
「害のない薬剤はない」などと言われ、あたかも薬剤による害は避けられない、との風潮さえある。しかし、いったいどの程度の人が害反応で命を落としているのか。薬のチェック誌でレビューした1)。概略を紹介する。
高齢者で害反応による入院頻度が高い
害反応による死亡の規模に関する研究は日本にはないが、1960年代から最近に至るまで、特に米国で多数調査され、システマティックレビュー(SR)もいくつか実施されている。調査では、入院するような重症例と入院中の重篤な害反応を求め、そのうえで死亡がどの程度起こったかを推定している。
66〜96年に公表された39件の調査を扱ったSR2)では、害反応が原因で入院した人と入院中に重篤な害反応を起こした人を合わせると、入院患者中の6.7%に上った。2012〜21年に公表された17件の調査のSRでは平均8.3%であった3)。小児の45件の調査のSRでは平均3%程度と報告されている。一方、高齢者に関する03〜13年に発表された14件の調査のSRによると、重篤な害反応は入院患者の平均11%(5.8%〜46%)と高い。
かなりの害反応が防止可能であった
これら過量使用や不適切例などを除いた結果でも、半数近く(45%)は防止しうるが、過量や不適切例も含むと、入院中13.9%の重篤害反応の71%は防止可能であったと評価している3)。
害反応死は死因の5〜7位に相当
米国調査1)では、全入院患者中、害反応死は0.32%となり、1994年の米国全入院患者約3300万人に当てはめると、重篤な害反応患者が222万人、死亡者が10.6万人と推定され、米国における死因の4〜6位に相当した1)。
仮に、この数値を日本の94年の人口に換算すると、重篤な害反応が105万人、死亡者数は5万人と推計でき、当時の死因5位の「不慮の事故死」3.6万人よりも多い。高齢化が進んだ2023年の死因で見ると「不慮の事故死」は4.4万人(7位)で、これよりも多い。
米国の調査1)では、過量使用や不適切処方による害反応、あるいは、薬剤性のがんなど慢性疾患による死亡は除かれている。そうした害も考慮に入れるとさらに大きな規模になると考えられる。
07年に発表されたデータでは、ある地域の死亡者1574人中3.1%、入院患者では639人中6.4%が薬剤の害反応死と考えられた。これは、米国における死亡者中に占める害反応死の割合1)とほぼ同程度であり、また日本の22年の死亡者数157万人中5万人(3.1%)ともほぼ一致する。
害反応がもたらす医療費は膨大
害反応による入院が高齢者では10%を超え、死亡者数が死因の5〜7位相当は何を意味するか。命は金銭に置き換えられないが、害反応の治療に要する費用を見てみよう。
米国全体で害反応による入院に要する費用は平均で766億ドル(8兆円)と試算された。日本の国民1人当たりの医療費は米国の約2分の1、1990年代では人口も約2分の1なので米国の費用の4分の1相当として計算すると、平均2兆円。これは1995年の日本の国民医療費総額27兆円の約7%、総薬剤費7.3兆円の約27%に相当する。
害反応の防止は医療者の責務
予防しうる薬剤の害が起こらないようにして、無駄な入院、患者が無駄に命を落とさないようにすることは、医療者の重要な責務である。
参考文献
1)薬のチェック2025: 25(121): 108-109.
2)Lazarou J et al. JAMA. 1998;279: l200-1205.
3)Haerdtlein A et al. J Clin Med. 202;12(4):1320.


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