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未来の会

第79回 世界目線 医療にもSDGs・ESGの視点を

第79回 世界目線 医療にもSDGs・ESGの視点を
SDGs、ESGとは

最近経済紙でSDGsとかESGと言った言葉を聞かない日は少ない。小中学校でも中身はともかく、これらの用語については教えられているようだ。それ程にこういった概念が広がっている背景には、地球温暖化などの環境問題、貧困といった格差問題、更には自分たちのお金がどのように使われているかといったガバナンスの問題などが世の中に注目されているからであろう。

特に直近では、電気自動車のテスラ社の筆頭株主であるイーロン・マスクのような、企業で成功した一部の超富裕層にお金が集中しており、そのお金がどのように使われるべきかといった議論が盛んである。驚くような数字としては、アマゾンの時価総額200兆円以上、20年売上げ3860億ドル(40兆円以上)、アップルは時価総額300兆円以上、20年売上げ2745億ドル(時価総額は変動します)ということで、これらは小さな国以上の経済力を誇っており、アマゾンは日本の国民医療費並みの売り上げを示している。

ここでまず、SDGsの復習をしておこう。SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称で、15年9月に国連で開かれたサミットの中で決められた、国際社会共通の目標である。このサミットでは、16年から30年までの長期的な開発の指針として、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、この文書の中核を成す「持続可能な開発目標」をSDGsと呼んでいる(次頁右下図)。

一方ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉である。企業もこのような点に目配りをせよ、という感じである。

人類の究極の願望「不老不死」と医療の役割

そんな中で、いかに豊かな時代になっても、どんなに金持ちになっても達成できないことが、「健康で長生き」という不老不死の願望であろう。これは、古からの願望である。17年12月26日のAFPによれば、「中国で02年に見つかった大量の木簡の中に、秦の始皇帝(Qin Shihuang)が国内各地で不死の薬を探すよう命じた布告や、それに対する地方政府からの返答が含まれていることが、最新の調査で明らかになった」という。この布告は辺境の地域や僻地の村にも通達されていたらしい。これをある程度達成できるのが医学なのだ。つまり、医学や医療は、不老不死とまではいかないまでも、人類すべての願望をかなえる手段の少なくともその1つである、とは言えそうである。

医療においてESGの意識が低い理由

しかしながら、健康といったことについては、SDGsの中には謳われている項目があるが、ESGには明確には言及されていない。通常、ESG投資と言った時にも、製薬会社や医療機器の会社はそこに当てはまらないことが普通である。

健康というテーマがここに入っていなくて、病院などがこういった意識に乏しいのは何故なのであろうか。例えばESGについては、企業では統合報告書といった概念がある。統合報告書とは、企業の売上や資産などの財務情報に加え、企業統治(ガバナンス)や社会的責任(CSR)、知的財産などの非財務情報をまとめたものである。欧米を中心とした海外機関投資家が投資の際、企業の社会的責任を重要視し始めたことを契機に作成されるようになった。

これは「株式市場でお金だけではなく、非財務的な指標も考えるべきだ」として注目されている概念である。近年では病院と同じように非営利組織である大学などでもこのような概念の重要性が言われるようになってきており、統合報告書を作成する例が出てきている。

ではなぜ、医療業界、特にそれなりの組織であると思われる病院でこういった意識が少ないのであろうか。1つは医療がそもそも人の為に行っている行為であることが、外部に対して極めてわかりやすいからだと思われる。もちろん世の中の企業が行っている行為や提供しているサービスの大半は、世の中の為に役立つものである。しかし、例えば自動車で起きる公害のように、プラスとマイナスの両面を持っているものも多い。

医療に関しても、患者を診断し治療する時に、被曝の問題や医療廃棄物の問題は伴うものの、副作用的に起きるこういった事象と効果とのバランスで言えば、圧倒的に効果の方が大きいので、SDGsといった幅広い見方や、医療のこういったマイナス面については議論されることが少なかった。

もう1つは日本では家族経営の中小の病院が圧倒的に多い為に、このような意識がそもそも乏しかったという面がある。ただこれは、企業においても全く同じで、ESG投資の対象になるのは通常は上場企業であるし、中小企業ではよほど意識が高くないとこのような視点を持つことが少ないであろう。

医療における非財務情報公開の重要性

もちろんこのような意識が医療界に全くなかったわけではなく、例えば手稲渓仁会グループは、企業のCSRに習って、06年からCSRレポート発刊しているし(https://www.keijinkai.com/?page_id=69)、自治体病院ではHSR(healthcare social responsibility)という概念が議論されることもある。

ただ、いずれにせよ、世の中がESGやSDGs重視の流れにある以上、公器とされる医療機関において、財務以外の情報公開は重要ではないか。病院などの医療機関は、社会の助け合いの為に拠出される社会保険料だけならまだしも、診療報酬の原資として税金が投入されている。それが、中小企業と同じ扱いでいいのか、という論点があるだろう。

実は、これは医療機関に限ったことではない。医療関連の企業、例えば製薬会社や医療機器の会社も同じ課題を抱えている。ただし、こういった会社は大企業が多いので、財団を作ったりして、社会貢献を行ってきたのは事実である。

世の中の見方はどうだろうか。コロナ禍で、ヘルスケア企業への期待は高まり、減ることはない。新型コロナウイルス感染症などの新しい感染症やがん、アルツハイマー病など有効な治療手段がない病気への治療法の確立、病気予防や未病への対応など、ヘルスケア企業が取り組むべき課題は多い。期待が大きい一方、世の中や人々の目も厳しくなりがちで、そこに十分対応してきただろうか。ユーザーである医師などの医療従事者に過剰に目が行き、エンドユーザーである患者に目が行き届かないところがあったように思われる。前述したように、医療はいいことをしているのだから、といった甘えがあったのかもしれない。

衣食住から医食住へ

コロナ禍を境に、生活になくてはならないものの重要度も、「衣食住」から「医食住」へと変化した。更に、「グリーン」といったキーワードの下で、ESGとして環境問題にも視線が向けられるようになった。医療者や医療機関、医療関連企業も、図に示すようなSDGsの視点も忘れることなく、幅広く世の中に貢献していくことが望まれるようになってきていると言えそうである。

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