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未来の会

自民・維新の連立協議で暗躍した元医系技官

自民・維新の連立協議で暗躍した元医系技官

「連立政権合意書」は日本医師会の反発必至

維新の阿部圭史衆院議員

自民党の高市早苗総裁が首相に指名され、公明党が自公連立政権を離脱し、日本維新の会が加わる等、10月の政局は目まぐるしく動いた。新たに誕生した自民と維新による連立政権の礎となるのが、両党で交わした「連立政権合意書」だ。維新は夏の参院選で社会保険料を減らし、手取りを増やす事を訴えた通り、合意書に記載された社会保障政策の項目は他よりも厚めだ。

 合意書作成には、或る元医系技官が大きく関与していた。今後の社会保障改革のキーマンとなるかもしれない人物だ。

 先ずは両党幹部が作成した合意書の中身を紹介したい。維新の一丁目一番地と言われるだけに社会保障政策は2番目に記載されている。中身は大きく4つに分かれる。

 維新の社会保障改革で真っ先に思い浮かぶのが「OTC類似薬」の自己負担の見直しだろう。金融所得の反映や応能負担の徹底等、通常国会で締結した所謂「医療法に関する3党合意書」及び「骨太方針に関する3党合意書」に記載されている医療制度改革の具体的な制度設計を今年度中に実現する事を最初に求めている。

 その上で、社会保障改革に関する両党による協議体を設置し、定期的に開催し、社会保障改革の進捗状況を確認したい考えだ。人選は既に固まっており、自民側のトップは田村憲久元厚生労働大臣で、他に後藤茂之元厚労大臣、鬼木誠厚労部会長、勝目康前内閣府大臣政務官。維新側は梅村聡税調会長がトップで、後は岩谷良平前幹事長、阿部圭史衆院議員だ。

 強烈なのが、個別の項目での改革を求めている箇所だ。来年度中に具体的な制度設計を求め、順次実行する事を求めているが、日本医師会が反発しそうな内容がてんこ盛りだ。

13項目に及ぶ社会保障改革

 13項目の最初に記されているのは「保険財政健全化策推進」だ。「インフレ下での医療給付費の在り方と、現役世代の保険料負担抑制との整合性を図るための制度的対応」を求めている。医療版マクロ経済スライドの様な考え方を導入し、医療費の伸びや物価高騰に対応したい考えだという。

 その次に来るのが、「医療介護分野における保険者の権限および機能の強化並びに都道府県の役割強化」だ。更に具体的に書かれており、「①保険者の再編統合、②医療介護保険システムの全国統合プラットフォームの構築、③介護保険サービスにかかる基盤整備の責任主体を都道府県とするなど」と明記した。保険者の財政基盤など機能強化が狙いだ。

 議論を呼びそうなのが、中央社会保険医療協議会(中医協)の改革だ。「病院機能の強化、創薬機能の強化、患者の声の反映およびデータに基づく制度設計を実現するため」との狙いを明かしている。維新側は「中医協の構成が旧態依然とした形となっており、本当に必要な医療機能に基づいていない」と指摘している。中医協改革は度々議論の俎上に載せられ、嘗ては民主党政権下で診療側委員の配分を変えた事も有った。今回も委員の構成等が議題に上がるかも知れない。

 既に取り組んでいるのが、「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」だ。年末の予算編成に向け、厚労省は所得の有る高齢者(70〜74歳)の窓口負担を増やす見直しに着手している。これは維新の合意書に寄らず、以前から省内で検討されていたものだ。

 5番目が「年齢にかかわらず働き続けることが可能な社会を実現するための『高齢者』の定義見直し」だ。65〜69歳の就業率は2021年に50%を超えており、年々増加している。65歳以上を高齢者とする定義の見直しを求める声は一定程度有る。定義を見直せば、年金や医療など各種の社会保険制度に影響を与える可能性が有る。

