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日本はAI医療機器に後れ

日本はAI医療機器に後れ
骨太の方針に開発支援する方針を明記

今年6月に公表された政府の「骨太の方針」に、AI(人工知能)を用いた医療機器の「拡充」が記載された。AI医療機器は医療の診断を手助けし、働き方改革や人手不足の解消に繋がると期待されている。今後は普及に向けて、民間だけでなく国を挙げての取り組みが求められる。

 「骨太の方針」とは、政府が毎年6月頃に閣議決定する「経済財政運営と改革の基本方針」を指す。翌年度の予算編成など政権の重要課題の方向性が記される。大体4〜5月頃から叩き台の作成が始まり、各省庁は実現したい政策を纏めた「短冊」と呼ばれる文書を作成する。それを取り纏め役である内閣府に提出し、首相官邸や与党との調整を経て、骨太の方針が纏められる。予算編成に向けた基本姿勢や政府が力を入れたい政策の方向性が示される為、予算に関わる利害関係者はその記述の内容に注目している。

 今年度の骨太の方針に記載されていたのは以下の様な文言だ。その中でも〝AI医療機器〟と同義語とも言える創薬力とイノベーション関連で出てくる〝プログラム医療機器〟という言葉に注目して頂きたい。先ず、「政府全体の司令塔機能の強化を図りつつ、医薬品業界の構造改革を進めるとともに、『健康・医療戦略』に基づき、創薬エコシステムの発展やヘルスケア市場の拡大、創薬力の基盤強化に向け、一体的に政策を実現する。新規ファースト・イン・ヒューマン試験実施施設など、国際水準の治験・臨床試験実施体制を整備する。MEDISO・CARISOの体制を強化し、ヘルスケアスタートアップを強力に支援するほか、革新的医薬品等実用化支援基金の対象を拡充することを検討し、創薬シーズの実用化を支援する」 と強調する。

 その上で「国民負担の軽減と創薬イノベーションを両立する薬価上の適切な評価の実施、承認審査・相談体制の強化、バイオ医薬品を含む医薬品の製造体制の整備や人材育成・確保により、国際水準の研究開発環境を実現し、ドラッグラグ/ロスの解消やプログラム医療機器への対応を進めるほか、PMDAの海外拠点を活用し、薬事相談・規制調和を推進する」 と記載。更に「大学、ナショナルセンターと医療機関が連携して担う実証基盤を整備するなど産業振興拠点機能及び開発後期や海外展開に向けた研究開発支援を強化し、治療機器やプログラム医療機器を始めとした日本発の医療機器の創出を促進する」 と示した。今回の骨太の方針からは医療画像データの流通やAI医療機器への開発支援等に触れたと読み取る事が出来そうだ。

画像診断の分野では優位

 AI医療機器は診断支援や治療計画立案、医薬品開発等の領域での活用が期待されているが、日本では画像診断の分野で先行しているのが特徴だ。これは人口100万人当たりのMRIやCT等の設置数が世界で最も多く、撮影された画像データも豊富にある。内視鏡やX線検査画像を基に診断を支援するソフトウエア等がこれに当たる。また、AI医療機器の開発に応用出来る画像も潜在的に多いとされている。

 骨太の方針への記載を後押ししたのが、国会議員らで作る「AI医療機器議員懇話会」の存在だ。加藤勝信財務相や自見はなこ前内閣府特命担当大臣らが参加し、現状をヒアリングする為、国会周辺で何度か会合を開いている。『日刊工業新聞』等幾つかの報道によれば、加藤氏は会合で「AI医療機器を通じて、医師不足や経験を補う効用が期待出来る。持続可能な保険制度に向けての大きな一歩であり、欠かす事の出来ない重要な技術の1つだ」との認識を示したとされる。

 医療AIは2030年には世界で約32兆円規模の市場になる成長分野として期待されている。AI医療機器の承認数は米国で1000を超えており、中国や韓国でも増加続けているという。AI医療機器のユニコーン企業も誕生しており、米国では「Viz. ai」(企業評価額1800億円)、「HeartFlow」(同2300億円)等が台頭し、韓国でも「Lunit」(同2200億円)が、アイルランドの「Cosmo」(1900億円)も勢いが有る。しかも、企業評価額が100億ドル以上の未上場企業「デカコーンプラットフォーマー」も既に存在しており、米国の「Tempus AI」(同1・5兆円)や「Devoted」(同1・9兆円)、中国の「微医」(同推定1・6兆円)が有名だ。米国では投資が活発で、韓国も国策としてAI医療機器の開発や普及を進めているのが背景に有ると見られる。一方、日本ではAI医療機器産業が育っているとは言えない状況だ。漸く投資先として目が向け始められたが、AI医療機器の承認数は30程度と100にも満たないうえに、ユニコーン企業は育っていない。ましてやデカコーンの育成には程遠い状況だ。

産官学連携のAI医療協議会が発足

こうした状況を打破する為に「AI医療機器協議会」は要望書を纏めている。AI医療機器の上市へのプロセスには、開発、臨床試験エビデンス、事業展開・保険適用、グローバル展開など市場拡大へのフェーズが有るが、開発後期への支援と、保険適用を含めた社会実装への投資が必要と分析。特に開発と臨床試験エビデンスには10億円以上、事業展開や市場拡大には数百億円規模の資金が必要とされる。その上で、①開発後期又は上市後のエビデンス創出やAI医療機器の保険収載を含む導入促進に向けた財政支援の大幅拡充、②大学・NC等が医療機関と連携して担う産業振興拠点におけるワンストップ実証基盤の整備、③迅速なバージョンアップ、学習・評価データの活用等、SaMDの特性を踏まえた各種制度の運用、④24年度の診療報酬改定で新たに設けられた評価療養や選定療養の仕組みの周知、⑤AI医療機器開発の基盤となるデータプラットフォームの構築を要望項目として纏めている。こうした中で、骨太の方針に先述の様な記載が盛り込まれ、関係者は「政府の支援拡充への一歩としたい」と歓迎する。

AI医療の診療報酬は低い

 年末の予算編成では診療報酬改定が控える。AI医療機器の普及の壁となっているのが診療報酬上の加算が付かない点だ。市場への導入が進まず、効果に対するエビデンスの蓄積が進まない。国内で効果を実証しなければならないが、導入している医療機関等が少ない為、効果的なサイクルになっていない。

 AI医療機器を使っても、加算に乏しければ、医療機関が導入する経済的なメリットが少なく普及は進まない。

 診療報酬の点数で言えば、喉の画像や体温等からインフルエンザウイルス感染症に罹っているかの検査を支援する「nodoca」を使った検査の点数は1回305点。昨年の改定では、大腸の病変を検出して切除を支援する大腸内視鏡AIに点数が付いたものの、僅か60点に過ぎない。健康管理等の為に療養に係る指導管理に対し、「プログラム医療機器等指導管理料(90点)」等も新設されたが、十分とは言い難い。海外のAI医療機器メーカーに後れを取る中、日本も今後増々成長していくグローバル市場を見据え、国内のスタートアップ企業を育成し、国際競争力を付けていく視点を持つ必要が有る。政府や民間企業だけでなく、現場の医師や日本医師会など幅広いステークホルダーの認識の一致が求められる。先ずは、年末の予算編成での対応が注目される。世界から取り残されて周回遅れにならない為にも、今やれる事をやるべきだ。

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