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【アメリカ】カイザーパーマネンテとマネジドケア②

【アメリカ】カイザーパーマネンテとマネジドケア②
マネジドケアとは

 米国の民間医療保険の現在の主流はなんといってもマネジドケアである。マネジドケアはマネジドコンペティション、つまり制度において競争条件が確保された中での競争である。マネジドケアの目的は、『アメリカの年金と医療』(渋谷博史、中浜隆、2006) によれば、下記の三つである。

 1.医療費と保険料負担の抑制を通して加入者拡大を図り、健康診断を含むプライマリケアを中心に医療を提供する。

 2.医療市場における競争と選択の機会を拡大させ、これにより医療の提供システムと保険システムを維持する。

 3 .医療保険の経営組織さらに経済と財政の安定化を図る。

 簡単に言えば、最初に受診する医師を決め、医師の治療行為に介入することで、医療費を安くし、医療保険料を安くするということになる。もちろんマネジドケアにおいても、月々払う保険料を低額にし、受診時の自己負担を多くする場合と、月々の保険料は高額だが受診時の自己負担を低くしている場合がある。

 マネジドケアの代表的な形態は、HMO(Health Maintenance Organization)、PPO (Preferred Provider Orga-nization)、POS(Point of Service)の三形態である。

HMO 

 HMOは全ての医療サービスが、HMOに参加している病院、医師などから提供されること、言いかえれば加盟していない組織/個人からのサービスは受けることができない仕組みで、保険者は医師に対して人頭払いで支払う。保険者は、加入者から医師、病院へのアクセスの制限や、医療プロバイダーの診療内容・診療期間に関する管理を行う。

PPO

 PPOは出来高払いだが、一定の割引率があり、疾患群別定額払いであるDRG/PPS方式を取っていることもある。HMOが参加医師以外のサービスに対して償還しないのに対し、償還額こそ減少するがこの組織に参加していない医師・医療機関からのサービス提供に対しても、PPOは償還を行う。つまり、患者に受診先の選択肢を増やしたものである。

POS

 HMOとPPOの折衷様式で、HMO的な部分は人頭払いなどの規制の強い支払方法を取ったり、参加医師によるゲートキーパー制度を厳密に施行したりしている。また、PPO的な部分はゲートキーパーであるプライマリケア医受診後に当該のPOS参加医師以外のサービスを受けることが可能であるということになる。

カイザーパーマネンテの特徴

 カイザーパーマネンテの特徴は、なんと言っても医療提供機関と医療保険者を所有している組織であるという点になる。保険者と医療提供者を同時に所有しているというと特殊な印象を受けるが、実は、米国では、IHN(Integrated Healthcare Network)という形で病院などの医療提供者がその地域の住民に医療保険を提供していることは少なくない。

 以前に触れたピッツバーグのUPMC (University of Pittsburgh Medical Center)や、この後で記載するジョンズ・ホプキンス大学なども保険者を所有している。これらの違いは、保険を提供している範囲によって①から④のパターンに分けられる。

 ①はカイザーパーマネンテのように保険加入者が非常に多く、保険者が病院を選ぶことになるパターン、②はUPMCのように地域の住民に自分の病院や自分のネットワークにある医療提供者を受診する場合に保険を提供するパターン、③はジョンズ・ホプキンス大学のように自組織の従業員が主な加入者であるが、地域にも開放しているパターン、そして④は従業員のみに保険を提供しているパターンである。

 実は日本でも、例えばパナソニック健保組合は松下記念病院を所有しているが、これは上述した④のパターンにあたる。

 日本において、カイザーパーマネンテは少なくとも少し前までは評判が芳しくなかった。その理由はアクセス制限にあると考えられる。つまり、上述したマネジドケアの HMOタイプが主となっているカイザーパーマネンテにおいては、保険加入者は全米各地にいるが、自ら所有する病院、あるいは契約している病院を受診するのが基本になる。

 従って、近くに自らがかかりたい病院がない場合が存在するのだ。つまり、アクセス制限がかかっていることになる。

 これは諸刃の刃であって、良いように解釈すれば、カイザーパーマネンテの理念に共鳴している医療機関をカイザーパーマネンテが選んでいるとも取れるし、逆に言えばカイザーの条件に合う医療機関のみを選んでいるとも言える。

 また、保険加入者側にしてみても、より適切な医療機関に行くことができるという見方もできるかもしれないし、近くにある医療機関に行くことができないという見方も可能なのである。

 日本において評判が悪かった理由は、やはり日本ではフリーアクセスであり、かつどこの医療機関でも同レベルであり、同レベルの医療を提供しているという、ある意味都市伝説のような風説が信じられていたからである。

 カイザーパーマネンテの規模は巨大である。会員:1180万人、従業員:20万8975人、医師:2万1275人、看護師:5万4072人、メディカルセンター(病院と診療所):39カ所(2017年10月統計)を誇る。

 さらに、2019年にはカリフォルニア州パサデナ(ロサンゼルス)にKaiser Permanente School of Medicine(メディカルスクール)を開校する予定で、従来とは異なったTotal Health Careの概念に基づいた教育を行うべく準備が進められている。

 カイザーパーマネンテの創設医師であるDr. Sidney Garfieldが提唱している「トータルヘルスケア」、すなわち身体、精神、社会的な健康(well-being)を推進するためであり、機能していないfee-for-serviceモデルからバリューベースのケアを提供するためでもある。

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