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未来の会

地域住民に必要とされる医療を目指して ~新時代の自治体病院を模索し改革を乗り切る~

地域住民に必要とされる医療を目指して ~新時代の自治体病院を模索し改革を乗り切る~
小熊 豊(おぐま・ゆたか)1950年北海道生まれ。75年北海道大学医学部卒業。北海道大学内科第一講座助手、富山医科薬科大学臨床検査医学講座助教授、帯広厚生病院第4内科部長を経て、96年砂川市立病院院長。2014年砂川市立病院事業管理者。18年砂川市立病院名誉院長。02年全国自治体病院協議会理事。05年同常務理事。10年同副会長。18年同会長。

日本の医療は自治体病院と民間病院が両立する事で成り立っている。地方で“最後の砦”として医療を提供する事も、都会の大病院で高度な専門医療を提供する事も、自治体病院に期待されている重要な仕事だ。ただ、地域医療構想の調整会議では再編統合を迫られ、働き方改革等の改革も進めなければならず、運営は難しさを増している。全国自治体病院協議会(全自病)の小熊豊会長に自治体病院の現在とこれからについて話を聞いた。


——会長に就任してから取り組んできた事は?

小熊 常に考えているのは自治体病院の存在意義です。我々自治体病院に何が期待されているのか、という事が重要な問題だと思っています。自治体病院といっても、20床余りの小さな病院から、1000床を超える大きな病院まで様々ですし、自治体の規模も様々です。会員病院の約3割は人口3万人以下の自治体にあり、6割5分くらいが人口10万人以下の自治体にあります。地方の小さな市町村の自治体病院が最後の砦として頑張っているのは認める、とよく言われます。それに対しては経済的支援もやむを得ない。でも、都会の自治体病院にはどんな存在意義があるんだ、と言われますね。地方と都会で分けて話をされます。

——都会の自治体病院の存在意義というと?

小熊 1つは民間病院ではやれないような高度専門医療をやりなさい、という事になっています。それから、救急、小児科、産婦人科、精神科等、財政的になかなか苦しい分野、いわゆる医療政策的な分野をやりなさい、医師の派遣機能や看護師の派遣機能を持ちなさい、とも言われています。その一方で、民間病院を経営的に圧迫しているという批判も受けます。民間病院がやらないような高度専門医療だけやれとか、救急、小児科、産婦人科だけやれと言われることもあります。しかし、それでは医療としてうまくいきません。よく山にたとえて説明するのですが、てっぺん部分の医療をやるためには、裾野部分の医療も必要なのです。てっぺんだけでは医療として成り立ちません。

——不採算領域をやってくれる病院も必要ですね。

小熊 地域医療構想の調整会議で、この分野は民間病院と自治体病院で競合しているから民間病院に渡してほしい、という話が出る事があります。しかし、自治体病院は永続性を重視していますが、民間病院にそれを期待出来るのか、という問題があります。儲からない領域からは手を引いてしまうのではないでしょうか。その点、我々に任せてもらえれば、赤字だからと手を引いてしまうような事はしません。ただ、赤字になるところだけやれと言われても、それは無理だということです。

医療提供の持続可能性が危ぶまれる状況

——自治体病院の経営はどのような状態ですか。

小熊 現在、加入している病院が約870あるのですが、その中で黒字の病院はごく一部です。昨年の医療経済実態調査でも、全体では13.2%の赤字というデータが出ています。ある程度の財政支援を受けていてそうなのですから、大変な状況です。年々、政府の医療に対する締め付けが厳しくなっていますからね。持続可能な医療提供体制を作る、社会保障体制を作る等と口では言っていますが、やっている事は正反対で、どんどん経営困難な状況を作り出しています。診療報酬は下げていますし、働き方改革等いろいろな改革が始まっています。そうした事により、持続可能性が危ぶまれる方向に進んでいるというのが現在の状況だと思います。

——民間病院に比べて赤字が大きいのは?

小熊 13.2%の赤字というのは、確かに我々が突出しています。医師の給与は民間病院も自治体病院もほぼ同じですが、それ以外の看護師、薬剤師、放射線技師等の医療スタッフや事務職員の給与は、平均すると年間100万円ほど自治体病院の方が高いというデータがあります。自治体病院の場合、給与は病院で決めているのではなく、地方自治体の条例で決まっているわけで、我々は勝手にいじることが出来ません。こうした人件費が、自治体病院の赤字の大きな原因になっています。自治体病院は収入に対する人件費の比率が55〜57%くらいです。それが民間病院だと50%くらいに抑えられているので、そこで差が出るのですね。

——自治体病院の給与が高過ぎるのですか。

小熊 看護師も薬剤師も他の技師の人達も、皆さん国家資格を持って命に関わる仕事をしているプロですよね。その人達に対する評価だと考えた場合、民間病院の給与が安過ぎるという考え方もあると思います。あるいは、自治体病院の給与が不当に高いのでしょうか。そういった議論があってもいいと思いますね。

「424ショック」への対応

——厚生労働省が「地域医療構想に関するワーキンググループ」で、再編統合について再検証を求める424の公立・公的病院を発表しました。大きな影響があったのでは?

小熊 実は私はそのワーキンググループに、公立・公的病院の代表として加わっていました。地域医療構想の調整会議において、今後の各地域の医療供給体制についてディスカッションしなさいという話になっていて、自治体病院の95%、公的病院の98%がもう会議を終えて、厚労省に報告書を出していました。ところが、その内容がこれまでを踏襲するとしたようなものが多く、あまり変わっていなかったわけです。それで、どうやって実質的なものにしていくか、ワーキンググループでずっと協議していたわけですが、骨太の方針でも具体的な基準を示し、病院名を挙げて公表するという事が決まっていたので、公表する事になったわけです。厚労省は、病床機能報告で「高度急性期」「急性期」の病床を有するとした病院を対象にして、急性期の中でも高度急性期寄りの指標を使って判定する事にしました。そんな事をしたら、急性期と報告している病院でも相当数が弾かれてしまう事は明らかでした。

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