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公立・公的病院「再編・統合」リストが投げ掛けた波紋

公立・公的病院「再編・統合」リストが投げ掛けた波紋
病院だけではなく自治体や住民の反発も

厚生労働省は全国424の公立・公的病院について、「診療実績が少ない」として実名公表に踏み切り、再編・統合を促す病院のリストに掲げた。同省は医療費抑制の肝として、自治体などに来年9月までに対応するよう迫っている。とはいえ、身近な病院の存続を望む自治体は多い。決定権は自治体側にあり、国がどこまで切り込めるかは見通せない。

 「再編・統合候補病院リスト」は、9月26日の有識者会議「地域医療構想に関するワーキンググループ(WG)」(座長=尾形裕也・九州大学名誉教授)で厚労省が示した。リストは全国1652の公立・公的病院(2017年度時点)のうち、データを把握できる1455病院(いずれも重症患者向けの急性期病床がある施設)について、がん、救急、周産期、研修・医師派遣など9項目の実績を調べた結果だ。

 1455病院のうち、自治体が運営する257の公立病院、国立病院機構など167の公的病院は「実績が少ない」などと判断され、再編・統合候補として名指しされた。「医療費、人材の有効活用ができていない」というわけだ。

 地域別にみると、北海道(54病院、道内の49%)が最も多く、新潟(22病院、県内の54%)、宮城(19病院、同48%)と地方が上位を占める。厚労省は他の病院への統合の他、病床削減、急性期病床をリハビリなどの回復期病床に転換させることを促していく。民間病院が多い都市部は概ね名指しされた病院の割合が低かった。

「給与水準が高く統合効果が大きい」

 再編・統合の対象として公立・公的病院がターゲットにされたのは、安易に税で赤字を補てんする自治体が少なくない上、営業の自由が尊重され、国が口を出しにくい民間病院より言うことを聞かせやすい、というのが理由だ。

 日本医師会総合政策研究機構の調べでは、18年度に公立病院に投じられた税金は約8000億円。厚労省はリストに挙げた424の病院中、257の病院は「民間病院で代替できる」と分析している。同省幹部は「公立病院は看護師ら職員の給与水準が高く、統廃合の効果が大きい」と漏らす。

 日本では、約8000ある総病院数の約7割を民間病院が占める。医療費がかさむのは、コントロールをしにくい民間病院が圧倒的多数を占めることも大きい。リストに実名をさらされた福岡県の公立病院関係者は「民間病院の統廃合に触れないのは不公平だ」と不満を口にする。

 18年度の概算医療費は過去最高を更新し、42・6兆円に達した。日本に入院ベッド数は約125万床(18年時点、精神や結核を除く)ある。人口1000人当たり13・05床と米国(2・77床)など欧米各国を大幅に上回っている。中でも急性期病床に、本来なら回復期病床に入院すべき慢性疾患の高齢者が多いことが医療費を押し上げている要因の1つと指摘され、病床再編は医療政策の最大のテーマの1つとなっている。

 厚労省の推計によると、25年に必要とされる病床数は119万床。今より6万床程度減らす必要がある。とりわけ急性期は20万床減の40万床が適正数としている。また、急性期病床を削減すると同時に、回復期病床への転換も進めていくことが求められている。

 このため厚労省は14年以降、全国を339の区域に分け、公立・公的病院を軸に再編・統合を通じて病床の削減・転換を目指してきた。区域ごとに日医や病院団体などで構成する「調整会議」を置き、具体策を詰める手法だ。だが、「お上から強制的に何かされると感じさせる」(中川俊男・日本医師会副会長)などと医療界や自治体の反発は強く、進んでいないのが現状だ。

 厚労省は都道府県に「地域医療構想」を作成させ、病床削減策を打ち出してもらう意向だったが、期限の今年3月末までに大きな動きはなかった。業を煮やした根本匠・厚労相(当時)は5月、経済財政諮問会議で「再編対象病院の実名公表をする」と表明、同省はデータの精査に着手していた。

院は「地域の実情」テコに反転攻勢か

 その結果、「再編・統合対象」として名指しされたのは、急性期の稼働率が低い北海道の滝上町国民健康保険病院や宮城県の石巻市立牡鹿病院など北海道・東北・九州が目立つ。また、急性期病床(高度急性期病床含む)が300床以上の大病院に関しても、国立病院機構函館(北海道)、済生会中央(東京)、日赤長崎原爆(長崎)など16病院に及ぶ。ただ、判断材料は手術件数などの数字で、機械的に決められた感は否めない。

 最も多くリストアップされた北海道は「広大で寒冷地という実情も見てもらいたい」(担当者)と困惑し、「広い大地に人口がまばらにいるのだから、病院も点在せざるを得ない。再編論は数字のつじつま合わせにすぎない」と訴えている。

 9項目以外の分野で健闘している病院からも「努力が反映されていない」との不満が出ている。全国自治体病院開設者協議会の平井伸治会長(鳥取県知事)は、「分析データだけで再編統合を推進することは適当でない。強要はせず、地域の事情を考慮した議論を地域で行うべきだ」と強く求めている。

 09年、千葉県銚子市は「財政難」を理由に市立病院の休止を決めた。だが、住民の反発はすさまじく、市長への解職請求(リコール)が成立した。市民の男性(66歳)は「休止になっていたら、行く病院がなくなってしまうところだった。地域の病院をなくすなんて、とんでもない話だ」と話す。銚子市同様、他の自治体でも病院の統廃合には住民の強い反発が予想される。選挙を抱える首長にとり、病院をなくすことは大きなリスクとなる。議会の了承が必要となる自治体もある。

 今回の厚労省によるリスト公表は、自治体を法的に拘束するものではない。加藤勝信・厚労相は9月27日の定例記者会見で、病院再編について「改革の3本柱だ。地域医療構想、働き方改革、医師の偏在対策、この3つをしっかり進めていかなければ次の時代に対応する医療体制ができない」と述べる一方、「(リストの内容通りに)機械的にこうしろとかああしろと言うつもりはない。地域特性とかも含め、地域医療協議会でしっかりと議論をしていただきたい」と強調した。

 厚労省の有識者WGも26日、リストの公表自体は了承したものの、手術数などのデータだけでなく、地域の特性を踏まえた議論の必要性を主張。地域の実情を汲んだ結果、病床数が「現状維持」となることも認めている。自民党厚労族の1人は「病床削減が必要なのは間違いないが、上から目線の手法では進まない。来年9月までに結論を出せというのは無理筋だろう」と懸念している。

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