
療報酬自主返還と再指導
厚生労働省の地方厚生局による個別指導の際には、病院であっても診療所であっても同様に、医師・歯科医師自身によるカルテ記載について、当該医師・歯科医師は厚生局指導医療官や保険指導医から執拗に詳細な記載を迫られる。特に、診療報酬点数の高い医学管理料を中心として、「カルテへの要点記載」をするように、との指摘が絶えない。
確かに開業医であっても勤務医であっても多忙を極めており、多くの患者さんへの診療や他の事務作業と比べて、そこまで仔細なカルテ記載を求めるのは、バランス上、いかがなものかと疑問に感じる。ただ、実際のところ、指導医療官らもそこの実情をわからないわけではない。しかしながら、昨今の医療費抑制の政策の下では、対財務省等との関係もあって、保険医にせめてカルテ記載はしてもらわないと、厚生局ひいては厚労省が財務省等に対抗できないと圧迫を受けているようであり、現実に、そのように明示して、開業医や勤務医に納得と協力を求める指導医療官らもいる。
個別指導の実務では、「カルテへの要点記載」が不足していると細かく指摘されてしまう。ただ、多少は記載はされているが、いわゆる「不足」に過ぎないならば、「指摘」と「改善」指導に留めるのが通例である。しかし、カルテへの要点記載が「欠落」しているならば、「自主返還」 指導となってしまう。ただ、当該診療料金の自主返還だけならば、たとえそれが過去1年分になっても、(これで済みだと思えば)かろうじて我慢しうるかも知れない。
ところが、一旦、「自主返還」となると、それだけでは済まないのである。大抵は次年度にも「再指導」と言うことになってしまう。その「再指導」のプレッシャーたるや、まことに甚だしいものがあり、精神的なプレッシャーだけではない。その「再指導」までの1年間(厚生局の事務都合で2年目以降にずれ込むこともあるが)、緊張し萎縮してしまって、満足に「加算」 や「医学管理料」を算定し難くなってしまう。つまり、心理的にいわば金縛りにあったが如くになりかねないのである。
したがって、診療報酬自主返還と再指導の連鎖を断ち切るために、ある程度の「カルテへの要点記載」を我慢して実施するのが、現実的な対処方法であろうか。
加算や医学管理料等の「要点記載」の一例
次にカルテに「要点を記載」すべき診療報酬項目の一例を挙げる。なお、ここで使う用語は、必ずしも厳密なものではなく、多少ともわかりやすく世俗的な物言いとしてみた。
| 医科 | ||
| 1 | 外来管理加算 | 患者の発言、診察の所見 |
| 2 | 特定疾患療養管理料 | 管理内容 |
| 3 | 悪性腫瘍特異物質治療管理料 | 腫瘍マーカー検査の結果及び治療計画 |
| 4 | 難病外来指導管理料 | 診療計画及び診療内容 |
| 5 | 退院時リハビリテーション指導料 | 指導(又は指示)内容 |
| 6 | 退院後訪問指導料 | 指導又は指示内容 |
| 7 | 退院時薬剤情報管理指導料 | 薬剤情報を提供した旨及び提供した情報並びに指導した内容 |
| 8 | 在宅患者訪問診療料 | 訪問診療の計画及び診療内容 |
| 9 | 在宅患者訪問看護・指導料 | 医師は、保健師、助産師、看護師又は准看護師に対して行った指示内容 |
| 10 | 在宅患者訪問リハビリテーション指導管理料 | 医師は、理学療法士、作 業療法士又は言語聴覚士に対して行った指示内容の要点を記載 |
| 11 | 疾患別リハビリテーション料 | 当該リハビリテーション実施計画の内容 |
| 12 | 障害児(者)リハビリテーション料 | 実施計画の内容 |
| 歯科 | ||
| 13 | 歯科疾患管理料 | 管理計画の内容についての説明 |
| 14 | 長期管理加算 | 今後の口腔管理上の留意点 |
| 15 | 周術期等口腔機能管理料 | がん治療などの患者について管理報告書の内容や、管理計画書以外の必要な管理事項 |
| 16 | 歯科訪問診療科 | 訪問診療の計画、実施時刻、訪問先名、患者さんの状態(急変時の対応の要点を含む) |
厚労省のまとめ
厚労省がまとめて、公表している「令和6年度 特定共同指導・共同指導(医科)における主な指摘事項」においては、記載に関して次のような事項が挙げられている。
| 医科 | |
| 1 | 診療録への必要事項の記載について、医師による日々の診療内容の記載が全くない日が散見される又は記載が極めて乏しい。 |
