を有利に運ぶ事に真の狙いが有るからである。

 中国の意図を読み取った米政府は日米の連携を更に密にしなければならないと判断。高市首相とトランプ大統領とのホットラインを強化する。これが、日中対立後のトランプ大統領から高市首相への電話の申し入れだった。1月2日には、トランプ大統領から高市首相に訪米日程等の確認の電話が入った。訪米日時はトランプ大統領の訪中前の春とされているが、国会での当初予算案の審議状況等を見定め、合間を縫っての日程となる。

 電話会談の翌日、トランプ大統領は南米・ベネズエラの反米政権を武力攻撃し、マドゥロ大統領夫妻を拘束する強硬策に踏み切った。国際世論は痛烈に米政権を批判しており、ベネズエラと近い中国、ロシアとの緊張も高まりつつある。

 先の閣僚OBが切り出した。

 「対中関係もそうなのだが、強硬手段も辞さないトランプさんとの付き合い方も難しさを増していくだろう。寄り添っているだけではリスクを被る。春の日米首脳会談はその意味でも重要になる」

 少し間を置いて続ける。

 「6月にフランスのエビアンで開かれる主要7カ国首脳会談(G7)だが、マクロン大統領は中国の習近平国家主席を招待する事を検討している。フランスは過去にも中国を招待しているし、険悪そうな日米と中国の間を取り持とうという事なんだろうが、腹は中国との関係強化なんだろう。日本等は国家体制が異なると反対している。考えれば分かるよな。今の状態で、高市首相と習主席のガチンコは双方にメリットが無い。下手に動けば、双方共、国内右派から指弾され兼ねないからね」

 外交の舞台は、異なる思惑、国益が渦巻いていて複雑だ。ロシアの脅威に晒されている欧州先進国は中国を自陣営に寄せ、対ロシア交渉を有利に運ぶ為に利用したいし、米国と対立している中国は西欧諸国との繋がりを強める事で米国を牽制したい。これにそれぞれの内政問題が絡んでくる。

冒頭解散で一気にハナに立つ

市首相はというと、自民党総裁任期が残り2年を切っている。何れかのタイミングでは解散・総選挙に打って出なければいけなかった。衆院選を経ても内閣支持率を維持しつつ、並べ立てた経済大国復活の政策を淀み無く遂行しなければならない。外交は内閣支持率との関連が薄い分野と思われがちだが、熱狂的な高市首相支持派は「中国を始めとする対外への強硬な態度とナショナリズムの隆盛」を期待する向きが多い。柔軟と強硬の両立が問われる。日米首脳会談、G7をこなした後の11月には中国が開催国となるAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議も待ち構えている。

 競馬好きの閣僚OBは、安倍晋三元首相が長期政権を維持出来たのは解散・総選挙の時期を間違えなかった眼力に有る、と指摘した上でこう語る。

 「外交分野では春先の訪米と日米首脳会談、米中首脳会談迄が第2コーナー、サミットが第3コーナー、APECが最終コーナーという感じだな。これに解散・総選挙の時期が絡む。年初から内外が揺れているから、通常国会の冒頭解散で一気にハナに立って押し切るのがベストだろうね。報道された以上、引く訳にはいかないだろう」

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