
自治体サービスの一本化で「60秒以内の手続き完了」を目指す
「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」の一部を改正する法律、所謂「ガバメントクラウド推進法」が2025(令和7)年3月に施行された。政府情報システム運用コストは13年から21年の間に29%に当たる1152億円が削減されている。その間、自治体でのクラウド導入は1400団体に上っている。国の行政機関と自治体のクラウドサービスを一本化する事で更なる運用コストの削減に繋がる事が見込まれる。人口減少傾向が露になり行政分野に於いても業務の効率化が求められる。ガバメントクラウドの活用はリソースの共有や行政のスマート化に与するものと言える。
情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律は平成14年に成立し、「情報通信技術の効率的な活用を行政機関の情報システムで実施する」としていたところ、新たに「クラウド・コンピューティング・サービスの適切かつ効果的な活用により公共情報システムの整備等を推進する」との内容を盛り込んだ。これ迄も行政はクラウドサービスを活用してきているが、24年度迄は自治体のガバメントクラウドの利用は国の検証事業としての扱いであり、国がガバメントクラウド利用料を負担していた。ガバメントクラウド推進法の施行によって自治体等の利用料については各利用団体が負担する事となる。大口割引を活かす為に、国が各利用団体から利用料を預かり一括して各クラウドサービス事業者に支払う。国の行政機関等は、公共情報システムの整備を行おうとする時は、効果的且つ効率的な整備及び運用その他の観点から整備されたガバメントクラウドを利用する事について検討を行い、その結果に基づいて公共情報システムの整備を行わなければならない事が定められた。要するに、国の整備したガバメントクラウドを国以外の機関も共有し一本化していく事になる。
デジタル植民地を打開 国産クラウドを初選定
国が契約するクラウドサービスの事業者は1つではない。既に選定・利用されている事業者は21年からAmazon Web ServicesとGoogle、22年からMicrosoftとOracleである。現状に即して米国によるデジタル植民地だと言われてきた。23年に初めて日本企業であるさくらインターネットが選ばれた。但し、25年度末迄に120にも上る課題をクリアする事を条件とされている。さくらインターネットは24年9月末に13の課題をクリアしておりデジタル庁の認識では順調に進んでいるという見解である。友好国とはいえ、米国の事業者に国や自治体が持つ重要情報や国民の個人情報の保管サービスを偏に頼るのは心許ない。さくらインターネットの参入は国内企業である事から歓迎されている。一方、既にサービスを提供している4社と比較してさくらインターネットは企業規模が格段に小さい。その分、ガバメントクラウドに関するプロジェクトの予算も少ない。
ガバメントクラウドには高度なセキュリティ要件をクリアする必要が有る。その安全性を評価するのがISMAP(Information system Security Management and Assessment Program)である。ISMAPは国際標準等を踏まえて策定された厳格なセキュリティ基準で、監査機関によって各基準を満たしていると評価されたクラウドサービスを、ISMAPクラウドサービスリストに登録する制度である。ISMAPのリスト掲載を選定条件とする事で、政府によるセキュリティ評価の作業が軽減され信頼性も確保出来る。さくらインターネットはISMAPに登録されておりセキュリティに関しては政府基準を満たしている。
スケールメリットや実績で、さくらインターネットが他社に先んじる事は不可能であるが、さくらインターネットのクラウドサービスは自社開発、自社運営、複数分散拠点という利点を有している。何より日本企業であるというメリットは大きい。政治的なリスク、為替的なリスクを回避出来る。米国の巨大企業によるガバメントクラウドサービスの提供は正しく黒船であるが、さくらインターネットも昨年は過去最高益を出している成長企業である。又、NTTやKDDIに比べてさくらインターネットは独立性が高い。ソフトバンクや楽天が独自の経済圏を形成する迄に短期間で成長した様に、さくらインターネットも独自性を出して旧態依然とした業界を進化させながら発展する事が期待されている。
近年ではデータ主権という概念が有る。データ主権とは国家が自国のデータに対して持つ権利や、データがどこで収集保存されるかに関しての規制を含む管理能力を指す。データを収集、処理、保存する特定の地域や国のプライバシー法に準拠する際に役立つクラウドの一種である主権クラウドと呼ばれる概念の重要な要素である。データ主権という概念に於いてもさくらインターネットへの国や自治体の需要は増していくものと思われる。今後のさくらインターネットの行方を注視していきたい。
クラウド統合による自治体システムのスマート化
ガバメントクラウドへの移行によってシステムは共有化される。共有化されるシステムは自治体にとって基幹的な業務である。住民基本台帳、選挙人名簿管理、国民年金、戸籍、戸籍の附票、固定資産税、個人住民税、法人住民税、軽自動車税、子ども・子育て支援、就学、児童手当、児童扶養手当、国民健康保険、障害者福祉、後期高齢者医療、介護保険、健康管理、生活保護、印鑑登録等である。国は「60秒以内の手続き完了」という目標を掲げており、自治体システムの標準化が急がれる。
自治体がガバメントクラウドに移行するメリットは、①サーバー等の利用コストを削減出来る、②情報システムの迅速な構築と柔軟な拡張が可能になる、③庁内外のデータ連携が容易になる、④最新のセキュリティ対策を導入出来る、という4つである。
物理的なサーバーを用意するコストが無くなる事は大きい。サーバーを持たずに業者によるクラウドサービスに移行する事でリソースの変更が容易になりロスを削減出来る。システム開発が容易になり開発期間が短縮出来る事で自治体の行政サービスは向上する筈である。又、データの様式や連携の方法を標準化する事で自治体同士の連携も容易になる。自治体が個別に行っていたセキュリティ対策も必要が無くなりセキュリティ情報の更新はクラウドサービス業者が負う。
デメリットは多くない。移行するシステムの互換性を確認しなければならない事、国が支払っていた利用料を25年度からは各自治体が従量制で負担する事になる事、移行する際には一時的に職員の業務負担が増す事である。
EU、英国、米国、韓国もガバメントクラウドを既に導入している。EUは30年迄に主要行政サービスを100%オンライン化する為の取り組みを加盟国が並行して行っている。英国は12年から政府ポータルサイト「GOV.UK」を運用開始し、各種手続きや納税をオンライン化した。米国は00年から「USAGov」サイトを活用し社会保障番号(SSN)を利用して全ての行政サービスを行っている。給付はSSNに基づいて一元的に管理されておりほとんどの国民が手続き不要で受け取れる。韓国は10年に「政府24」というポータルサイトを立ち上げ住民登録番号で認証し各種行政手続きを行える様にしている。コロナ禍での給付金の支給は1カ月以内に対象者の97%分を完了した。韓国はオールデジタル・ゼロストップの実現に向け取り組んでいる。人口減少社会においては国と地方が協力して、地域格差の拡大に注意しつつ、デジタル技術を最大限、効率的・効果的に活用する事が必須であろう。やれば、出来る。
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