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未来の会

第117回「日本の医療」を展望する 世界目線
韓国の医療事情④

第117回「日本の医療」を展望する 世界目線韓国の医療事情④
韓国の最先端病院事情

今回からは具体的な韓国の病院の様子についてみてみよう。まずはビッグ5の一角であるサムスンソウル病院(Samsung Medical Center:SMC)は、1994年に開院し、サムスングループが非営利組織として設立・運営する医療機関である。患者に高品質な医療サービスを提供することを目指し、患者中心のアプローチを推進している韓国で最も有名な病院の1つである。がん治療と心臓血管疾患の治療を得意としており、陽子線治療センター、心臓・脳卒中研究所などの最先端医療施設を備えている。緊急時に米大統領の治療を行う緊急治療施設として米ホワイトハウスから指定を受けたほか、がん治療ではガンマナイフ手術やロボット手術などの先進的な治療技術を提供している。スマートER、病院情報システム(HIS)、自動化された物流システムなど、デジタル技術を活用して高度に個別化された治療を実施しており、医療の質や安全性、費用対効果等の向上を目指す米国の非営利団体HIMSSHealthcare Information and Management Systems Society)でINFRAM7、AMAM6、EMRAM7、DIAM7の評価を受けている。下記の表は病院の基本データである。

病院内には、サムスン先端技術研究所(Samsung Advanced Institute of Technology)が併設され、研究が盛んに行われている。特に、遺伝子研究や再生医療、バイオテクノロジー分野において世界的に注目されている。この病院は医療ツーリズムにも積極的で、海外からの患者も多く外国人専用のサービスや通訳、治療プログラムが整備されている。

SMCのスマートホスピタルの概要

前述したようにSMCでは、情報技術と管理システムを最大限に活用しており、医療の質や安全性、費用対効果、HIMSSの最高レベルの認証を受けており、まさに医療DXに積極的に取り組んでいるといえよう。

SMCでは、スマートホスピタルとして患者中心のケアと革新的技術の活用を通じて医療の未来を切り開くこと目標とし、デジタルヘルスケア分野におけるリーダーシップを確立してきた。

SMCの戦略は、デジタルトランスフォーメーションを通じた7つの革新タスク「SMC Connected Platform」に基づいている(次頁)。このプラットフォームの一部としてIoT、AI、ビッグデータを活用したシステムが導入され、院内での効率と安全性を両立させる取り組みが積極的に行われている。

SMC Connected Platform
1.臨床プロセス効率化
2.ロジスティクス管理
3.患者サービスの向上
4.人材管理の最適化
5.空間管理の進化
6.医療機器ネットワークの強化
7.ケアネットワークの拡張

主な取り組みの内容は下記の通りである。

電子カルテ(EMR)とコンピュータによる医師オーダーエントリーシステム(CPOE)の統合運用:全職種が「DARWIN MED」という統合システムを使用し、患者情報や処方管理が電子的に一元化されている。
移動式モバイルシステム:医師と患者の双方がスマートフォンを利用して、予約、診断結果の確認、医療記録の共有が可能です。これにより患者エンゲージメントの向上が図られている。
医療機器の追跡と管理:リアルタイム位置測位システム(RTLS)を使用して、移動式医療機器やロジスティクスを効率的に管理している。
患者教育と自己管理:患者に教育ビデオや自己管理ツールを提供し、患者自身が治療計画に積極的に関与できる仕組みが整えられている。

 また、セキュリティとデータ管理にも注力し、SMCは、患者情報、従業員情報、ITシステムを保護するため、包括的なセキュリティポリシーを採用。データセンターはクラウドと仮想化技術を活用し、迅速なデータ分析と研究支援が可能な環境を提供している。

RTLSの活用

リアルタイムでの位置測位システムは、看護師の非臨床業務削減や物流プロセスの自動化を進め、医療サービスの質を向上させることに成功した。
導入前の課題から振り返ってみよう。

非臨床業務の負担看護師は約14%の時間を非臨床タスク(物資補充や在庫確認など)に費やしており、患者ケアに専念する時間が制限されていた。
労働力不足労働力の制約により、医療スタッフや物流業務の効率向上が求められていた。
空間不足院内スペースの不足が物資管理の制限となり、外部倉庫の活用が必要とされていた。
 これらの課題に対する解決策は次の通りである。

標準数量モデルでの計算:各病棟で必要な医療物資量を日次または週次で計算し、標準数量を自動で補充。必要に応じて緊急対応も可能。データに基づき、消費傾向に応じた補充量調整を実施した。
スマートカートシステムの導入:「Magic Cart」と呼ばれる自動在庫管理キャビネットを導入してRFIDやバーコードによる物品追跡機能を搭載し、在庫確認や検品作業を不要に。自動誘導車(AGV)を使用した夜間配送で患者動線と物流動線の重複を回避した。
自動化と標準化:在庫管理や配送を自動化し、効率的かつ安全な物流システムを確立。物流アイテムを標準化することで、物資点数とコストを85%以上削減した。
その結果、以下の通り改善が実現した。

作業時間の削減:在庫確認時間が1日当たり29分から0分に。検品プロセスや物資管理の負担も大幅に軽減した。
患者満足度の向上:夜間配送による日中の混雑緩和で患者体験を向上。感染リスクや安全性が向上。
コスト削減:在庫点数を85%、物流コストを87%削減した。
スペースの最適化医療物資の保管スペースを見直し、全体で71%削減。病院内スペースの有効活用に成功した。

その他のIoT技術として、SMCでは病室内のモニターで様々な情報を提供している。日本の病院でも同様の機能がある場合があるが、韓国の場合は更に一歩進んでおり、血液検査の結果や画像診断の結果を映し、ベッドサイドで確認しながら医師の説明を受けることが出来ることはもちろん、入院時の食事の選択や請求書の確認など、様々な機能が付加されている。

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