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不登校は親の責任?

不登校は親の責任?

国も本腰 「全ての子供に学びの場を」

「文部科学省がフリースクールの存在を認めてしまった事に愕然としている」

 滋賀県東近江市の小椋正清・市長(72歳)が、滋賀県首長会議で述べた発言が炎上した。自治体がフリースクールと連携して不登校対策を取る事等を求めた文科省の施策を、「国家の根幹を崩してしまう事になり兼ねないくらいの危機感」と表現。会議後の報道陣とのやり取りで「フリースクールは親の安易性が露骨に出ている。(不登校になるのは)殆どが親の責任」と迄述べ、案の定、激しい批判を浴びる事となった。

 ただ、現実問題として、学校に通えない所謂「不登校」の児童・生徒は増え続けている。学校という枠からこぼれ落ちる子供達をどう掬い上げ、教育の機会を与えるか。フリースクールや親を批判する前に、行政がやらなければならない事は沢山有る。

 文科省が10月に公表した調査によると、不登校の小中学生は2022年度に29万9048人となり、6年連続で過去最多を更新した。内訳は小学生が10万5112人、中学生が19万3936人で、小中学生全体に於ける不登校の割合は3%を超える。子供の数が年々少なくなる中、不登校の子供は21年度に前年度比25%増、22年度は前年度比22%増と異例のペースで増加しているのだ。

 「1つには新型コロナの影響が大きいと思います」と分析するのは東京都内の教育カウンセラーだ。「これ迄と異なる学校生活で、体育祭や学園祭等のイベントは無くなり、会話や一緒に遊ぶ機会も減った。仲の良い友人を作るのが難しくなった上、マスク着用等の学校生活上の制限も多くなり、窮屈さを感じる子供や学校に馴染めない子供が増えたのだと思う」。確かに、不登校の子供の数は、初の緊急事態宣言が出て本格的にコロナ禍となった20年度以降、急速に増えている。学校(集団生活)で感染するのではないかという恐れが広がった事や、「学校に行かないで自宅でオンライン学習する」等の選択肢が出来た事、家庭で生活リズムが崩れた事により、学校に戻れなくなった子供が出ている可能性は有る。只、教育担当の全国紙記者は「コロナ禍になる前から、不登校の小中学生の数は右肩上がりだった。コロナ禍は関係無く、トレンドとして増加している」と指摘する。

文科省による緊急対策 

 こうした事態に国も本腰を入れて、不登校対策に乗り出している。その1つが文科省が3月末にまとめた「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策(COCOLOプラン)」だ。学校に行けない子供達を校内外で指導する「教育支援センター」を充実させる事や、オンラインで受けた授業やテストを成績に反映させる事、1人1台の情報端末で心身の不調を把握し、早期支援に繋げる事等が盛り込まれている。その中で、自治体はフリースクールと連携して、学校外に多様な学びの場を整備する事も求めている。前出の記者は「一番重要な事は、不登校の子供達が何らかの支援を受けられているかだ。『誰一人取り残されない』というプランの名称には、そうした国の意志が込められている」と語る。

 では実際に、不登校の子供達は支援を受けられているのだろうか。文科省の同じ調査では、22年度の不登校の小中学生の内、学校内外の専門機関等で相談や指導を受けている子供の割合は61・8%。この内、指導要録上出席扱いとした児童生徒数が3万2623人居た他、自宅で行ったICT等を活用した学習活動を出席扱いとした児童生徒数も1万409人居た。一方で、38・2%に当たる11万4217人は、そうした支援を受けられていない事が分かった。

 「不登校の子供の急増に加え、4割近くが支援を受けていないというのは由々しき事態だ。文科省はこの調査の結果を受けて、10月17日に急遽、『不登校・いじめ緊急対策パッケージ』を取りまとめた」(同記者)。

 緊急対策は、教室とは別の場所で学習指導を実施する「校内教育支援センター」の設置を促進する事や、スクールカウンセラーの配置を充実させる事等、COCOLOプランの実施を前倒しする事が柱だ。文科省の調査では、小中学生の不登校だけでなく、小中高校・特別支援学校での22年度のいじめの認知件数も、68万1948件と過去最多となった。その為、重なる部分も多いいじめ対策と不登校対策を直ぐに始める事にした訳だ。そして、こうした子供達の受け皿の1つとなっていたのが、東近江市長に批判されたフリースクールなのである。

多様な教育機会の確保が重要

フリースクールとは、不登校の子供達が学習や体験活動を行う場所の事。その歴史は、不登校の歴史と重なる。「1970年代から80年代にかけて受験戦争が激化し、競争が激しい教育環境からこぼれる子供達が出て来た。その受け皿として生まれたのが民間のフリースクールと言われています」(前出の教育カウンセラー)。

 学校教育法や学習指導要領には依拠せず、小規模で自由な指導内容が特徴。又、NPO団体や企業等が運営する民間の施設である事から、地域に偏りも有る。「15年度の文科省の調査では、全国に474カ所のフリースクールが確認されている。子供達の行き場の1つであると同時に教育の場ともなっているが、経営は厳しい状況で、公的な支援を受けている所が多い」(同)と言う。

 フリースクールは不登校の子供達の孤立を防ぎ、安心して学べる環境を提供していると言えるが、「いじめが原因で学校に行けなくなり学習に付いて行けなくなる、といった多くの人が思い浮かべるケースだけでなく、様々な理由で、それこそ本人にも理由が分からず学校に行けなくなる子供も居る。学校に戻れれば良いが、そうでない子供もおり、ゴールを何処に置くのか、どの様な教育を行うのか、フリースクールで一律の対応を行うのは難しい」(同)。それでも、こうした施設に通う事を「登校」と扱える様になれば、学校と施設の連携が進み、子供が抱える問題や課題を共有する事が出来る。文科省の狙いもそこに有る。

 「それなのに、そうした流れに逆行するかの様な東近江市長の発言には、怒りを通り越して呆れすら感じます」と関東地方の元教員は憤る。「家庭であれフリースクールであれ、子供達が安心して学べる環境が必要。子供達の教育を受ける権利を、大人は全力で守らないといけないんです」

 発言への波紋が広がった事から、東近江市長は発言の翌日、改めて報道各社の質問に答えた。だが、配慮不足を認めて釈明したものの、発言そのものを撤回する事は無かった。地元のフリースクールの支援団体は、市長に発言の撤回を求めると共に、滋賀県庁にも意見書を提出した。「不登校の大半は親の責任でも子供の我儘でもない」と市長の発言を批判した。盛山正仁・文部科学大臣も「私達としては望ましい発言とは当然考えていない」との見解を示している。何とも恥ずかしい市長が居たものだ。

 前出の教育カウンセラーは、市長の発言を「意味が無い」と切って捨てる。「個々の子供達と向き合う中で、どうして学校に行けなくなったのか、どうすれば通える様になるのか、原因を探る事は大事だ。しかし、仮に親に責任が有ったとしても、子供が我儘だったとしても、学校に通えないという事実が有る以上、どうやってその子供に教育を受ける環境を与えるかを考えるべきだ」

 一方で、こうした見方も有る。「東近江市長に限らず、フリースクールに対する世間のネガティブな見方は根強い。今回の発言が注目された事で、フリースクールが必要な存在である事が伝わり、現在は玉石混交の教育や指導内容もより収斂されて行って欲しい」(自治体関係者)。

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