
Vol.5 多根総合病院(大阪府)
多根総合病院は9 日連続で休暇が取得出来る「プラチナ休暇」や、研修や学会への参加費の支援等で、プライベートと仕事を両立しながら、自ら成長し、長く働ける職場環境を整備している。取り組みについて、小川稔院長と米倉修司看護部長に話を伺った。
——女性が働きやすい職場環境を整える為の支援策についてお聞かせ下さい。

小川 産前産後休業や育児休業、介護休業等の制度は勿論整備していますが、重要なのは復帰後のサポートです。育休明けの職員がスムーズに復職出来る様、時短勤務や夜勤免除、時間外勤務の制限を柔軟に運用しています。子育てが落ち着く迄は、所属部署と連携し、個々に合わせた働き方を支援しています。又、再入職時には一時金を支給し、以前の有給休暇付与日数から2ランク下げた日数を優遇して付与する「アルムナイ再雇用制度」を設けています。育児や介護を経ても再び戻れる仕組みを作る事で、キャリアの継続を支えています。加えて、復職者には面談や職場見学の機会を設け、ブランクを感じさせない様、段階的に業務へ戻れる体制を整えています。
——子の看護等休暇や勤務時間の配慮等の制度はどの位の利用者がいらっしゃるのでしょうか。
小川 女性医師の割合が未だ少なく、看護師は20〜30代が中心の為、現在は全体の1割に満たない状況ですが、近年は確実に増えています。妊娠・出産を理由に退職する職員は減少しており、制度が実を結びつつあります。
——子育て支援の環境についてもお教え下さい。
小川 病院の近隣に在る法人所有の職員用マンションに保育所を併設しており、病後児保育にも対応しています。一般の保育所を利用出来ない時でも、安心して子供を預けられる様にしています。回復期の一時預かり等、柔軟な対応を進めて職員の働き易さに配慮しています。
——出産を控えた女性や、育児をしながら働く人には悩みも多いと思います。
小川 心理士が常駐してカウンセリングを行う「心のケアルーム」を運営しています。これとは別に、年間約40名採用する新卒スタッフのメンタルヘルスケアも行っています。ハラスメントの通報も、2次元コードで直ぐに窓口にアクセス出来る様にしました。通常のコミュニケーションでも、コロナ禍を経て職場毎の宴会等は減りましたが、年に1度、研究成果等を発表する「学術大会」を開き、終了後に懇親会を行っています。互いに顔を合わせる機会を作り、相談し合える人間関係を築く事も大切だと思っています。
——配属や働き方の柔軟性についてはいかがですか。
小川 法人内には当院の様な急性期病院以外にもクリニックや介護施設等が有り、希望すれば育休明け等に異動する事も可能です。但し、実際には「慣れた職場で働き続けたい」という声が多く、環境を変えずに継続する人が大半です。何れにしても、法人全体を包括する「きつこう会ヘルスケアシステム(KHS)」の下で、職員がライフステージに応じて働き方を選択出来る仕組みを整えています。
——休暇制度もユニークな取り組みをされていますね。
小川 看護部では看護師がゆとりを持って働ける様に、「プラチナ休暇」を設けています。これはシフトと有給休暇を組み合わせ、新卒も含め、各職場で協力し合って調整し、最大で連続9日間の休暇を取得出来るというものです。管理職の場合も休暇を取れる様に、ペア病棟の管理者との協力体制を整えています。この制度により、リフレッシュしたりキャリアアップに向けた勉強の時間を作ったりする事が出来ますし、有給休暇の消化も進んでいます。
——教育やキャリア形成への支援についてもお聞かせ下さい。
小川 医師・看護師・薬剤師等、全ての職員を対象に、年間7万円を上限に研修や学会参加の費用を補助しています。上限に達する迄、1年間に何度も利用出来る為、法人全体で年間延べ約1000名が利用しており、学びの文化が根付いています。又、認定看護師や専門看護師による院内研修コースを設け、専門的な学びで様々な資格取得を目指せる体制を整えています。認定看護師資格や特定看護師を目指す人も安心して勉学に取り組める様、サポートをしています。
——自分から勉強するというモチベーションにも繋がる取り組みですね。
小川 職員が資格を取得した際には、難易度に応じて5000円から2万円迄の報奨金を支給しています。又、学会で発表をした際には「発表賞」として報奨金を支給している他、論文が掲載された際には、更にプラスαの報奨金を支給しています。医師だけでなく全職員が対象で、年間延べ160名程の支給実績が有ります。元々「大学に頼らず、病院独自に医師を育てていこう」という考えから生まれた制度で、既に20年ほど続いています。
——今後に向けて、重点的に取り組みたいテーマについてお聞かせ下さい。
小川 女性医師をもっと増やし、長く活躍していける環境を整えたいと考えています。現在当院に在籍する約120名の医師の内、約100名を男性が占めています。その為、今後は採用から定着・キャリア継続迄を一貫して支える仕組み作りが必要です。こうした問題意識から、院内の女性医師を講師に招き「女性の働き方」をテーマに勉強会を開催しました。月経、妊娠・出産、更年期等、女性には男性とは異なる身体的・心理的な負担が在る事を共有し、先ずはその前提を理解する事が重要だと学びました。男女を問わず相互の立場を理解し、制度面の他、心理的な支援も含めて支え合える職場を作っていきたいと考えています。一方で、職員の働き易さや効率化ばかりを追い求めると、患者さんへの温かみや思いやりが損なわれる懸念も有ります。患者さんにとって心の通う医療こそ本質であり、この視点を決して見失わない事が大切です。働き易さの向上と患者満足の維持を如何に両立していくかを軸に、今後も病院全体で取り組みを進めていきたいと考えています。
Voice
男女が協力し、働き易い職場環境の実現と人材育成を目指す

看護の現場は女性が多い職場ですから、出産や育児と仕事を両立出来る様、働き易い環境作りを継続しています。尤も、ワーク・ライフ・バランスの尊重は女性看護師に限られるものではなく、男女を問わず、全ての職員にとっても不可欠です。
近年は男性も配偶者の出産に合わせて産休・育休を取得するのが一般的になり、当院でも男性の育休取得率は100%に達しています。他方で、男性にも産後うつを含む心理的負担が生じるケースが話題になる事が有ります。子育てと仕事の両立に悩むのは男女共通の課題です。女性と同様に、男性にも特有の課題が有りますから、そうしたニーズにも応える支援をきめ細かく整える事が重要だと考えます。共働きの職員が多い実情を踏まえ、男女を問わず、家庭や個人の生活を守りながら働き続けられる職場作りを目指します。
看護部長としての課題は人材育成です。私達の病院は、職場環境も整備され、制度や教育も一定の水準にある一方で、所謂「隣の芝生」が青く見えてしまうのか、どうしても離職が発生してしまう現実が有ります。背景には、若い世代の価値観や優先順位を管理職が十分に汲み取れていない可能性も否めません。そこで、管理職向けの研修を通じて世代理解とコミュニケーションの質を高め、誰もが力を発揮出来るチーム運営へと繋げていきたいと考えています。制度の充実と現場の対話を両輪に、世代を超えて働き易い職場作りを着実に前進させていきたいと考えています。



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