| 2 | 外来管理加算について、患者からの聴取事項や診察所見の要点について診療録への記載がない又は記載が不十分である。 |
| 3 | 治療計画、指導内容の要点等の必要記載事項を診療録に記載していない。(特定薬剤治療管理料、悪性腫瘍特異物質治療管理料、難病外来指導管理料、退院時リハビリテーション指導料等) |
| 4 | 療情報提供料(Ⅰ)について、交付した文書に項目欄の一部がなく、別紙様式に準じていない。 |
| 5 | 宅療養指導管理料について、指示した根拠、指示事項又は指導内容の要点を診療録に記載していない。(在宅自己注射指導管理料、在宅酸素療法指導管理料、在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料、在宅寝たきり患者処置指導管理料等) |
| 6 | 呼吸心拍監視について、診療録に観察した呼吸曲線、心電曲線、心拍数それぞれの観察結果の要点の記載がない。 |
| 7 | ビタミン剤の投与が必要かつ有効と判断した趣旨が具体的に診療録、診療報酬明細書へ記載されていない。 |
| 8 | 薬剤管理指導料1 薬剤管理指導記録に記載する事項のうち、患者への指導事項の記載が不十分である。 |
| 9 | 薬剤管理指導料2 ・薬剤管理指導記録に投薬・注射歴、副作用歴、アレルギー歴及び薬学的管理指導の内容を記載していない。 ・薬剤管理指導記録の内容について、薬学的管理指導に係る事項の記録が不十分である。 |
| 10 | 退院時薬剤情報管理指導料 薬剤情報を提供した旨及び提供した情報並びに指導した内容の要点について、診療録等への記載がない(薬剤管理指導料を算定している患者の場合は、薬剤管理指導記録で差し支えない)。 |
また、歯科についても、「令和6年度 特定共同指導・共同指導(歯科)における主な指摘事項」において公表されている。
| 歯科 | |
| 1 | 歯科疾患管理料 1回目の管理計画において、患者の歯科治療及び口腔管理を行う上で必要な基本状況、口腔の状態、必要に応じて実施した検査結果等の要点、治療方針の概要等、 歯科疾患の継続的管理を行う上で必要となる情報を診療録に記載していない。 |
| 2 | 長期管理加算 初めて算定する場合に、患者の治療経過及び口腔の状態を踏まえた今後の口腔管理に当たって特に留意すべき事項について、その要点を診療録に記載していない。 |
| 3 | 口腔機能管理料 口腔機能管理料を算定した月に診療録に記載すべき内容について、記載が不十分である。 |
| 4 | 周術期等口腔機能管理計画策定料 管理計画書に記載すべき内容について、記載が不十分である。 |
| 5 | 歯科衛生実地指導料 ・歯科衛生士に行った指示内容等の要点を診療録に記載していない。 ・情報提供文書に記載すべき口腔衛生状態(う蝕又は歯周病に罹患している患者はプラークの付着状況を含む。)の記載が不十分である。 |
| 6 | 歯科特定疾患療養管理料 症状及び管理内容の要点を診療録に記載していない。 |
| 7 | 歯科訪問診療料 ・診療録に記載すべき内容(実施時刻(患者の病状に基づいた訪問診療計画の要点、開始時刻と終了時刻))について、画一的に記載している。 ・第1回目の歯科訪問診療の際に、当該患者の病状に基づいた訪問診療の計画の要点を診療録に記載又は当該計画書の写しを診療録に添付していない。 |
| 8 | 歯科診療特別対応加算 当該加算を算定した日の患者の状態について、記載がない又は画一的に記載している。 |
| 9 | 歯科疾患在宅療養管理料 管理計画に記載すべき内容について、記載がない又は画一的に記載している。 |
| 10 | 歯周病検査 歯周基本検査に必要な検査のうち歯周ポケット測定(1点以上)及び歯の動揺度の結果を診療録に記載又は検査結果の分かる記録を診療録に添付していない。 |
カルテ追加記載について
カルテの追加記載については、厚労省は、「保険診療確認事項リスト(医科)令和6年度改定版ver.3」において、「要点記載」がない場合と同様、改めるべき不適切な事項の1つとして「指導日直前に指導対象患者の診療録を追記している」と述べている。ただ、一般的には、「指導日直前」とは、何時までのことを指すのか、疑義が生じよう。さらには、そのように一律に「追記」を制約することにも、そもそも疑義がありうるところである。この点は、また別の機会に述べたい。


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