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未来の会

日本の医療について:生産の視点から考える③

日本の医療について:生産の視点から考える③
専門家の役割

 時が流れても、病院は病気を治すところであり続けるだろう。しかし人の役割は変わるし、変わりえる。ここでしばらく、医師を中心にして専門家について考察してみたい。本連載の視点は、専門家の生産性がどうあるべきかという視点になる。

 医師、会計士、教師(教授)などは専門家であるとよく言われる。しかし他にもコンサルタントとか医療職種、介護職種、教師、建築士など専門職とされる職種は多い。専門職に就く人が専門家だとすれば専門家も多いわけで、何をもって専門家と言うのであろうか。

 厳密に定義するのは難しいが、『プロフェッショナルの未来〜AI、IoT時代に専門家が生き残る方法』(リチャード・サスカインド、ダニエル・サスカインド著)によれば、専門家を4つの類似性を持つ職種として定義している。

 1つ目は、専門知識を有していること、2つ目は何らかの資格に基づいていること、3つ目は活動に関する規制があること、4つ目は共通の価値観により縛られていること、である。この定義でいえば、コンサルタントのみならず宗教家やジャーナリストも専門家にあたるとされている。

 もちろん医師を中心とした医療職は、この専門家にあたる。現在の医療においては医師だけが医療を提供する状況にはなく、チーム医療が求められている。実はこれも専門家の中の専門家でもある医師が変化を遂げなければならない点ではあるのだが、弁護士なども含め他の専門職にも同じようにチームで顧客に向き合うことが求められている。

専門家の優越

 専門家は、世界において知識の管理活用を任された「門番」のような存在であった。少なくとも今までは、専門家はその役割を果たすことにおいて特権的な地位を与えられてきている。特に弁護士、会計士、医師といった専門家の中の専門家には、それが特徴的に表れている。したがって、業務の効率とか生産性とは、縁遠い立場であったし、専門家の立場としても、そういった視点を意識してこなかった。

 例えば、英国において、かかりつけ医はまさに門番(ゲートキーパー)であるとされる。その他の国でも図のように、日本とは様子が異なっている。

 特に、診療報酬の制度が日本のような患者を多く見れば、収入が増えるというよりも、かかりつけ医の登録制や収入が固定的であるといった、まさに「門番」的な役割を担っている。より、ここでいう専門家的な位置付けと言えよう。

専門家が提供するサービスの特徴

 例えば、専門家において、医師もそうだが、排他的な立場で一般の人にサービスを提供することができる特徴がある場合がある。そしてこの特徴は、情報の非対称性に基づき顧客のために業務独占も法律で規定されていると説明される。しかしこのような情報の非対称性は、徐々にではあるがIT の進歩によって変わってきている。

 今までは、役割上の特権のみならず、立場についても優越があったこともある。

 例えば、江戸時代では「尾張藩の人見黍(弥右衛門)が、『医師は素より四民の内なれど、今は別の物なり。商人の外、医ほど利の多きものはなし』(『太平絵詞』)と記したように、医師に対しては通常の四民にはない特権が認められていた。例えば、『武家諸法度』によって上級武士以外に自由に乗ることが許されなかった駕籠の利用を僧侶と医師に関しては例外として認められていた。更に農民や商人の子弟でも医師のもとで医学を学び領主の許可を得れば開業が可能であり、その能力が優れていれば、幕府や藩に召し抱えられて下級武士並の待遇が与えられることも多くあった」(『診療報酬の歴史』、青柳精一著)という。

 今でも、教師、宗教家、医師は「聖職」としての名残が残っている。いきなりこれらの役割や優越がなくなるわけではないが、変化は起きそうである。

専門家の死

 医療ITに限ったことではないが、ITの利用は、大きくいって2つの場面で効果的である。1つは業務の効率化であり、もう1つは顧客との接点の円滑化である。

 業務の効率化も重要である。一般にはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション:仮想知的労働者)といった言葉で表されるが、病院をはじめとする医療機関にはITを使って効率化できる業務は多い。よく言われる医療情報の共有化、在庫管理、スマホなどを使っての患者情報などの入力、AIを使った問診、会計業務の省人化などなど。

 こういったことをすることで、従来、人が行っていた業務量がかなり削減される。そして、医療機関が年々忙しくなってきている状況において、こういった業務の効率化は、医療機関にとっても受け入れやすいものになってきている。

 しかし、対顧客である患者や生活者対応にITを入れることについては、既に本連載でも、オンライン診療という1つの面で考えてきたが、それだけでも専門家からはかなりの抵抗がある。それは、今から述べるように、IT化やそれに伴うAIの導入によって、少し大げさに言えば「専門家の死」もう少し厳密に言えば、「オーダーメイド専門家の死」が引き起こされるまでの変化が起きうる分野であるからだ。

 前述の『プロフェッショナルの未来』によれば、専門家サービスの存在の条件は、人々が抱く知識へのニーズであるという。それに答えるために、専門家は信頼や新しい知識を維持するための継続的なトレーニングを行っている。

 つまり、変化の多くは単に医療分野だけの変化だけではない。宗教家が専門家と言えるかどうかは議論があろうが、『中世の覚醒』(リチャード・E・ルーベンスタイン著)で記述されているように、合理的思考が復活した中世以後に、グーテンベルクの印刷術により聖書の言葉が一般の人々に広がり、宗教家の権威が落ちていったことと同じような動きが起きていると言ったら言い過ぎであろうか。

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