
ポスター掲示に規定を設けるも曖昧さが残る内容に
2024年の東京都知事選挙での混乱を受けて、与野党により公職選挙法の2本の改正法案が提出され、共に成立した。
1つは選挙ポスターに関して選挙の種別によって異なった規格を縦42㌢、横40㌢を超えない様統一する事。そして、選挙カーに関して今迄は構造上宣伝を主たる目的とする乗用車、サンルーフ車、小型トラック等を用いる事が出来なかったが、普通免許で運転する事が出来る乗車定員10人以下、車両総重量3・5㌧未満の自動車であれば用いる事が出来るとする事。こちらの法案に関しては衆参両院に於いて全会一致で可決している。
そしてもう1本が、当時の都知事選で世間を騒がせた事態に係る対処として作られた改正法案である。内容は次の通りポスター掲示に関する事で、「候補者の氏名を見易いように記載しなければならない」「他人の名誉を傷付けたり、善良な風俗を害したりする等品位を損なう内容を記載してはならない」「特定商品の広告その他営業に関する宣伝をした場合は100万円以下の罰金を科す」というものである。
選挙ポスターは当然、スーパーの広告や映画館のポスターとは違い、公職の選挙に立候補している候補者を有権者に周知する為に在るからこそ多額の公費が費やされている。言わばポスター掲示は公共性・共益性の高い行為である。
NHK党によるポスター枠「販売」と過剰占有
当時の都知事選では公費で設置し提供された掲示板に風俗店の広告やQRコードで有料サイトに誘導するもの等、選挙とは無関係のポスターが大量に貼られていた。貼られていたのはNHKから国民を守る党とその関連団体の立候補者の掲示枠で、1カ所で同じ物が24枚も貼られていたケースも有った。立候補者を擁立しているNHK党の関連団体のポスターに印刷されたQRコードを読み込むと「掲示板をジャックせよ」とのキャッチコピーの下、無関係の有料SNSを紹介するページに誘導される仕組みとなっていた。その紹介ページはNHK党のホームページや党首立花孝志氏のYouTubeで繰り返し案内されていた。
荒らされたポスター掲示板について東京都選挙管理委員会には告示の翌日夕方迄に1200件以上の苦情の電話やメールが寄せられて対応に追われたという。都選管は公職選挙法に違反している訳ではないので対応出来ず警察の対応を待つとしており、警視庁は都迷惑防止条例や風営法の違反の疑いが有るものについて候補者等に警告した。
「法律や条例で禁止されている行為でなければ何をしても良い」という主張は正当なのか。それが許されるならば大量の法律や条例が必要となる。公選法に限らず多くの法律が一定のモラルにより下支えされてきた事は事実である。選挙に於ける無駄な掲示板や選挙ポスターの廃止を主張する為の行為だと言うのであれば、その主張は実際の選挙で行うのではなく議会や政治活動の場に於いて行い、法改正を目指すべきである。
一方、今回の法改正によって都知事選で起きた混乱を防げるのかというと、中途半端な印象である。選挙ポスターの掲示板での特定商品の広告や営業に関する宣伝は論外であるが、「品位を損なう内容」の記載を禁じるという表記には曖昧さも窺われる。大多数の国民には理解出来るが一部の少数にはそれが理解出来ないからこそ今回の様な問題が発生したとも考えられる。品位とは何か。品位を誰がどのように解釈するのか。結局、国民のモラルに頼る事になるのではないかという曖昧さが残る。
都知事選のポスター騒動で唯一、NHK党に近い見解を示したのが日本共産党である。共産党の一部の議員は「選挙期間に入ると候補者名が入ったビラやポスターの配布・掲示が減るのが日本の選挙であり、だから公営掲示板にプレミア感が付く」と指摘し、検討すべきは規制を強化して選挙を特別な一部の人だけのものにするのではなく、主権者である国民、有権者の選挙権行使の為に選挙運動の自由を拡大する事だと主張している。
さて、今回の「公職選挙法の一部を改正する法律」には附則として「選挙に関するインターネット等の利用の状況、公職の候補者間の公平の確保の状況その他の最近における選挙をめぐる状況に対応するための施策の在り方については、引き続き検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」と付け加えられている。
選挙の候補者や政治家の演説の動画を興味本位で切り貼りして編集し、SNSや動画投稿サイトにアップロードして広告収入を得る行為が増えている。中にはその政治家の演説内容や印象が大きく変容するような恣意的な編集を加えた投稿も少なくない。投稿数や閲覧数、動画再生回数に比例して収益が増える仕組みが背景に在り、自ずと内容が過激になり、正確性を欠いた情報の発信を招く可能性が有る。その事が選挙結果を歪めてしまうのではないかと危惧されている。SNSやプラットフォーム事業者が支払う報酬の原資は広告収入である。選挙前の一定期間と選挙期間中は選挙に関わる投稿に対する広告掲載を禁止する事で収益を封じる事が可能ではある。しかし、その様な対策を講じる事は表現の自由を制限する事にもなり兼ねない。村上誠一郎総務相(当時)は24年12月の参院本会議に於いて「公選法に虚偽事項公表罪が設けられているが、SNSを含め、インターネット上の発信等も対象となる」と答弁するに留めている。
2馬力選挙への規制には慎重な検討を
巷で2馬力選挙と称される、他候補の当選を目的に選挙に出馬する行為についても規制を求める声が広がっている。24年秋に行われた兵庫県知事選に立候補した立花氏の動きについて、選挙の公平性に疑問を抱かせるという声が多く上がった事に起因する。立花氏は対立候補である「齋藤元彦氏のプラスになるような運動をする」と宣言した上で齋藤氏を擁護する発言や評価する発言を街頭演説やYouTube内で繰り返し行った。
それらの行為を疑問視し規制を望む声が高まっていた。前述の24年12月の参院本会議で村上氏は「公職の候補者が他の候補者の選挙運動を行う場合には、その態様によっては、公選法上の数量制限等に違反する恐れが有る」と懸念を示した。昨年2月には19府県の知事が連名で「民主主義と地方自治が危機に晒されている」として国に抜本的な対策を求めている。石破茂首相(当時)も同月の衆院予算委で、選挙での2馬力行為を「どう考えてもおかしい」と法改正に言及した。とは言え、法改正の必要性が論じられている事自体が現行の公選法に抵触していないという証左にもなり得る。
「感情論で規制を強める事には慎重であるべきだ」「選挙期間中は表現の自由や言論の自由に寛容であるべきだ」という意見も散見される。選挙と何ら関係の無いポスターの掲示を規制するのは当然だろう。だが、SNSによる選挙ビジネスの規制や立候補者による2馬力行為の規制には、様々な具体的行為を想定した上で慎重な検討を重ねるべきである。選挙運動に於いて候補者の情報や政治的な争点等の情報を発信する自由は憲法21条1項で保障されている。それに関わる発信に対しての広告を禁止する事は憲法で保障された権利の一部を制限する事にもなり兼ねない事から、慎重な検討を要する。
選挙ポスターやポスター掲示板の有用性に関する問題提起や、メディアによる一方的な世論形成によって不利な状況を強いられた候補者の擁護の為の立候補等には、一定の大義名分が存在する。一方、公選法に規定されていないからといって、公平公正であるべき選挙に於いて直接的行為として信義を損なう可能性の有る行為を執る事は、社会性に反する事でもあろう。憲法との兼ね合いを念頭に、政治家は逃げずに答えを出す必要に迫られている。




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