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未来の会

第212回 厚労省ウォッチング
介護保険制度の新概念「包括報酬」案は導入されるか

第212回 厚労省ウォッチング介護保険制度の新概念「包括報酬」案は導入されるか

厚生労働省は年末に取り纏める介護保険制度改革案の中で、人口減が進む中山間地域での介護サービスの確保に向けて「1カ月当たりの包括報酬」の導入を目指している。利用者が減っていく地域でも介護事業者が撤退しない為に、先々も「一定の収益」を見通せる様にする事が目的だ。同省幹部は「無駄な診療を抑える狙いの医療の包括払いとは逆のイメージ」と言う。

人口構成は今後、地域によってバラツキが生じる。高齢化が著しい中山間地域は支え手だけでなく、高齢者人口も減っていく。現行の介護報酬は「サービス提供回数に応じた出来高払い」。介護事業者の収入は「介護報酬×利用者数」に左右される為、高齢者人口の減少に伴って報酬も減る一方となる。訪問介護を中心に、只でさえヘルパーの派遣が困難という地域が少なくないのが現状だ。将来に見通しが立たないままなら一層介護事業者の撤退を促し兼ねず、新たな事業者の誘致も困難になる。

そこで厚労省が「新たな概念」として捻り出したのが、「包括報酬」案だ。利用者が亡くなったり、キャンセルが生じたりしても事業者の収入が減らない様、出来高払いに加え、利用回数に左右されない包括払いも選べる様にする。利用者数によらず1カ月の収入を同額となる様にし、事業者の収益を維持していく。

「包括報酬」に関しては、制度の見直しを議論している厚労相の諮問機関、社会保障審議会の介護保険部会でも概ね好意的に受け止められている。只、包括払いの場合、事業者の不祥事を誘発する要素が有る。利用回数に関わらず同額の報酬が支払われる為、必要な回数のサービスを提供しない事業者が出兼ねない。介護保険部会でも「サービスの質が確保されているのか、十分にチェックすべきだ」(橋本康子日本慢性期医療協会会長)といった指摘が続いた。この点について厚労省は、事業者に対する外部監査の導入を検討している。又、包括払いなら利用回数が少ない人も多い人も同じ負担になる等、不公平感を呼び起こす可能性が有る事から、同省は利用者毎に「出来高払いか包括払いか」の選択を認める事も視野に入れる。

中山間地域では利用者だけでなく、介護の担い手も減っていく。サービスの提供が出来なくなるのでは「包括払いも絵に描いた餠」(厚労省幹部)とあって、「人員配置基準の大幅緩和」も併せて採り入れる考え。しかし、こちらには慎重論が少なくない。少ない人員で従来のサービスを維持出来るのか、という疑問が根底に有る為で、介護保険部会でも「夜勤スタッフ等の負担が過重になる」「結局離職に繋がる」「介護ロボットの導入等、負担軽減策の効果を検証してからの話だ」といった指摘が相次いでいる。

厚労省は、中山間地域で包括払いを導入し、人員配置基準を緩めても尚、撤退する介護事業者は出てくると見ている。こうした地域では、国が介護保険財政から市町村に事業費を支払い、市町村はそれを原資として事業者に委託費を払って介護サービスの提供を維持していく事も考えている。

例えば訪問介護の維持に向け、特定の自治体に事業費を交付し、当該の自治体は近隣の事業者に訪問介護サービスの提供を委託する、といったイメージだ。但し、委託費を高額に設定しなければ応じる事業者が出てこない恐れも有り、同省幹部も「そうなれば介護保険財政に響く。中山間地以外の人の負担増で支えて貰う事になり、広範な理解を求めねばならない」と悩みを口にする。自治体等からは「(介護保険制度以前の税による)措置制度に先祖返りするのでは」との疑問も飛び出している。

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