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未来の会

院内医療事故調査・報告書作成マニュアルの必須ポイント

院内医療事故調査・報告書作成マニュアルの必須ポイント
1.経過整理は自ら院内で

 本稿は、前号(2018年12月号)に掲載された「診療経過の整理は医療機関自らが院内で行うべき」の続編である。前号では、「診療経過の整理は誰が行うか?」に関して、院内、院外の第三者、患者側弁護士・警察官の3種類に大きく分類した(修正した比較表1を参照)。

 昔ながらの医療刑事捜査においては、捜査担当の警察官が(慣れないながらも)診療経過の整理を、(いつもの調子で)自白を迫りながら行う。民事医療過誤訴訟においては、証拠保全などによって得たカルテなどを基礎に、(専門的な知識を持ち豊富な経験を積んで手慣れている)患者側代理人弁護士が診療経過の整理を、(丁寧に)行っている。

 しかし、そのような担い手らが診療経過を整理して刑事捜査や民事訴訟でやって来るのは芳しくないという反省から、中立・公正な院外の第三者がそれこそ第三者型の委員会を組織して、その委員会が事故調査を行って診療経過を整理するというスキームが提唱された。「中立」を指向するために、政策形成の過程でどうしても患者側代理人弁護士も委員として入れざるを得なくなり、結局、患者側代理人弁護士と医療側弁護士とがセットで委員となるという折衷的な編成に落ち着くことになってしまう。その実例は、産科医療補償制度の原因分析委員会として、今でも残っている。

 しかしながら、その政策スキームでは制度目的として「紛争の防止・早期解決」をも位置付けていたのではあるが、その点については10年経ってみて(残念ながら)大失敗に終わってしまった。今となっては、もう古いスキームに感じられよう。

 結局、事の必然として、現行の医療事故調査制度では「院内医療事故調査」を中心に据えることとなった。診療経過の整理は、まさにその診療を自ら行った医療機関において、自ら院内で行うべき、とするものである。

 今となっては当り前のこととも捉えられよう。当然過ぎるくらい当然のことではある。しかし、第三者型委員会を万能と捉えていたかつての風潮と比べると、隔世の感と評し得よう。

2.各種の院内事故調査マニュアル

 診療経過の整理は医療機関自らが院内で行うべき、というコンセプトで、識見がある諸先生方によって各種の院内事故調査マニュアルが既に公刊されている。

 代表的なものをほんの少しだけ挙げると、日本医師会作成の「研修ワークブック 院内調査のすすめ方」、松村由美氏編著の「京大病院 院内事故調査の指針 医療安全管理部における対応の実際」、飯田修平氏編著の「院内医療事故調査の指針」などがある。いずれも優れたものではあるが、それぞれに力点などの違いもあるので比較しつつ参照されることをお勧めしたい。

 なお、院内調査そのものではないが、院内調査の在り方に大きな影響を与えるものとして、医療事故調査・支援センターが独自に実施する「センター調査」がある。その「センター調査」のやり方について、医療事故調査・支援センターでは「センター調査・報告書作成マニュアル」を定めているらしい。もちろん、有識者が集まって作成したものであろうから、おおむね良好な内容ではあろう。しかしながら、かつてのスキームそのままの「個々の医療行為に対する医学的評価」や「標準的医療からの逸脱」といった類いの名残が見られ、もう一つ新しいスキームに移行し切れていないように感じられる。徐々にでも構わないので、着実に新しいスキームに移っていってもらいたい。

比較表1:診療経過の整理は誰が行うか?
(注)前号に掲載された(比較表1)と同一であるが、1カ所だけ、「患者側弁護士」という表現を「患者側代理人弁護士」に改めた。

3.事故調査・報告書作成に必須のポイント

 元に戻って、そもそも院内医療事故調査における必須のポイントは、何と言っても、「当該医療従事者のヒアリング」であろう。医療事故調査制度についての平成27年5月8日付厚生労働省医政局長通知(9頁)においても「調査の対象者については当該医療従事者を除外しないこと」、「当該医療従事者のヒアリング※ヒアリング結果は内部資料として取り扱い、開示しないこと。(法的強制力がある場合を除く。)とし、その旨をヒアリング対象者に伝える」などと明示されている通りである。

 さらに、院内医療事故調査を行った後に作成される「院内医療事故調査報告書」における必須のポイントは、何と言っても、報告書の「非識別加工」(注・「匿名化」よりも厳格)であろう。医療事故調査制度に関する平成27年5月8日付厚生労働省令の公布により、医療法施行規則第1条の10の4第2項に「当該医療事故に係る医療従事者等の識別(他の情報との照合による識別も含む)ができないように加工した報告書」と定めて、「非識別加工」が明文化されたのである。

 このように、事故調査においては「当該医療従事者のヒアリング」が、報告書作成においては「非識別加工」が、それぞれ必須のポイントと言えよう。くれぐれも法令を順守して、適切な院内事故調査を実施してもらいたいところである。

4.自律的な医療安全推進を

 以上、端的に「院内医療事故調査・報告書作成マニュアル」の要点を述べた。この目的とすることは、他律的ではなく自律的に、当該医療機関自身そして当該医療従事者自身が医療安全を推進していくべく活動してもらいたい、ということである。他律でなく自律こそが、本当に質・量ともにグレードの高い医療安全の推進に繋がっていく。

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