 更に、「人口減少下でも地方の医療介護サービスが持続的に提供されるための制度設計」「国民皆保険制度の中核を守るための公的保険の在り方および民間保険の活用に関する検討」と続く。後者は超高額な医薬品については民間保険で保障する可能性に言及するもので、やや中長期的な視野に立った改革案だと言える。

 8番目が「大学病院機能の強化」で、「教育、研究および臨床を行う医療従事者として適切な給与体系の構築など」で、9番目は「高度機能医療を担う病院の経営安定化と従業者の処遇改善」に取り組むとし、「診療報酬体系の抜本的見直し」を謳う。大学病院や高度機能医療を担う病院への支援を厚くする一方で、明示的ではないが診療所の様な中小の医療機関に対する補助等を細らせる考えだろう。

 10番目は「配偶者の社会保険加入率上昇および生涯非婚率上昇などをも踏まえた第3号被保険者制度などの見直し」を挙げ、公的年金制度で主婦優遇等と批判される第3号被保険者制度を変える様求めた。

 そして、「医療の費用対効果分析にかかる指標の確立」「医療機関の収益構造の増強および経営の安定化を図るための医療機関の営利事業の在り方の見直し」「医療機関における高度医療機器および設備の更新などにかかる現在の消費税負担の在り方の見直し」にも触れている。医療機関にも営利的な観点を持ち込んだり、医療サービスに転嫁出来ない消費税の問題を検討したりする趣旨が盛り込まれているという。

 社会保障改革の個別項目として記されているのは以上で、最後に「昨今の物価高騰に伴う病院および介護施設の厳しい経営状況に鑑み、病院および介護施設の経営状況を好転させるための施策を実行する」と明記している。これは既に高市首相が表明している新たな経済対策での病院向け補助を指していると見られる。

合意書作成に尽力した阿部氏の華麗な経歴

両党幹部が作成した合意書作成に尽力したのが、社会保障の協議体にも加わる維新の阿部氏だ。1986年生まれで現在39歳の阿部氏の経歴は多彩だ。宮城県生まれ・岡山県育ちで北海道大学医学部を2011年に卒業し、国立国際医療研究センターで初期研修し、13年に厚労省に入省した。保険局医療課に勤務した後、16年からジョージタウン大に留学し、国際政治や安全保障を学んだ。19年からの2年間は世界保健機関(WHO)に従事し、テドロス事務局長の下、新型コロナウイルスのパンデミック対応に当たった。コンサル大手のマッキンゼーや政策支援・シンクタンク等の事業を展開する青山社中にも在籍した。

 華麗な経歴を引っ提げ、24年10月の衆院選で兵庫2区から出馬。公明党の赤羽一嘉元国土交通大臣に敗れたものの、比例復活で初当選を果たした。維新では国会議員団代表幹事長室室長に就任し、当選1回生ながら維新の政策を支える立場となっている。阿部氏をよく知る厚労省関係者は「元々政治家志望だった様だ。厚労省に入省したのも行政を経験する為と見られ、当時からWHOでの勤務を希望していたらしい。戦略的にキャリアを積み重ねている印象だ」と明かす。別の関係者は「非常に勉強家。安全保障にも詳しく、保守思想を持つ気骨の有る人物だ」と評す。厚労省時代に、「保健医療2035」の作成にも携わっていた様で、社会保障制度の改革志向は随分前から窺える。

 所属する政党として維新を選んだのも戦略的かも知れない。或る大手紙の記者は維新は首相補佐官に就任した遠藤敬国対委員長など政党間の交渉事は上手いが、細かい政策に弱い印象が有る。昔から、離党した国民民主党の足立康史参院議員や丸山穂高元衆院議員等、政策に明るい元官僚出身者に政策立案を丸投げする傾向が有る。阿部氏はこうした政党の特性を把握していたのかも知れないと指摘する。

 実際に衆院議員バッジを付けて1年足らずで連立政権の合意書作成に携わるポジションに迄登り詰めている。今後、年末に向けて進む社会保障改革で、阿部氏は新たなキーマンになるかも知れない。

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